『森の魔女の小さな家』
兄の死によって落ち込んでいた気持ちが、自警団の兵たちに囲まれたことによって再び怒りの火がついた。
「確かに俺たちは関所破りをして、山を越えて来たさ!
でもそんなこと、皆がやってることじゃないか。
それに途中には山小屋があるって言う話だから、多少無理をしてやって来たんだ。
それなのに、その山小屋は俺たちを拒んだ。
あそこで山小屋の中に入れたら、兄貴は死なずに済んだんだ!!」
ギリギリと歯を噛みしめる男を前にして、兵たちは首を捻った。
「なあ、あの山に山小屋なんかあったか?」
「いや、覚えがないんだが……
なあ、あんたは実際にその山小屋を見たのか?」
「見たさ!!
実際、壁際の風を遮る場所で野営してきたんだ。
それに何度も何度も扉を叩いて、中にいる奴に入れてくれるように頼んだんだ。まあ、結界があったようで、無視されたがな」
「結界?
まさか、先輩、その山小屋って!」
新米がベテランに向き直り、手にした剣で山の中腹を指した。
「森の魔女さまの小さな家!?」
「ああ、そうか!」
自警団の皆の中で得心がいく。
確かにあの家は山小屋に見えるだろう。
「森の魔女さま?何だそれは」
どうやら幻だと断定されなかったようだが、今度は“森の魔女さま”と言う言葉に引っ掛かった。
「20年くらい前からあの山に住む世捨て人だ。
たまに村まで降りて来て食料品なんかを買っていくが、いつもフードを目深にかぶって誰もその素顔を見たものはいない。
その時に貴重な薬や薬草なんかを売ってくれる、俺たちの村にとっては恩人みたいな人なんだが……」
その話は男の怒りにまたまた油を注いだようだ。
「なんで!なんでそんな奴が俺たちを見捨てるんだ!!」
男の、握り締めた拳からは血が滲んでいる。
「なあ、5〜6年前になるかな、善意で家にあげた奴に居直られて襲われた事があっただろう?
あの時以来、結界が強化されてるんじゃないかな。
おそらくあんたの声も叩いた音も届いちゃいないんだ」
最後の言葉は目の前の男に向けたものだ。
彼は怒りと共に打ちひしがれている。
そして、彼にとっては何の慰めにもなっちゃいない。
そしてそんな彼にさらなる追い討ちが待っていた。
「悪いが……村の外で不審死したものを中に入れるわけにはいかない。
今すぐここから離れてくれないか」
「弔いの言葉もなしに?
埋葬はどうするんだ?!」
「本当に悪いが、このあたりは昔疫病が流行ってな、それからは色々神経質なんだわ。
村の外にある火葬場に案内させるから、そこで……頼むわ」
ベテラン兵の合図で新米が一歩前に出た。
そしてそれに続いて教会の神父が兵士の波をかき分けてやってきて、小さく祈りの言葉を呟いた。
「簡素ですがお別れの儀式を行いましょう」
神父の言葉に男はまた涙を流した。




