23 桃のコンポート
マナは仕事を終えた後、コンクールの試作に取りかかった。
収穫したばかりの桃の皮を剥き、グラニュー糖と水で煮る。ゆっくりと火を入れながら、桃のコンポートを作っていく。
糖度は高めに配合し、瓶に詰める。
大きな鍋で湯を沸かし、再加熱して脱気を行う。
瓶の蓋がへこむと、空気が抜けた証拠——
糖度を高くし、瓶詰めで脱気することで、
要冷蔵で半年以上保管できる。
マナは生の桃を使うか迷った。
しかし、書類審査を通過した場合、東京の大会は来年3月、生の桃は用意できない。
最初からコンポートを使用しようと考えた。
薄くスライスした桃を丸め、周囲に一枚ずつ重ねる。桃で作られた薔薇が、静かに形を成す。
マナはその薔薇を冷蔵庫へとしまう。
───
次に、桃の皮と水、砂糖を加えて軽く加熱する。ふやかしておいたゼラチンを加え、最後に桃のリキュールをひとさじ。
薄い桃色のゼリー液が、透き通るように仕上がる。
マナは冷凍庫から、前日に用意したアールグレイ生地と桃のムースを流したセルクル型を取り出した。
松永のアドバイスを参考に、アールグレイ生地は1.5倍の厚さに、
桃のムースは半分の量に調整して仕込んだ。
固まったムースの上に薔薇を並べ、その上から桃のゼリーを流し込む。
冷蔵庫へ 固まるのを待つ——
───
「お疲れ様。一段落ついたか?」
松永が、アイスコーヒーとクッキーを用意していた。
「なんとか形にはなったと思います」
マナはカップを手に取りながら、息を吐く
この試作時間の終わりに、松永と休憩をとるのが好きだった。
仕込み中、口数の少ない松永と、仕事以外の話を気さくにできる時間だから——
試作も少しずつ完成してきた。
この時間も、もうあと少しで終わってしまう
そう思うと、少し寂しさがこみ上げた。
マナはふと、前から気になっていたことを口にする。
「松永さんって……今……彼女さんとか、いるんですか?」
(ん?…なんだ……いきなり…)
松永は淡々と答える。
「……いないよ」
思ったよりもあっさりしている。
マナはカップをくるりと回しながら、さらに言葉を続けようとした。
(マナからみて、10歳以上歳上の俺は、恋愛対象では絶対ないな……)
(質問の意図はなんだ…?)
松永が目を細める。
「……なんで聞く?」
その言葉に、マナの指先が止まる。
「えっ、いや……」
視線をカップへ落としながら、言葉を探す。
「なんとなくです……。仕事終わってから私の試作時間に付き合って、帰るのも遅くなってるので……彼女さんがいたら、悪いなって思って」
(なるほど……)
松永は、わずかに息を吐いた
「……そうか」
それだけだった。
なのに、妙に鼓動が速くなる。
(松永さん……彼女さんいないんだ)
マナはそっと深呼吸しながら、カップを口元へ運ぶ
「……もうそろそろゼリー、固まったんじゃないか?」
「あっ……はいっ!」
(……いけない! 集中、集中!)
マナはバタバタと立ち上がる
その背中を、松永はただ静かに見送った——
次回へ続く
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小説家になろうを始めて1ヶ月経ちました
スマホで仕事の合間に書いています
これからもいろんな方の書き方を勉強してコツコツ頑張ります
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