表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

58/90

58 書くと描く

ホットコーヒーの1つをマナに渡し


「……さっきは感情的になってすまない……今どき、そんなクソ野郎がいる事が、許せなくてな……」

大きくため息をつく



「私、チョコペンの規則的に、全部揃えて書くのが苦手で……言われても仕方なかったんです」


「でも滑らかに曲線的に、花とか自由に描くのもすごく難しい。

そのクソ先輩はマナの才能に嫉妬したんだな」


「えっ…?」



「たまにいるんだよ……後輩の才能潰そうと苦手な所だけ指摘して、精神的に追い込んで邪魔する最低なやつ……」


「中には無理な仕事やらして、手や腕をだめにさせて、パティシエ辞めさせる……どうしょうもない奴もいる」


松永は目をつぶり、怒りを抑えていた。

ホットコーヒーをゆっくり飲み。


マナの目をまっすぐ見た。



「マナ! 自信をもっと持って欲しい。俺は仕事中、無口になる事はあるが、マナに怒ることはない。絶対怒鳴る事なんてしない」


「ありがとうございます……嬉しいです……」

マナは涙目になる


「………」

コーヒーをまた一口飲む



「……マナ、規則的な練習シート書くのやめて一度描きたいもの好きに描いたらどうだ?」


「えっ……?」



松永はわら半紙をマナの前に置く

「えーっと……なに描きましょう……」



「好きな花とか」

松永がふっと笑う



マナはちょっと迷い……


チョコペンを持つ

そして、勢いよく滑らかな線を描く。


震えはない 迷いもない。


たくさんの滑らかな線を先に描き、中心にひまわりやコスモス等の花の絵をスラスラと描き出した。



マナの目は輝き

活き活きと描く姿は綺麗だった。


松永は言葉を失った……。


マナは

規則的な【()く】のは苦手で

自由な【()く】のが、ものすごい才能だと、


マナ本人は気づいてない……。



「松永さん、描けました! 今、手震えなかったです!」

ぱっと明るく笑う



松永は優しい表情で

「すごい才能だな。マナにしか描けない」


「えっ……」

「私……才能あるんですか…?」



ずっと……


「才能がない、仕事が遅い、体力がない、生理になると使えない、不器用……」



「お前はパティシエに向いてない」

と散々言われ、マナは萎縮していた



初めて才能があると言ってくれる人がいて、

マナは内側から溢れる感情を押さえられなかった。


涙がボロボロと流れていた。


「私……ずっと…パティシエ向いてないと……思ってました…………すみません……なんか……」



松永はその姿を見つめながら、そっと手を伸ばしかけた。


小さな頭を撫でたくなった。



「よく……今まで耐えて頑張ってきたな…」


口に出たのはそれだけだった。


けれど、指先が髪に触れる寸前にふと動きが止まる。


(違う……今じゃない…) 


手はそっと、下に降ろす





「マナはパティシエに向いてる、お客さんを笑顔に出来る凄い才能がある」


「もっと自信もて」



「私……その言葉で……頑張れます」


マナは少しずつ落ち着いてきた



松永はハッ……とする。

(俺、マナってずっと呼び捨てしていた……)




「すまない……俺、今マナちゃんの事、呼び捨てにしてた」



「呼び捨てで良いですよ。嬉しいです」 

 マナは笑う


「松永さん、今までけっこう、呼び捨てで呼んでいましたよ」




「うっ……」

「そうだな……俺、余裕ないとマナって呼んでいたかもな」





『マナちゃん』と呼ぶことで、シェフとスタッフ──その一線を守っていた。



けじめでもあり距離でもあった。


けれど、気づいたら自然『マナ』と呼んでしまっていた。


(もう……いまさらだな)


「わかった……これからマナって呼ぶ」



「マナ、これからお客さんの誕生日プレート描いてくれないか?」


「はい!頑張ります」




(やっと、マナって呼んでくれた……少し距離が近づいた気がする…)





続く




 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ