39 謝罪
店に着くと、松永はマナを客席に座らせた。
疲れた表情を見て、一瞬迷って、それでも静かに言葉を紡ぐ。
「今日は、家まで送っていくから。車取ってくる」
「えっ……あ、大丈夫です、私——」
少し驚いて立ち上がりかけたマナに、
松永は淡々とした声で言い添えた
「このまま運転して事故ったら、もっと危ないだろ」
声は静かだったけれど、その中に含まれた決意には迷いがなかった。
「それに、マナちゃんのお父さんたちに、もちゃんと謝りたい。ちょっと、待ってろ」
マナは止めようと手を伸ばしかけたが、
すでに松永は店の外に出ていった
──
数分後、黒い車が店先に止まり、助手席のドアがゆっくり開けられた。
「……お待たせ 乗って」
(……いつもの軽トラじゃない)
ほんの少し戸惑いながらも、マナは助手席に腰を下ろす。
静かに車が走り出すと、しばらく沈黙が続いた。
「松永さんの車って……軽トラかと思ってました」
「……あれは小林ファームから借りてるやつ
手伝いとか納品の帰りに、そのまま店寄るからな」
「これは俺の車 軽トラより乗り心地はいいかなと思った…」
「ありがとうございます」
その後は真剣な顔をして無口になる
松永はいつもより口数が少なかった
───
やがて車が止まり、家の前に出てきた。
父・勝と母・里美の姿が見えた。
マナが玄関に向かおうとすると、松永は先に降りて、深々と頭を下げる。
「……すみませんでした。大切なお嬢さんにケガをさせてしまって……本当に申し訳ありません」
「松永さん……怒ってないから、顔を上げて」
一瞬だけ迷う素振りを見せたが、松永はすぐには顔を上げなかった。
静かに続ける
「でも、自分の店でケガをさせてしまいました。責任は……僕にあります」
勝はまっすぐな目で、松永を見つめた
そして
「病院に連れて行ってくれて、ありがとう。またマナのこと……よろしく頼みます」
ゆっくりと顔を上げた松永は、何度も頭を下げた。
「……今度、栗が採れるのでもしよかったらまた、店で使ってください」
勝がふっと笑った
松永もほんのわずかだけ、微笑み返した
「マナちゃん、ゆっくり休んで、回復したら連絡して。朝迎えに行く」
頷きながら見送るマナに、松永は軽く会釈をして帰っていった
───
その晩、布団に入りながらマナは考えていた。
(……言われたこと守らなかったから、怒られると思ってたのに、松永さん怒らなかったな…)
(松永さんの背中、広くて温かった……)
───
翌朝には頭の重さも引いて、
「明日から復帰できます」と松永に短くメッセージを送った。
──
2日後の朝
玄関先に黒い車が静かに止まった。
「おはよう」
「おはようございます」
「……顔色、良くなったな。よかった」
「はいっ、ありがとうございます」
車のドアが閉まり、エンジンが静かにかかる。
リビングのカーテン越しに、その様子を見ていた里美は、そっと呟いた。
「……マナ、いい職場に出会えてよかったね」
その声はマナには届かなかったけれど、
その穏やかなまなざしは、まっすぐ背中に注がれていた。
次回へ続く
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