12 丁寧な仕事
次の日
昨日の復習をしながら、ケーキを仕上げていく。
昨日よりかなり効率よく進み、予定より早くショーケースにケーキを並べ終えた。
二人でホットコーヒーを飲みながら一息ついていると、ふとマナが気づいた。
(あれ……道具の位置、昨日と違う?)
主に自分が使っていたゴムベラやスパチュラが、棚の下段に移動されている。手を伸ばさなくても、すっと取れる位置に。
「……昨日と、道具の位置変えました?」
スポンジの仕込みの準備をしていた松永が、何気なく返す。
「ん?この位置の方が取りやすいと思った」
マナは驚いたように一瞬黙って、それからそっと微笑んだ。
「……ありがとうございます」
「よく気づいたな。少しでもやりやすい方がいい」
───
スポンジ生地を仕込み終わり、マナを呼ぶ
「マナちゃんに、スポンジ生地の分割をお願いしたいが……」
「ちょっと……待ってくれるか?」
十五キロ近いミキサーボウルは、松永にとっては片手で簡単に持ち上げられる重さだが、小柄のマナには無理がある。
牛乳の空きダース箱をふたつ重ね、その上にダスターを敷いてミキサーボウルを安定させた。
「この高さならすくいやすいと思う。ボウルから直接じゃなくて、雪平鍋に一回すくって移せばいい」
「……わかりました!」
実際にやってみると、思ったよりずっとスムーズに分けられた。
───
仕事が終わりコーヒーを二人で飲んでいた。
松永が思いついたように話す。
「……マナちゃんは“生場”が向いてると思うな」
※生場=ケーキ屋の中でムースや生クリームを扱う場所
「えっ……」
「昨日から仕事見て分かった。丁寧で、タイミングの感覚もいい。基礎も出来てる。生場の簡単な仕込みならすぐ覚えると思う」
「……はい、がんばります」
専門学校で身につけた知識 ホテル勤務で得た実務、そして今は、松永の言葉と姿勢が、そのすべてをつなげてくれている気がしていた。
気づけば、自分でも驚くくらい自然に、生場の作業に取り組めるようになっていた。
——そして、静かに
気づけば、松永という人にも、少しずつ惹かれている自分がいた
次回へ続く
タルトタタンです
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