『ダンジョン内での……』
「もう屋敷は引き払ったと聞いた」
正確にはドーソンたちが住んでいるのだが。
「はい、もう本格的な引っ越しは済みました。
今は客間で世話になっています」
ここはダンジョンの中、もちろん腰掛ける場所などない。
2人とも立ったまま話しをしている。
「殿下もお聞きかもしれませんが、ダンジョン探査のため拠点を元の屋敷に置いて、こうして採取に来ております」
ダンジョンに来る時には魔獣の討伐しかしないエクトルには、オフェーリアの話す素材の話が珍しくて面白かったようだ。
思ったよりも話が弾み、時間が経っていった。
「フェリア嬢」
突然、エクトルの雰囲気が変わった。
そしてふたりの距離が縮まり、様子見していたオフェーリアは抱き込まれてしまう。
「殿下! おやめください!」
武人であるエクトルとただでさえ発育不良(?)なオフェーリアとの体格差は歴然だ。
身長差のあまり、すでに抱き上げられたオフェーリアは地面に足が着いていない。
「フェリア嬢、俺はどうしても諦めきれない。
フェリア……」
男の唇が迫ってきて、頸筋に口づけられた。
その初めての体験にオフェーリアは虫唾が走り身を震わせる。
それを自分に都合よく、オフェーリアが受け入れていると捉えたのだろう。
エクトルは身体を密着させて囁いた。
「ここで既成事実を作ってあなたを娶る。
フェリア……」
エクトルの手がローブの首元に触れようとしたその瞬間。
「クズが!」
怒りのこもった、常には聞いたこともない低い声。
それと共にまさか女の身でこれほどの力があるだろうか、という勢いでエクトルの身体は後方の壁面に叩き付けられていた。
「ぐはっ」
鳩尾のあたりのミスリルのプレートが凹むほどの衝撃。
エクトルは一瞬の呼吸困難ののちに息と共に血を吐き出した。
「ずいぶん安く見られたようね」
身体強化の魔法を付与されたオフェーリアの膂力は、最早人族が持つものではない。




