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27 懐かしい記憶

大樹たいきは、将来何になりたいの?」


母の優しい声が響く。


少年は嬉しそうに答えた。


「えーとねー、僕はパティシエになりたい!」


父が少し驚いたように微笑む。


「そうか、パティシエか」


「うん!クッキーたくさん食べたいから!」


「はは……」


優しい笑い声が広がる

あたたかい食卓

穏やかで、幸せな時間——


その瞬間、世界が消えた




―――――


「……はっ…!」


松永は目を開く。


「……くっ、はぁ……はぁ………」


天井を見つめる。

汗が額を伝い、頬は涙で濡れていた。


夢だった——

過去の記憶



「またか……」


指先で髪をかきあげ、深くため息をつく

静かな部屋の中で、ただ蝉の声だけが遠く響いていた。





――――



お盆休みの朝

松永は車を静かに走らせていた。


助手席には、花と小さなクッキー缶——


墓地に着くと、蝉の声が響く。



夏の日差しは強いのに、その場所だけはひんやりとしていた。



花を供え、水をかける

静かな時間が流れる——





  

――――



厨房には、コーヒーの香りと、夏の湿気が漂っていた。


マナはアイスコーヒーを手に取り、ふと尋ねる。


「松永さん、お盆休みは何をしてました?」


松永は片手でカップを傾け、静かに答える。


「……墓参りに行ってた」


「へぇ……」


マナは何となく続きを待つ。



しかし、松永はそれ以上何も言わず、ただカップを手にしているだけだった。


「ご家族とですか?」


「いや……俺一人だ」



マナは少し驚いた。

「……そうなんですね……ご両親は?」



ふと、指先がカップの縁をなぞる

「高校の時に、2人とも事故で亡くした……」


マナの呼吸が止まる


「……え?」


聞き間違いかと思った。


でも、松永はそれ以上何も言わず、ただ厨房の奥へ視線を向けている。


マナは戸惑いながら、小さく声を落とす。


「すみません……失礼なこと、聞いてしまって……」


「いや……大丈夫……」


それ以上、マナは何も聞くことができなかった。


「……マナちゃんは何してた?」

松永がふっと微笑む


「私は……岐阜のおばあちゃん家に行ってました」


「そっか、休めたようで良かったな」


「親戚の子たちと川遊びしました」


「岐阜は川が綺麗だからな」


「でも、お盆暑すぎて、多治見たじみは最高気温39℃とかでしたよ。後半は、暑すぎて家から出られませんでした」


「はは……名古屋も38℃だったよ」


2人とも、自然と笑う。


マナは、ふと松永を見つめた。


(……松永さんが落ち着いて見える理由……)


(それはただの性格じゃなくて、きっとこれまでの時間の積み重ねなんだ……いろいろ苦労したのかな…)


静かな気づきが胸をかすめる


---


「……そろそろ仕込みするか」


「はい!」


2人はカップを置き、いつも通りの仕込みへ戻る


それでも——


今日の時間は、どこかいつもとは違う余韻を残していた

 



次回へ続く

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