57 嫌な先輩 R15
※R15 いじめ、パワハラのシーンがあります
仕事が終わり、マナはチョコペンの
基礎の規則的な模様の練習をしていた。
手が震えてうまく書けない。
マナは落ち込んでいた
「ダメですね……やっぱり、私には才能がないのかもしれません……」
手を止める。
「えっ?」
「なんでそう思う?」
「実は……」
マナはホテル時代の事を話だした
───
マナは学生時代からチョコペンが得意で
繊細な曲線的で自由な模様や花、筆記体の文字を描くのが得意だった。
雅ホテルのサービスに、女性のお客様から好評だとシェフの耳に入り
1年目では珍しく、皿盛りデザートの誕生日等のメッセージを任されていた。
集中していたその時、
バンッ!! とステンレス台を叩かれ、
マナはビクっと身体を震わせた。
皿が激しく揺れ、チョコペンを落としてしまった。
先輩の安藤に
「お前の技術じゃ、パティシエとしてやっていけない」
「甘いんだよ、お前……こんな不規則な模様でお客さんに出せるのかよ……この下手くそが……」
「お前、パティシエ向いてないよ」
その声が、今でも頭の中で響く
───
「松永さん、私……昔、こんな風に言われて、チョコペン持つと震えちゃって……」
小さく呟くように、過去の話をする
「……なんだそいつは…」
マナは驚いて松永を見た。
松永は真っ直ぐマナをみつめる
「そいつの言葉に、何の価値がある?」
冷たいわけじゃない
ただ、怒りを抑えたような声だった。
マナは息を飲む
「すまない……マナに怒ってない。マナは、ちゃんと積み重ねが出来ている……過去じゃなくて、今を見てほしい」
松永は髪をかきあげ
「……もうそんなくだらないやつ、忘れな……」
「コーヒー用意する……」
松永はそれだけ言って、
無言でコーヒーを淹れ始めた
次回へ続く




