19 コンクール試作①
マナはカレンダーを確認した。
「今は6月中旬、コンクール応募締め切りが7月末……あと1ヶ月ちょっとか。うちの桃はまだ収穫できないしな」
悩んだ末、祖母の家の冷凍庫にあるカット済みの桃をもらい、お店へ持って行くことにした。
営業を終えた後、試作を始める。
(明日すぐ使えるように準備しとこう)
ボウルに冷凍された桃を入れ、グラニュー糖をまぶす。
一晩置けば、果汁がゆっくりと溶け出す。
ラップをかけ、冷蔵庫へ。
次に、アールグレイのスポンジ生地の準備に取りかかった。
マナは前日、生地の構想を練っていた。
昔、母が作ったアールグレイの生クリームに桃を添えて食べた記憶──
その香りと味の相性に、2人で感動したことを思い出し、スポンジ生地にアールグレイを加えれば、あの味を再現できるのではと考えた。
卵を割り、上白糖を加え、ミキサーボウルのまま湯せんにかける。
人肌に温まったら、高速で泡立てる。
その間にバターと粉の準備。
卵が白っぽくもったりしてきたら、中速に切り替え、生地を均一にさせる。
ミキサーを止め、粉を加え、ゴムベラでゆっくり混ぜる。
9割ほど混ぜたら、湯煎したバターを加え、さっくりと合わせる。
鉄板に流し入れ、ヘラで平らに伸ばし、高温のオーブンへ。
焼き上がりまで約12分——
マナは作業に集中していた。
一方、松永は自分から口を出さないと決めていたが、どうしても気になる。
マナの後ろを通るたび、バレないようにこっそりと様子をうかがっていた。
(もっと……最初から聞いてくるかと思ったが、しっかり自分で構想練ってるな)
(黙って見守るか……)
幸い、マナはその視線には気づかず、生地作りに没頭していた。
スポンジ生地を焼き終え、厨房を片付けたあと、マナは帰宅した。
自宅で過去の作品を見返し、ノートに新しいデザインを描き始める。
試作のイメージが、だんだんと形になっていく
───
翌日
仕事が終わった後、再び試作を進める。
冷蔵庫から前日に準備した桃を取り出し、ミキサーにかける。
なめらかな桃のピューレが完成した。
溶かしたゼラチンを加え、七分立てした生クリームを混ぜる。
ふんわりとした桃のムースができた。
昨日仕込んだアールグレイのスポンジ生地を、セルクルの底に敷き詰める。
その上から桃のムースを流し込み、急速冷凍庫へ。
約1時間後
セルクルを外すと、柔らかなピンク色のケーキが姿を現した。
マナはしばらくそれを見つめていた。
ようやく形になった初めての試作品
「松永さん……試食とアドバイス、お願いできますか?」
その言葉に、松永は一瞬だけ驚いたように目を向けた。
そして、わずかに口元を緩める
「……ああ、いいよ」
マナは気づいてなかったが、松永は確かに嬉しそうだった——
次回へ続く




