『恐怖心』
離宮に連れ帰られた【ぼくちゃん】は今更ながら恐怖が襲ってきたのか、ガタガタと身体を震わせ涙ぐんでいる。
「【ぼくちゃん】!!かわいそうに……」
「【ぼくちゃん】……」
【ぼくちゃん】を抱きしめたオフェーリアを膝にのせて抱いているマティアス。
怪我をした護衛隊の兵士たちはダグルを含めて治癒され、同じ離宮の部屋で控えていた。
「フェリア」
マティアスの言いたいことを理解したフェリアは、未だ泥や草汁などで汚れた【ぼくちゃん】をマティアスに委ねることにした。
……したのだが、離れない。
「【ぼくちゃん】身体を洗いに行こう?」
ふるふると顔を横に振った【ぼくちゃん】はさらに強くしがみついてくる。
「しょうがないわねぇ。
マティアス、もう私ごと連れていってちょうだい。3人で入りましょ」
【ぼくちゃん】は幼いとはいえ、一応雄である。
今までオフェーリアが彼と一緒に入浴することはなかったが、まあしょうがない。
「おう。【ぼくちゃん】今日はままも一緒だ。
そんなに強くしがみついたらままが怪我をするぞ」
ピクリと大きく身体が震え、そしてゆっくりと頭が持ち上がった。
「【ぼくちゃん】お顔を見せて。
んん、男前が台無しよ」
「……まま」
「うん、ぱぱも一緒よ」
ふたりを軽々と抱き上げたマティアスが湯殿に向かう。
その後を追うのは、今日は女官たちだ。
浴室の中で、慣れた手つきで革鎧を外したマティアスはいつものように湯をかけようとして、手が止まった。
【ぼくちゃん】がまたオフェーリアにしがみついている。
いつもなら【ぼくちゃん】との入浴は半分は遊戯に近いのだが、今日はそんな手荒なことはできない。
オフェーリアに頭から湯を浴びせるなどもってのほかだ。
それなのに。
「こんな甘えっ子はこちょこちょしちゃうぞ〜」
突然腋をくすぐられた【ぼくちゃん】は思わずのけぞった。
「キューゥ、キゥ」
笑顔だ。ようやく笑顔が出た。
たとえそれがほぼ強制的なものでも顔の筋肉が笑みの形を作った。
今はそれでいい。




