67 俺、マナのことが好きなんだな
「おはようございます!」
「お……はよう」
マナが、いつもより少しだけ明るく見える。
よく眠れた朝みたいに、声も顔色も、晴れやかだった。
(なんか……様子が……)
(でもな……プライベートだしな……)
松永はいつも通り厨房に入った。
───
小休憩のとき。
マナがふと口を開いた。
「そういえば……」
その声に、松永の身体がほんの少しだけ反応する。
ピクッと肩が上がったのを、マナは気づいていない。
「……いえ、なんでもないです。ごめんなさい」
(気になる……)
(でも、こっちから聞いたら……セクハラか)
そう自分に言い聞かせ、二人は何もなかったように仕込みへ戻った。
「今日の仕込みは………」
(付き合って表情が明るいのか……)
(もしかして断ったのか……)
レシピ本を開いたまま固まっていた…。
「……」
(仕事に集中しろ)
(30過ぎて情けない……)
───
仕事が終わったあと。
コーヒーをいれる湯気の音だけが静かに響く厨房で、マナがそっと言った。
「あの……実は」
また、松永の身体がビクッと動く。
今度は自分でもわかるくらい、はっきりと。
「なんだ?」
「この前……“好きじゃない人と付き合えますか?”って相談、したじゃないですか」
「……ああ、あったな」
(落ち着け……顔に出すな……)
「断ったんです、航を。ちゃんと話して、終わらせました」
「……そうか」
マナはほんの少しうつむいて、耳まで赤くなっていた。
声も小さくなっていく。
「……他に、好きな人がいるんで……」
マナがじっと松永を見つめる。
(えっ……なんでそんな顔をする?)
(いや……俺のわけないだろ……何を……期待している)
「マナ……」
「すみませーん!! お店ってもうおしまいですか??」
急にお店の方から声がする
二人してビクっと驚く
「えっ……あっ……すみません。お店の営業は終わってまして……」
松永は慌ててお店に向かう。
マナはハッとする
(私……危ない……言いそうになっちゃった……)
(多分片想いなのに……気まずくなるのイヤだな……)
松永が厨房に戻ってきた
「酔っぱらいのサラリーマンだったわ」
「さっきの話の続きだが……」
「あっ……あの! すみません! もう大丈夫です!!」
「お疲れ様です!」
「……あぁ。お疲れ様」
マナは素早く着替えて帰ってしまった。
──
松永は自宅でコーヒー豆をミル器で挽いていた。
「航くん、若かったな……」
豆を計量しながら、ぽつりと漏れる独り言。
(言い方にトゲがあったけど……まぁ、あれくらい、真剣じゃなきゃ言えないか)
(想いの強さを隠せないタイプなんだろうな……正直、ちょっと羨ましい)
計量スプーンを持つ手が止まる。
マナの言葉が、じわじわと蘇ってくる。
『他に、好きな人がいるんで……』
豆の香りが立ち始めるころ、ここ数日の厨房での自分の動きが浮かんできた。
スポンジの卵を割り間違えた。
仕込みのパウンドの種類間違えた。
(……新人がするようなミスして……)
(動揺なんてしないって決めてたのに……まるっきり振り回されてた)
それでもマナが厨房に戻ってきたとき、
『おはようございます』って、いつもと変わらない笑顔でいてくれた。
(……あの子、航を断ったんだよな)
(……安堵してしまった……)
そして、不意に言葉が口をついて出る。
「……あぁ。俺、マナのことが好きなんだな」
(……11歳下なのに……)
(でも、マナの真っ直ぐな目、素直な所、たまにふざける所とか……好きなんだな)
言ってしまえば、拍子抜けするほど自然だった。
どうりで、気になるわけだ。
妹みたいなもん?
違う。
最初から、どこかで“女性として”見てたんだ。
“気づかないふり”を、してただけだったんだ。
焙煎が終わったタイマーが鳴り、肩がわずかに跳ねた。
「……ったく、気づくのが遅すぎる」
それでも、少しだけ笑っていた。
(でも……こんな年上、マナの恋愛対象になるわけがない……)
(ずっと……この気持ちは隠すか……)
続く
お読み頂きありがとうございます。
大人の恋愛で進展がかなり遅くてすみません……。
※この話以降R15相当の性描写が出てきます。
前書きに注意書きしますが、15歳以下の方、苦手な方はお戻りください。
一度、「番外編 航とマナの17年」を何話か投稿しますが、興味ありましたらお読みください。
その後は、ケーキ屋さんの繁忙期の中、マナと松永が進展していきます。ちょっとしたトラブルも(*´艸`*)ぜひお楽しみに♪
☆☆☆☆☆を軽い気持ちでポチッとして頂けると飛び上がるほど嬉しいです!
イマイチでしたら★
面白いと思って頂けたら★★★★★
今後の作品作りの為にご協力お願いします(>ω<)
タルトタタン




