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35 マナの誕生日

仕事が終わり、厨房には静かな余韻が残っていた。

「松永さん、お疲れ様でした」


マナが片付けを終え、着替えに向かおうとした。


その時——


「マナちゃん」

松永が、冷蔵庫から小さな箱をスッと出してくる。


「?」


「21歳、お誕生日おめでとう」

「えっ」


マナは息を止めた

「松永さん……今日私の誕生日って知ってたんですか?」



「履歴書もらった時に見た」


マナは驚きながら、そっと箱を開ける。

そこに並ぶのは——綺麗なショートケーキ。


そしてトップには、シャインマスカットが輝いていた。


「これ……」


指先でそっとなぞる

「松永さん、私がマスカット好きなの、知ってました?」


松永はコーヒーを飲みながら、無言でマナを見つめる


「……。」


ふっと眉をひそめた

「いや……俺がいない間に、冷蔵庫のマスカットこっそり食べてるだろ」


「……えぇっ!?バレてました!?」


「ショーケースのケーキと在庫、合わないから」


「すみません……すみません……数個食べました……」


松永は、軽く肩をすくめる

「別にいいよ」



その何気ない言葉が、妙に温かく感じた


「持って帰って、親御さんと食べな」


マナは、ケーキを両手で抱えながら、小さく笑う。


「……ありがとうございます、松永さん」



しばらく箱を見つめる。

そして、ふと思いついたように聞いた。



「そういえば松永さんのお誕生日はいつなんですか?」


「えっ……俺はいい…」


「お祝いしたいです。教えてください」

「いや、30過ぎてそんな……祝うものじゃないだろ」



「えー、誕生日は大切な日ですよ。教えてください」


松永は目線をそらし、少し考えてから答えた

「……10月」


「来月なんですね!日にちは?」

「……10日」



「私とちょうど1ヶ月違いですね!」

マナは嬉しそうに微笑んだ。


「いや……俺1人だし、ホールケーキとか食べきれないし……お祝いとか大丈夫だから…」



マナはニヤニヤしながら言った

「1ヶ月後、楽しみにしてください!」



松永はため息混じりに返す

「あぁ……」


少し照れてるようにみえた

 



───



車に乗り、助手席に置いたケーキの箱をちらりと見た。


「……松永さんが、私のために作ってくれたなんて」

ふっと微笑む。



箱を開けると、シャインマスカットが美しく並び、絞りのデザインは店の通常のものとは違っていた。


(やっぱり松永さんのケーキって、綺麗だな……)

目の前に広がるケーキの美しさをじっと見つめる。


そして、不意に松永の言葉が頭をよぎった。

「21歳、お誕生日おめでとう」


さりげない一言なのに、妙に胸が温かくなる  



(あれ…そういえば)

「私が21歳で、松永さんは来月32歳になるから……」


「えっ……11歳差……!?」


考えたことがなかったのに、急に現実感が増してくる。

(11歳って……結構離れてる)



今まで違和感なんてなかったのに、数字にすると——なんだか遠く感じる

「……11歳差かぁ……」



一緒に過ごしていて自然だったのに、急に大人と子供みたいに思えてしまう


「大人すぎる……」


マナは顔を覆った。


「いやいや、私何考えてるの!?」



好きだと自覚したばかりなのに、今度は年齢の現実を突きつけられる。


胸が妙にざわつく。



(松永さんは、私のことどう思ってるんだろう……)



───


家に着き、ケーキをカットする。


ゆっくりと、一口


シャインマスカットの爽やかな甘さが広がる。


(松永さんのケーキ、やっぱり美味しいな。心が幸せになる)


食べながら、ふっと心の奥にある感情を認める。


(やっぱり……好きだな…)


小さく息を吐いて、静かに微笑んだ——






次回へ続く

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