13 月のもの
※いじめ、パワハラのシーンがあります
いつものようにショーケースにケーキを並べ終わり、
小休憩の時に着替え室の自分の鞄の中身を確認していた。
「あっ……ロキソニン、家に置いてきた。最悪……」
マナは生理二日目で、生理痛がひどくロキソニンを服用していた。
小休憩の時に服用する予定が薬を家に忘れてしまった。
時計を確認して、
(昼休憩まで後2時間くらい……少し我慢すれば、近所のヒノキ薬局に買いに行ける)
マナは小休憩が終わりそのまま仕事に戻った。
(自分の体調管理くらいしっかりやらないと……)
───
雅ホテル時代の事を思い出していた…。
勤務中に鎮痛剤の効能時間が切れてしまい、いつもより仕事が遅くなっていた。
男の先輩・安藤に怒鳴られる。
タイミング悪く休憩時間が終わった後だったので、ロッカーに置いてある薬を取りに行きたいと懇願すると
「はぁ…?お前本当に生理になると使えねぇな! 体調管理ぐらい自分一人でやれるようにしろよ! 迷惑かけんなよ!」
わざと大声で周りの人に聞こえるように言われ、恥ずかしさと厳しい言葉。
マナは傷ついた。
それ以来マナは限界まで我慢するようになっていた。
───
小休憩から30分
松永は仕込みをしながら、マナの異変に気づいていた。
(なんだ?顔色悪いな……声かけて良いのか)
マナは限界を越えてふらついてきた。
「マナちゃん大丈夫か?顔色悪いぞ……」
松永が折りたたみイスを広げ、マナを座らせた。
「…お腹が痛くて…」
下を向き、小さい声で
「……実は月のもので…」
松永はハッとする
「なんかおかしいなって思ってたんだが
声がけが遅くなった……すまない。薬とか持ってるか?」
マナが首を横に振り
松永は自分の前掛けをさっと取り
「こんなのしか無いけど、腰回り温めといて、俺鎮痛剤買ってくる」
(あぁ…よけい迷惑かけちゃった…)
自分が嫌になる…
───
松永は車で近所の薬局に着き、
白衣を着た男性に声をかける
「すみません。生理痛に効く鎮痛剤ありますか?」
男性の目が大きく開く
「……ご家族の方用ですか?」
「あっ……いえ、従業員の子が使います」
「普段飲まれている薬ってわかりますか?」
「……本人に確認します」
(しまった……スマホ、厨房に置いて来た)
「すみません……わからないです。お勧めありますか?」
(俺って……ケーキ作り以外は無能だな……)
白衣の男性は3種類の鎮痛剤を持ってきて、丁寧に説明する。
「まず、こちらが胃に優しいタイプです」
「次にこれは、早く有効成分が届きます」
「最後に、1番人気で売れている商品です」
(どれが良いのか……わからんな……)
「全部下さい」
「えっ、はい……わかりました」
(本人に選んで貰えばいいか)
───
15分程で、松永が戻ってきた
「遅くなった。これ……」
「本当にすみません……」
3種類の鎮痛剤をステンレス台に置き、
コップに水を入れ、マナに渡した。
松永はガス台の方にさっと行ってしまった。
マナは箱を開け服用し、下を向いていた。
「はい、どうぞ」
温かいココアをそっとステンレス台に置く。
松永は厨房内にある製菓用チョコレートで即席で作っていた。
「あ……ありがとうございます」
「そんなに限界まで我慢しなくて良い、きついなら今日は帰って休んでも良い」
「多分薬効いてきたら大丈夫だと思います。ご迷惑おかけしてしまいすみません…」
「そっか……無理するなよ」
マナはココアを飲んだ。
温かく甘いココアはとても美味しく
身体全体が染みわたるように温かくなった。
30分経ち、薬が効いていて、マナは仕事の続きをした。
松永は自分の仕事をしながらマナの体調を気にしていた。
お昼過ぎに
マナは洗い物をしていると松永に肩を軽く叩かれた。
「マナちゃん、仕込み間に合ってるから今日はもう帰って家で休みな」
微笑む
「いえいえ……私大丈夫です……さっき座って休みましたし」
「たまには大人を頼りな」
「いえいえ……私が自分で体調管理出来ないのが悪いんです」
マナは下をむく
松永は少し考えて
「休む事も仕事だ……今日ゆっくり休む事が午後からのマナちゃんの仕事だな」
「えっ…?」
「シェフからの仕事断れるか?」
松永はふっと笑う
「そ……そう言われたら……断れません」
「じゃ、家でしっかり休んで」
「ありがとうございます」
マナは深くお辞儀した
───
帰宅後、家の布団で横になり
マナはパティシエの世界でも、松永のような優しい人がいるんだと思いながら眠りについた。
次の日着替え室に入ると…
小さな薬箱が新しく置いてあり、
昨日の3種類の鎮痛剤とホッカイロが入っていた。
マナはとても心が温かくなった
(松永さん……さりげなく優しい)
次回へ続く




