2話 ルシアのお願い
「る、ルシア様……」
「私は妹なんですから、呼び捨てじゃないと嫌です」
「それはさすがにご遠慮させていただければ……」
「遠慮する必要はありません。女王である私が良いと言っているんですよ? いえ、今はクリスの妹ですが!」
「しかし……」
「私はクリスお兄ちゃんにだったら、何をされてもいいと思っているんです」
ルシアはわざとらしく、ちらりと背後のベッドを見る。天蓋付きの豪華なベッドは大きくて、余裕で二人が寝られるだけの広さがあった。
ルシアは顔を真っ赤にして、俺を見つめる。
「私にいたずらしてくれてもいいんですよ? クリスお兄ちゃん?」
「あ、兄は妹にいたずらをしたりはしませんよ」
「14歳の義妹には手を出したくせに」
「俺はクレハと何もしたりなんてしていません」
俺はそこまで言ってから、失言に気付く。へえ、とルシアがにやりと笑う。
「つまり、クレハさんはまだ処女なんですね。てっきり、同じ家にいるんですから、もう最後までしたと思いましたけど」
「クレハはまだ14歳ですよ!」
「つまり、17歳の私ならいいってことですか?」
「そ、そういうことじゃなくて……」
ルシアはしばらくためらったような素振りを見せてから、急に俺に抱きついた。
その柔らかい胸の膨らみがぎゅっと押し当てられる。
「る、ルシア様!?」
「ね、クリスお兄ちゃん。私の初めて、もらってくれる?」
そう言って、ルシアは甘えるように俺にしがみついた。
ふわりと甘い香りがする。
えへへ、とルシアは笑った。
「私、クリスお兄ちゃんよりずっと年下だもの。本当は誰かに甘えたいの」
ルシアは天才魔術師として、王女として、高い能力を示し、常に重い責任を負わされてきた。
でも、ルシアは普通の17歳の少女でもある。
だからこそ、ルシアは昔から年上の俺を慕ってくれているんだろう。
でも、これはまずい気がする。
「ねえ、クリスお兄ちゃん。妹へのキス、してほしいな」
「そ、そんなことできません」
「むぅ。一度はしたくせに……」
ルシアは駄々をこねるように言う。
たしかにルシアから不意打ちでキスをされたことはあるけれど……自分からルシアにしたことはない。正確にはしようとしたことはあった。ルシアと一緒に風呂に入ったときに、ルシアとそういう雰囲気になった身体。
けれど、結局、クレハに止められた。
あのときは、まだ俺はクレハを一番大事にするとは言っていなかった。もしあの場にクレハが現れなかったら……今はどうなっていたんだろう?
ルシアは不満そうに俺を睨む。
「どうせ家ではクレハさんとイチャイチャとしてキスし放題なんでしょう?」
「それはですね……」
「図星なんだ? でも、私だってクレハさんに負けない妹に……恋人になれるもの。私としたあのときのキス、気持ちよくなかった?」
「き、気持ち良いといえば気持ちよかったですけど……」
「なら、もう一度、試してみない? クレハさんより、私のほうがクリスお兄ちゃんを気持ちよくさせられるかも」
完全に甘える妹、という口調でルシアがキスをせがむ。
でも、俺はさすがに首を横に振った。
「キスの気持ちよさで、クレハを選んだわけではありませんよ」
そう言うと、ルシアは傷ついたような顔をした。
「私が……恥ずかしいのに妹プレイをしているのに……キスもしてくれないんだ?」
「お、俺がやらせているわけじゃありませんよね」
「それはそうだけど……。ねえ、キスがダメなら、せめて妹として扱ってほしいな」
ルシアが真紅の瞳を振るませて、俺にねだる。
俺はためらい、結局、受け入れてしまった。
「わかったよ、ルシア」
俺がそう言うと、ルシアはぱっと顔を輝かせた。
「やっと言ってくれましたね? 妹プレイをした甲斐がありました」
「あれ? ルシア様、口調が戻っていません?」
「私は元通りに戻しますけど、クリス……クリスお兄ちゃんはそのままの口調じゃないとダメです」
「い、いえ、しかし、それは……」
「命令ですから。聞いてくれないと、いたずらしちゃいます」
「で、ですが、ルシア様! 俺はルシア様の臣下で……」
言いかけた俺の手を、ルシアが握る。そして、そのまま引っ張った。
俺が前のめりになって姿勢を崩し、同時にルシアも背後のベッドへと倒れ込んだ。
結果として、俺がルシアを押し倒すような格好になる。
ルシアの寝巻きは乱れていて、ルシアが妖艶に笑う。
「ねえ、クリスお兄ちゃん。いたずらしちゃうって言ったでしょう?」
ベッドの上に仰向けで倒れたルシアは、俺を誘惑するように見つめた。
俺はルシアの上にまたがる格好になり、その手を押さえている。
事故というよりルシアが仕組んだこととはいえ、第三者が見たら、俺がルシアを襲おうとしたようにも見えるかもしれない。
「る、ルシア様……」
「ルシアって呼んでください」
「あ、あのさ。ルシア……これは……」
「私の作戦に引っかかりましたね。これで、誰かメイドがやってきたら、きっと誤解してくれます」
「それだけはまずいよ。ルシアの王としての役目を果たすのに問題になる」
臣下の一人とただならぬ関係にあるなんて、噂を流されたらルシアの権威に傷がつく。
それはマグノリア王国の平和な統治を難しくすることにもなってしまうだろう。
けれど、ルシアは寂しそうに笑う。
「それでもいいんです」
「え?」
「言ったでしょう? 私、クリスになら何をされてもいいんです。本当に襲ってくれても……」
「そ、そんなことしないよ」
「私、処女なんです。だから、クリスに初めてを捧げて……赤ちゃんを生んでもいいんですよ? クリスがそうしたいと望むなら」
「俺にはクレハがいるから、そんなことできないよ」
「クレハさんには黙っておきます。全部、私が悪いんです。だから、クリスは何も気にせず、私を好きにしてくれれば問題ありません」
「し、しかし……」
たしかにこのままルシアを抱いてしまうこともできるのだろう。
俺からしてみれば、国の女王を手に入れることになる。
そして、ルシアは、昔からの仲間で、俺にとって大事な女性だった。
ルシアもそれを望んでいて、ルシアの魅力的な身体は俺の腕の下にあった。だけど、本当にそれで良いのかといえば……。俺にはクレハがいるのに……。
ルシアの甘い吐息が、俺を惑わせる。
「ねえ、クリス。私のお願いを叶えて」
ルシアは宝石のような真紅の瞳で、俺を見つめ、懇願した。
ルシアの大胆アプローチ……!?
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