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33 男だけのパリの夏休み③

次の日

ホテル前でピエールの車に乗り込む。


「はじめまして、ピエール君今日はありがとう」日本語で話す


「よろしくね」

ピエールが笑顔で返す


「行きたい所あるか?」  

「今日もビストロで……普通のフランス料理食べたいかも」

松永がピエールに翻訳する



ピエールはすぐに答えた

「パリ郊外になるけど、ブローニュの森の近くに評判のいい店があるよ。予約なしで入れる」


「ピエールがいい店知ってるって」

「そこでお願いします」


ピエールはミラー越しにウインクした。



───



広めのビストロに入り、すぐに席へ案内される。

フランスの郷土料理が得意なお店らしい。


メニューを指差しピエールが松永に丁寧に料理の説明をする。


結局ピエールおすすめの

アルザス地方のシュークルート、マルセイユのブイヤベース、そして牛肉のタルタルステーキを注文する。


桂は心配そうな顔をしていた。

「脳みそ来ないから安心しろ」

「そうだけど…」


ピエールに昨日の羊の脳みそが出てきた話をすると、


腹を抱えて大笑いした


「ハハハ!そんなに精力つけたいのかい!?たいきの事襲うなよハハハ!」



(フランス人は下ネタ普通に、世間話みたいに話すからな……桂に翻訳するのやめよ…)



「ピエール君なんて?」

「……大変だったねって」




───


料理が運ばれてきた。


桂は、タルタルステーキを半分にカットし、中を確認した。ユッケのように粗切りされた牛肉の中心は赤く冷たかった。


「まっちゃん、この牛肉、生焼けじゃない? 中、冷たいし」  


「表面だけ軽く焼いてるステーキだよ」

ピエールがウインクする


松永が通訳すると、桂は少し驚きながらも頷いた。


───



ピエールが赤ワインを飲みながら、ふっと息をつく

「えっ、ピエール君車で来たよね? ダメだよ」

ピエールはニヤリと笑い

「フランスはワイン1杯くらいじゃ捕まらないよ」



「ほんとかよ…本人は大丈夫って言ってるけど…」


「日本とは全然違うね……」



そう言いながら、ワインを飲むピエールを横目に食事を楽しむ



───



車で帰る途中、広い公園が見えた。

「おっ! ここ公園か? 広そうだな」

「散歩するか」


ピエールは真顔になり、静かに言った。

「やめたほうがいい」


「ピエール君、なんて?」

「やめたほうがいいって言ってる」


「なんで?」

フランス語で聞くと、ピエールは少し考えながら答える。


「ここ、ブローニュの森は表は広くて綺麗な公園だけど……。一歩裏に入ると売春婦がたくさんいる。君たちアジア人が歩いてたらカモにされるから、降りないほうがいい」



松永はうまく聞き取れず、ジェスチャーで分からないと伝える。


ピエールは、どう説明すれば松永に伝わるか考え、

「……女、たくさん、危ない、S●X」

「……あー」


2人はようやく理解し、

ピエールはため息をついた



───


しばらく走ると、ピエールは再び真顔になる。

「たいき、車の鍵、全部閉まってるよね?」

「ん?」


後ろを向き、ロックを確認する。

「大丈夫」


ピエールは頷く



「どうした?」

「いや、車の鍵、閉まってるかって」


「すぐ分かるよ」

ピエールが鋭く目を細める


景色を見ると、パリの中心地とは異なり、

まるで東南アジアの街のような雰囲気になっていた。

路上には、座って物乞いをする人がたくさんいる。

「治安、悪そうだな……」



信号で止まった瞬間——



ダン!ダンダン!! バンバン!!バン!


数名の男たちが車に寄ってきて、窓を叩く。


「うわっ! なんだ?」


何かよこせとジェスチャーしている。



「絶対扉開けるなよ! 引きずり出されるぞ!」

ピエールが声を荒げる


信号が変わると、ピエールは急発進した。

男たちは車にしがみつこうとしたが、諦めて去っていく。



3人は放心状態だった


「怖かった……」

「ビビった…」


「フランスはパリの中心部は比較的安全だけど、郊外に行くと治安が悪くなる」


「僕の友達、ボクシングやってたけど、黒人10人に囲まれて、すべて盗まれてパンツ姿になった」

ピエールは淡々と話す



「エグいな……」

「知らない場所へ行くときは、気をつけてね」


ピエールはホテル前に車を停める

「ありがとう、ピエール君」


ピエールは桂に近づきハグする

「おぉ!」

桂は固まる


そして桂の両頬にキスをする

「うわぁ!」

桂はビクッと身体を逸らす



「あぁ…ごめん…フランスの別れの挨拶、気を付けて帰って」



「じゃピエール、また後で」

ピエールはウインクをしてから車を走らせた。  



「部屋戻るか……」

「えっ…お前大丈夫か?」



桂が固まっていた

「ピエール君……そっちの方だった?キスされたぞ!!両頬!!」 


「落ち着けって……ビスだよ、ビス!フランスの挨拶だよ。親しいと頬同士合わせたりキスしたりする。俺もマダムやスタッフの子と毎朝してる」 


「えっ!?まっちゃん毎朝フランス人の女性とキスしてんのか!?」


「いつの間にか、ませやがって!!てかピエール君今日会ったばっかりだよ!?キスだったよ?」


「さぁ…文化の違いじゃない?」

ハハと目線をそらす


(そういえば俺も最初の頃は桂と同じ反応だったな……慣れとは恐ろしい)



───




ホテル近くのパティスリーで買ったエクレアを食べながら、松永が口を開いた。


「明日から俺、仕事だ」


「いやいや、3日間も付き合ってくれてありがとう、まっちゃん。明日以降はマルシェとかスーパーでフランスの食材をいろいろ見ようと思う」



桂は頬を叩き真剣な顔をする

「……俺、決めたわ。日本に帰ったらフレンチを勉強して、ワーホリビザを取ってフランスで修業する」

「おぉ、そうか」


「いい旅だった ありがとう」


松永は少し笑う

「俺は、桂のこと誤解してたな。専門学校時代は、なんでも器用にこなすお前が、別世界の人間かと思ってた。でもこの3日間お前、けっこう人間らしかったわ」



「そうだね……いろいろあったね」

桂は苦笑する


「まっちゃんさ、俺のこと器用、器用って話すけど、 誠実に努力する姿がクラスでモテてたの、気づかなかった?」



「えぇ……!? そうなのか?」



桂はため息をつく

「まっちゃん、頭良いし、けっこう筋肉質じゃん。他の班の子が『松永君、彼女いるのかな?』って聞いてたし、同じ班の酒井さん、絶対まっちゃんのこと好きだったよ」



「え! そうだったのか? 本人に聞いたのか?」


「いや……俺の勘」

「なんだそれ……」


桂はニヤニヤしながら話す


「まっちゃん、その鈍感さ直さないと今後の恋愛苦労するぞ」

「あぁ…」


松永は時計を確認してイスから立ちあがった。


「日本、気をつけて帰れよ」

「ありがとう、まっちゃん本当に楽しかった」



松永は、ついフランスのクセで桂を軽くハグする

「うぉ!」


「すまない……つい」

「お前、日本で絶対やるなよ……」


「気をつける」


「じゃあ、今度会うときは日本か? フランスか?」

「どうだろうね。楽しみだね」


「じゃあまたな」

「じゃあ元気で」


こうして、男だけのパリの夏休みが終わった


───



その後、桂は日本で修業し、

ワーキングホリデービザを取得後、フランスの三ツ星レストランで働く。

労働ビザを取得して数年パリで働くことになる。



二人が再会するのは、また別の話——


番外編 男だけのパリの夏休み おしまい




次回へ続く


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