37 事故
9月中旬になり、昼間は夏のような暑さにが残るが、夜は風が涼しく過ごしやすい時期になった。
ショーケースにはモンブランが新しく追加された。
マナは午後から焼き菓子を焼いていた。
結婚式の引き出物の予約注文が入り、いつもより多くの焼き菓子を焼いていた。
(全然終わらない……)
ラック(※お菓子の鉄板等を何枚も置ける棚)
が埋まってしまい、1番上しか空いてなかった
(次焼きあがるのプリンかぁ…これ重いんだよね。下の方に置きたいな……どうしようかな…)
(この1番下の2枚の鉄板邪魔なんだよね……朝のミルフィーユ焼く時しか使わないのに…)
1番下にあった重い2枚の鉄板を1番上に移動した。
一度松永にこの鉄板は必ず1番下に置いてと言われていたが…。
松永はお客様と引き出物のラッピングについて打ち合わせをしていた。
(一瞬ならいいよね……焼き菓子全部移動させてから元に戻そう)
しかしその日はテイクアウトのお客様が続けて来てマナは重い鉄板の事をすっかり忘れていた
「今日は忙しいな…」
テイクアウトのお客様が帰り、焼き菓子をばんじゅうに全て移動し冷凍庫にしまい、プリンは水気を拭き冷蔵庫に移動させた。
「やっと終わった」
マナは伸びをする。
その時
ズボンのポケットからボールペンを落としてしまった。
ボールペンはラックの下に転がり…
しゃがんでマナは手を伸ばして取ろうとした。
松永は打ち合わせのお客さんが帰り厨房に戻ってきた。
マナの肩がラックにぶつかった。
「危ない!!」
マナはえっ…と松永の方を見ようとしたが
ガンッ——!
強い衝撃
瞬間、視界が白く光った
頭の奥に響く鈍い痛みと、全身を走る痺れ
何が起こったのか、理解する前に膝が崩れる
頭の奥がぐらりと揺れた
遠くで誰かが声を上げている
(何か言ってる……でも、うまく聞こえない……)
視界がぼやける
力を入れようとしても、指先すら動かない
ゆっくりと倒れ込む感覚
重力に引かれるように、意識が遠のいていく
「───マ─…マナ!!」 「──…丈夫か─!」
……声がする
次回へ続く




