『騒動』
その夜遅くなって、ダンジョン入り口前のギルドでは大騒ぎになっていた。
『エクトル殿下が帰ってこない!』
午前中に共のものも連れずひとりでダンジョンに潜っていった王子が、深夜になっても帰ってこない。この時間になってもなしのつぶてと言うのは、何かあったとしか思えない。
翌朝、オフェーリアが元の屋敷で待ち構えていると、貴族社会では常識外れな早朝に王宮からの使者、今回は顔見知りの第3騎士団団長が訪ねてきた。
「ずいぶんな時間にどうなさったの?」
昨日のことなど、ころっと忘れていた(ふうを装って)オフェーリアは団長を居間に通した。
「緊急事態なので単刀直入に申します。
昨日、フェリア嬢はエクトル殿下とお会いにならなかった。
これに間違いはございませんね?」
「ええ、殿下がいらっしゃったのは知らなかったわ」
「実は昨日からお戻りにならないのです」
「まあ……!」
オフェーリアは目を見開いた。
「誠に申し訳ないのですが、もう一度詳しいお話を聞かせていただけませんか?」
「もちろんですわ!すぐに支度いたします」
オフェーリアは着替えのために場を外した。
その間の団長の相手はドーソンとなる。
「エクトル殿下は先触れもなくダンジョンに行かれたのですか?
そもそもなぜおひとりでダンジョンなどに……」
「一度切れた縁を再び結ぼうとなさったのだろう。
殿下はフェリア嬢を強く望んでいらっしゃる。
2人きりの場所で求婚するつもりで向かわれたのだと思う」
「でも不用意ですわね。
お怪我などなければよろしいのですが」
ドーソンの言葉を団長は不安いっぱいの気持ちで聞いていた。
長年の経験から、頭の中で警鐘が鳴り響いている。
ドーソンの楽観的とも言うべきもの言いよりも、顔色を変えて支度しにいったオフェーリアの方の反応が正常とも思える。
第3騎士団団長はともすれば浮かんでくる最悪の事態に、嫌な汗でじっとりと背中を濡らしていた。




