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メイドとし・ふ・く

「起きないんだけど……」


 立ったまま眠りこけている老執事をご主人様が興味深そうに何度もつついたりしていましたが全く起きる気配がありません。

 この人はよくこんなので執事ができますね。


「ん、フィルがとっておきの呪文で起こす」

「乱暴はいけませんよ?」


 一応見た目はご老人ですからね。

 いくら無駄に生きて平均年齢をあげるだけの老害かもしれないからといって易々と排除してはいけません。やるならこっそり、バレないようにです。

 フィルは頭を揺らしながら寝ている老執事の近くへもよりますが、この老執事、なかなかに身長が高い。

 お子様体型であるフィルは老執事の半分くらいの大きさしかありません。

 それでも必死に背伸びをするフィルもなかなかに可愛らしいものがあります。脚がプルプルしてるのがまたポイントが高いですね。なんで機械人形オートマタであるフィルの足が震えているかは謎ですが。


「おじいちゃんごはんだよー」


 うわ、日頃淡々としか喋らないフィルが舌足らずな感じで甘えたように喋るというのは非常に気持ち悪いですね。リップス的にポイント低いです。いや、マイナスです。

 というかですね。そんなもので起きる人なんているはずありません。

 思わず鼻で笑ってしまいました。ご主人様も肩を震わしながら「フィル似合わない」と笑いを堪えてるようですが完全に顔が笑ってます。


「は! 晩御飯か?」

「え、おきた?」


 くわっという音が聞こえるような感じで老執事が眼を見開きます。

 どれだけ食い意地はってる方なんでしょうか。


「ん? 晩御飯がない。あなた方は?」


 老執事が周りを見渡すような、多分晩御飯をさがしているような素振りをした後に背伸びをしているフィルとそれを笑いながら見ていた私とご主人様に気づきます。


「武器商人のフルーティだけど……」

「おお、お待ちしておりました! 主人がお待ちです。ささ、こちらへ」

「取引の武器は後で届くからなね」


 先程まで寝ていたとは思えないほどのテキパキとした動きでゴーレム馬車の扉を開けて来ます。

 それに特に警戒した様子もなくご主人様が応じ馬車へと乗り込みます。

 そんな主人に続き私は荷物とアオイを後ろの荷物置き用の籠へと放り込むとフィルと共に馬車に乗ります。アオイを放り投げた際に「ふぎゃ!」という声が聞こえた気がしましたが気のせいでしょう。

 それを引きつったような顔で見届けた老執事が扉を閉めると御者台へと移動し、ゴーレム馬車はゆっくりと動き始めました。


「ご主人様、依頼主のところにこのまま向かうのでしょうか?」

「そうじゃないかな? 誰が出てくるか楽しみだね〜」


 ニコニコとご主人様は笑いますが私としてはそんなに笑えません。ご主人様の護衛としてはあんまりロクデモナイものは出て来て欲しくないものです。

 横ではフィルが探索ユニット(ニャンファイ)をぴこぴこと揺らしながら警戒しているのでそうそう危機には陥らないでしょう。フィルも真面目にしていますしね。まぁ、これはご主人様の危機=自分の危機に繋がると考えているからでしょう。どんな理由であれ真面目なのは良いことです。


「あ、きた」

「なにがです?」


 フィルがボソリと告げた言葉を確認しようとすると馬車が大きく揺れながら急停止します。急に止まりましたが私やフィルは微動だにしませんでしたがご主人様は勢いよく私の胸元へと飛び込んできました。魔導液体マジカルリキッドを補充した私の胸はそれなりの大きさに戻っていたのでしっかりとクッション代わりにはなったようですがぶつかった衝撃でご主人様は「キュー」という声を上げて意識を失ってしまったようです。


 し・ふ・く! の時間です!


 これは事故。そう事故なんですからご主人様の体のあちこちを触っても事故で通せるわけです。ええ! ご主人様の体に傷がないかを確認するのも護衛の仕事でしょうとも!

 手をわきわきとさしながらご主人様の体を触ろうとしたところで肩を叩かれます。ちょっぴりイラつきながら振り返ると無表情のフィルがいました。


「なんですフィル。今忙しいのです」

あね様、お楽しみのところを悪いけど敵?」

「なんで首を傾げながらの疑問形なんですか」


 まだ馬車が出てからさほど時間は経っていないはずなんですけどね。あっさりと場所がばれるとは。

 とりあえずは至福の時間を邪魔した奴らには地獄を見てもらうとしましょう。しかし、まあ、敵のおかげでこの至福の時間は得られたわけですし。優しくするべきか……

 馬車の扉を開き、私は悩みながら外へと姿を見せるのでした。

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