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43 マナ、こっち来て

それから1週間後、

カラカラとお店の扉が開いた 


女性の姿をみてマナがハッとする

 


「松永さん!松永さん!」

慌てて松永の白衣の裾をグッと引っ張る。


「ん?……急になんだ?」

 

そして小声で松永の耳元で囁く

「松永さん!先週のあの人です」

 


「あぁ……あいつね」

今まで見たことのない鋭く冷たい目を女性に向ける

 



マナは固まる

 (松永さん…すっごく怒ってる。こんな顔初めてみた)


「俺、接客するから、これ代わりに洗ってくれるか?」

 




松永は微笑んで厨房から出る

「いらっしゃいませ」


(接客モードの松永さんだ…)

 


「ちょっと…この間ここのケーキ買ったら虫が入っていたわよ」


「申し訳ございません…」

「気持ち悪くて他のケーキが食べれなくて全部捨てたわ!返金してちょうだい」

 


「申し訳ございませんでした……ちなみにどちらのケーキに混入していましたか?」

 

女性は目が泳ぎショーケースを指さす。

「え~と、このフルーツのタルトよ」

 



「……」

一度黙る松永

 

「そうでしたか…」


「そうでしたかじゃないわよ。不快にさせたんだからその時買ったケーキ全部返金しなさいよ!」

 


「ではお客様がケーキを買われた日付と時間を教えていただけますか?」

 

「えぇ…?え~と忘れちゃったわ……なに?客を疑ってるの?失礼ね!」

 

「失礼致しました。一度確認してから返金したいと思いまして……日付お伺いしてもよろしいでしょうか?」

 


「えっ…え~と…一昨日よ」

「あれ…おかしいですね……水曜日なので定休日ですね」微笑む松永

  


「えぇ…。え~と間違えた…その前の日よ」

「では火曜日にご来店頂いたのですね」

 


「そうよ!そう、火曜日にこのフルーツタルト買って虫が中に入ってたの!だから早く返金しなさいよ」

 



「………」

口元は笑っているが目は笑っていない

  

「お客様……本当はフルーツタルト買われてないですよね」


「はぁ?」

 

「こちらのフルーツタルトは今日から出した新作ですので」


「えぇ…?」

 

マナは隠れて2人の様子をみていた


(うわぁ……松永さん口元笑ってるけど、めちゃくちゃ目が怖い…)



「…そう、そう違った!違うタルト!」

 


「お客様…」

 

「私は店に出す商品と数をすべて記憶しています。この1ヶ月、気温が高くタルトは一度も出しておりません。やっと気温が落ち着いたので今日から新作として出しました」

 

「う…」

 

「先日、返金対応した日についてですが

ケーキ9点の中にチョコレートケーキが含まれていましたが、

このチョコレートケーキ……実はその日しか出していません、予約が入り特別に用意した限定の商品ですから……先週買ったというのは厳しいですね…」 

 

「うぅ……もういいわよ…帰るわ…」

 

「待ってください…お客様」




スマホの画面を見せる

 

「今警察呼んでも良いんですよ」

 スマホの画面には“110”のダイヤルが表示されていた


冷たく鋭い眼差しで睨む

  

  

マナは裏でコソッと見ていた

 (松永さん…かっこいい…)

 

「悪かったわよ……5千返すから…それで良いでしょ」


くしゃくしゃの五千円札をショーケースに投げるように置いた。


逃げようとする

 


「ちょっと待て!」

松永の声が低く響く

 

ビクっと固まる女性

 

「マナ、こっち来て」

 (えぇっ…!……呼ばれた……)

 

恐る…恐る店に出る


 

松永はもう一度女性の方をまっすぐみる

「この子に謝れ」


(えっ……)



「謝ったら警察には連絡しない」

松永は鋭い目つきで睨む

 


「…ごめんなさい!嘘でした!!お金が必要だったの!もうここの店に来ないから!許して!」


「他の店でもやるな、次は容赦しない」

 

松永の顔を見て女性は足がカタカタと震えていた。


「す、すみませんでしたー」

素早く逃げていった。


 

深くため息をつく

 

「はぁ……迷惑なやつだな……ほんと」

いつもの松永に戻っていた

 


「松永さんって怒るんですね……怒らない人だと思ってました」


「いや……大切な従業員脅されて、泣かされて……俺だって怒る」

 


 (大切な従業員……) 

「ありがとうございます」


「あと、ずっと堂々としてましたね」

 

「ん?だって60代女性で、ここ1ヶ月以内でケーキ9個以上買った人いないからな」

 

「松永さんお客さんの事全部覚えているんですか?」 


「あぁ……だいたい、仕込しながらお客さんの顔見て、ケーキの数確認してる」


「えぇ!すごーい!そういえば松永さんが昼休憩の時も必ず、戻ってきてから、どんなお客さん来たか聞いていますよね」

 

「お客さんの求めるもの把握しないといけないからな」



 

松永はほんの少しだけ照れたように、マナを見る


「マナちゃん、もう少し俺のこと、頼れ…。休憩中でもすぐ駆けつけるから」


「……はいっ」


「よし、じゃあ、仕込しよう」 




(……『マナ、こっち来て』って……さっき、私のこと呼び捨てだったな……)


(松永さん気づいてないのかな……でも、ちょっと嬉しかった……)

 





次回へ続く

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