61 幼馴染の訪問
店の扉がカラカラと軽やかに開く
「マナ!」
朗らかな声が響き、マナが驚いたように顔を上げる
「あっ、航!? なんでここに!」
「近くまで来たから寄ってみた」
松永はスポンジの型の準備をしながら、そのやり取りをなんとなく眺めてた
(……妙に親しげだな)
航はクールな顔立ち、
爽やかな雰囲気を纏いながら、軽やかにマナへ歩み寄る。
マナもそれに応えるように明るく笑い、楽しげに言葉を交わす。
航は厨房にいる松永に気づくと軽く会釈した。
「そういえば、一昨日勝さんから野菜貰ったわ。ありがとう」
「そうなんだぁ」
(……んっ……親公認の仲なのか……)
「昼飯まだなら、ご飯行こうよ。休憩までもう少し?」
「今からちょうど昼休憩なんだ。じゃあ行く!」
マナは嬉しそうにエプロンを外し、
「お先休憩頂きます!」
航の背中をポンポンと叩きながら
「この前、航うちに来た時さ―……タオル忘れたでしょ?」
「そうだっけ? 悪い」
楽しそうに店を出ていく。
(……うちに来た時……?)
松永は静かに、ふっと息を吐いた。
(……若者同士の会話に……なに聞き耳立ててる……)
けれど、手元の動きがふと止まっていたことに気づく。
───
昼休憩が終わるころ、店の扉が再び開く
「いや〜楽しかったね! マナ、明後日家まで迎えに行く」
「うん! わかった!」
軽やかに笑いながら、ふたりは肩を軽く叩き合う。
(明後日、家まで迎えに……行く……?)
(……俺は何を気にしてるんだ)
「あっ……ヤベ……」
(計量ミスった……こんなの何年ぶりだ…)
卵をいつもの倍割ってしまっていた。
航が店を出たあと、マナが厨房へ戻ってきた
「休憩ありがとうございました!……ふぅ……航、突然来るからびっくりしました」
「……彼氏か?」
ぽつり
思考より先に、言葉が口を突いていた。
「え?」
マナは驚いたように振り返る
「松永さん……今、なんて?」
松永は瞬間的に言葉を飲み込むが、もう遅い
「いや……ただ気になっただけだ」
マナは目を瞬かせ、次の瞬間、勢いよく手を振る
「えぇ!? 全然違いますよ! ただの幼馴染です!」
即答だった。
「親同士すごく仲良くて、農家同士なので野菜あげたり、近所なので、お互いの農作業手伝ったりするんです!」
松永は知らず知らず、ふっと息を吐いた
ほんの一瞬——胸の奥のざわめきが、静まる。
(……なんだ、この妙な安心感は)
マナはそんな松永の様子をじっと見つめる。
「松永さん、なんか変じゃないですか?」
「何が?」
「ん〜……なんか、いつもよりちょっと……変な感じです」
松永は短く息をつき、視線をそらす
「……仕事に戻るぞ 粉入れるの手伝って」
「はいはい!」
「……あれ? スポンジの量いつもより多くないですか?」
マナは明るい声で話す
「………。なんとなくだ」
目線をそらす
松永も同じように手を動かそうとする
けれど、「仕事に戻るぞ」の声が、
いつもよりほんの少し低かったことに、自分では気づいていなかった
続く




