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11 ケーキ屋の1日

休みが明け、勤務日になった。

マナは気持ち早めに厨房に着いたが、厨房の電気はすでに付いていた。


車を降りると、風にのってパイ生地が焼き上がった香ばしい香りがした。


「おはようございます」

「マナちゃん、おはよう」


松永は銅鍋でカスタードを焚いていた。


マナは着替え、頭髪用黒ネット、シェフ帽子をかぶり、手洗い、アルコールを済ます。


「マナちゃん、冷蔵庫にカットしたケーキあるからフィルム巻頼む」


「わかりました」


パティシエの朝は当日販売するケーキの仕上げからスタートする。


苺のショートケーキ、ミルフィーユ、オペラ、柑橘のムースがすでにカットしてあり 


フィルムとトレー、飾りに必要な物が用意されていて、見本用に1つだけフィルム巻、飾りがされていた。

 

「見本1つ作った。これ見ながらフィルム巻、飾りつけ頼む」


「はい」


松永のケーキを作っている姿は初めて見る。


いつも話す時、優しい目と柔らかい印象だったが、ケーキを見る眼差しはキリっと真剣で、作業は丁寧だが速く次々とケーキを仕上げていく。


空気は昨日と違い、少し緊張感があった。

会話は淡々と指示して、必要最低限だった。



(接客してた時とか、この前の道具の手入れの時たくさん話してたけど、雰囲気全然違う。やっぱり松永さん職人だな……)




開店の30分前に

約10種類のケーキをショーケースに並べ終えた。


松永は2人分のホットコーヒーを用意し、カットしたケーキの切れ端をステンレス台に置いた。


ふと、柔らかい表情に戻る松永

「ちょっとひと息つこうか。これおやつ」


「はい」

マナは嬉しそうにミルフィーユの切れ端を食べる。


「そういえば、大切な事行ってなかったな。俺、不器用で仕込みとか集中すると、無口になるけど、怒ってないし不機嫌でもないから気にしないでほしい」


「わかりました!」


(やっぱり…さっき集中してただけなんだ……良かった)


「あと、例えばケーキ持ってバランス崩して倒れそうとかだったら、ケーキすぐ放り投げていい、怪我しない事。絶対」


「えっ…でもケーキが…」


「ケーキはまた作れば良い、怪我しないのが一番大切だから」

柔らかい表情で笑顔で話す




松永のお店では接客もパティシエがやる方針だった。

レジ打ちの仕方、ケーキを箱に入れるやり方を教わる。



11時の開店時間になり、テイクアウトのお客様が数人来て、松永はマナの横でゆっくり丁寧に教えた。


あっという間にお昼になり

「昼休憩行っていいよ。外で食べてきても良いし、何か買って着替え室で食べても良いよ」


「わかりました。お弁当持ってきたので着替室で食べます」


「了解」


休憩から戻ると、松永はお客さんから見えない冷凍庫前に厨房の折りたたみ椅子に腕を組んで座って休んでいた。


「休憩ありがとうございました」


「お疲れ様」


午後からはドリンクの淹れ方を教わる。


マナのメモ帳は1日でびっしりと埋まっていた。


次は焼き菓子等の包装等を指示され、


単調な作業は

『椅子に座りながらやっていいよ』と折りたたみ椅子を用意していた。


マナが焼き菓子を包装しているテーブル前で 

松永は卵を割り、ショートケーキ用のスポンジの仕込みしていた。


生地の泡立ての見極める眼差しは真剣だった。


薄力粉を加えて、しっかり腕全体を使い混ぜ合わせ、その後バターをゆっくり混ぜ合わせる。

スポンジ生地が出来ると、


大きなミキサーボールを片手で軽々しく持ち上げ、四号、五号、六号サイズのスポンジ型に素早く丁寧に生地を流し込む。

※四号十ニセンチ、五号十五センチ、6号十八センチ


三段あるオーブンの一番下の段に入れ、

焼き上がる前に洗い物を済ませ、ステンレス台をアルコールで消毒する。


「もうすぐスポンジ焼き上がる。ちょっと大きい音するから」


「はい」


オーブンが鳴り、扉を開けると卵の優しい香りが厨房内に広がった。


スポンジは焼き上がった時に型ごと

軽く叩きつける。

そうすると余分な蒸気が先に逃げ、スポンジが綺麗に焼きあがる。


松永はこの叩きつける時の音で、マナが驚かないように先に教えていた。


松永がひとつひとつ丁寧に型からスポンジを取り出し、わら半紙の上に移動していく。


スポンジが冷えて乾燥しないようにラップをして仕込み日を記載し冷凍庫に片付ける。


───

18時閉店

お店側の電気を消す


厨房全体の掃除が終わり、一日の勤務が終了した。

マナはあっという間に過ぎたように感じた。



松永は帽子を外しながら

「仕事終わった後、俺いつもコーヒー飲むけど、マナちゃんも飲むか?」


「ありがとうございます!」



温かいコーヒーを飲みながら

「初日疲れなかったか?」

「大丈夫です!」


「それは良かった」

「松永さん、教えた方すごく丁寧だったので」


柔らかい眼差しになる

「そうか? 普通だと思うけどな……」

「そういえば、俺仕込中でも話しかけていいから、返事は素っ気ないかもしれないが」


「わかりました」


(東京の雅ホテルと比べてはいけないけど……松永さんはやっぱり優しい)


「また明日、お疲れ様」


「お疲れ様です」



マナは1日を終えて安堵した





次回に続く

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