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転校生、山田くん  作者: ぱくどら
高校二年生
21/49

無自覚な彼女

 あれから吉村さんは休憩時間や放課後、みんなの視線ももろともせず堂々とやってきた。みんな訝しそうに睨んだり、ひそひそと嫌味なことを言ったりしているんだけど全く効果なし。昼休憩なんて、山田と橘さんと私で食べていた机に割り込むようになった。もちろん、山田の隣をキープして弁当持参。すっかり彼女気分に浸っているようで、ニッコニコの笑顔を山田に向けてる。


「山田せんぱーい、いつ家に連れてってくれるんですか~? 私いつでもいいんですよ?」


 甘ったるい声。耳を塞ぎたい気持ちを抑えて、黙々と箸を勧める。橘さんは物凄く怖い顔で吉村さんを睨んでる。けど、やっぱり効いてない。

 一方で山田はというと、相変わらず昼はパンを食べていて、持って来られた吉村弁当はかばんの中へ入れてる。


「んー準備が整ったら言うよ」

「えぇ!? 準備とか……! もう、先輩何しようとしてるんですか~!?」


 嬉しそうに笑ってるけども……それたぶん、実験の準備だよ。

 ……何か逆に吉村さんが可哀想な気がしてきた。


「ちょっと! 栗原さんの前でなんて会話してるの! いい加減にしなさいよ!」


 そんなことは知らない橘さんが、とうとう声を張り上げた。綺麗な顔が台無しの、眉間に皺を寄せ怖い顔になってる。

 ……うわー、みんなこっち見てるし。これは橘さんを落ち着かせた方がいいかも。


「た、橘さん。声が大きいです」

「栗原さんも黙って見てないで何か言いなさいよ! 彼女でしょ!?」


 ギロッと睨まれる。こ、怖い……!

 でも、怒ってくれてるのは私を思ってのことだよね。やはりここは何か言うべきか……。


「……あー……山田くん、吉村さん。私の前でイチャイチャするの、やめてもらえますか」

「え~私、別にいちゃついてなんかいないんですけどぉ。普通に山田先輩と会話を楽しんでるんですよ? 栗原先輩もお話すればいいじゃないですかー」


 ニヤリと笑みを見せた後、吉村さんは山田の顔を覗き込み「ねー先輩」と言って満面の笑顔を見せた。


「んーまぁ確かに話してるだけだよね。特に意味はないし。俺も栗原さんと橘さんと会話したいけど、二人ともすっごく怖い顔してるから……」


 そう言ってパンをのっぺらぼうの顔に押しつけ食べ始める。……こいつ、誰のせいで怖い顔になってんのかわかってない。

 ……本当空気読まない奴。

 すると――橘さんが勢いよく机を叩きながら立ち上がると、険しい顔で私を見下ろした。


「栗原さん! 食堂行きましょ!」

「えっ……あ、は、はい!」


 橘さんの気迫に押され、さっさと弁当を包み直して教室から出て行った。


    ◇    ◇


 食堂は広い空間に、パイプ椅子と長テーブルがいくつか並ぶ簡素なもの。食券を買って、それを調理場のおばちゃんに渡して少し待てばすぐに用意してくれる。私と橘さんが行ったときは、すでに食券に並ぶ列はなくなってて、代わりに椅子の空きがほとんどない状況だった。それでも席が空いた瞬間に二人で確保して、なんとか隣同士で座ることができた。

 

「あの……どうしたんですか、急に」


 そう言うと橘さんは顔をしかめて私を見た。


「昼休憩にあんなことを目の当たりにされて、美味しくお昼食べられるわけないじゃない。栗原さん、何とも思わないわけ!?」


 信じられないと言った顔で橘さんは見てくるんだけど……正直なところ、私は何も言えない。

 口出しするな、みたいな感じで言われたし、それにきっと山田には事情があるんだと思う。悩んでるって言ったのも、きっとその事情との兼ね合いもあるんだろうし……。かと言って、吉村さんを実験体として差し出していいのかって言われれば、そうじゃないと思う。……うーん。


「……色々考えてそうね」


 返事をせず黙っていた私を察したのか、橘さんの表情が和らいだ。


「まぁ宇宙人だし、私たち人間の感性とは違うのかもしれないわ。いちいちイライラしていたら、こっちの身が持たないのかもしれないわね。……私も栗原さんを見習って静観するよう努めるわ」

「ありがとうございます。本当にいちいち反応してるとストレス溜まりますから、ここはグッと堪えましょ」

「えぇ。……全く、なんで私たちが気を遣わなきゃいけないのよ」


 やれやれ、と小さくため息を漏らした橘さん。若干拗ねてる感じもあるけど、何だかんだで優しい人だなぁ。

 食堂にいる間、ここにあまり来なかったせいなのか、周りからジロジロと見られているような気がした。橘さんも同じことを思っていたようで、後から「やっぱり教室で過ごすのは一番ね」と愚痴をこぼしていた。


    ◇    ◇


 その次の日も昼休憩になると吉村さんは当たり前のようにやってきた。

 いつものように弁当を手渡し、山田の隣に腰掛け、ニコニコと笑顔を向ける。ぺちゃくちゃと山田に話しかけてるけど、橘さんと私は視線も向けずに黙々とご飯を食べた。異様な雰囲気に、クラスのみんながこっちを見てる気がする。でも気にしない。


「……山田先輩、なんか橘先輩と栗原先輩、怒ってませんか~?」


 甘ったるい声が嫌でも耳に入って来る。……ダメダメ、冷静に冷静に。


「うーん……」


 山田の唸り声が聞こえた。

 気にしない。絶対に箸を止めない。


「栗原先輩と橘先輩。黙々とご飯食べて、そんなにお腹すいてたんですか~?」


 フッと鼻で笑うような音も聞こえた。……イライラする。でも……! 煽りに乗っちゃダメ。

 チラッと橘さんを横目で見てみると――眉をしかめて怒りを必死に抑えてた。周りのみんなも、吉村さんの声が大きいためかざわざわとしてる。ていうか、上級生の教室で堂々と嫌味なこと言うなんて……吉村さんて度胸あるかも。


「おい! てめぇこの間から堂々と教室来やがって! 目障りなんだよ、帰れ!」


 突然――教室の隅の方で陣取ってた男子グループの一人が怒鳴り声を上げた。……あぁもしかして、橘さんを馬鹿にしたのが引き金になったのかも。

 その男子はズンズンとこちらに近寄って来ると、吉村さんのすぐ近くで立ち止まった。


「山田先輩、怖いです!」


 吉村さんが山田の腕に抱きつき身を寄せた。

 ……って、ちょっと! 


「栗原! てめぇも何か言えよ!」


 ……あ。

 お、思わず立ち上がったせいで何か言うって思われてしまった……!! み、みんなこっち見てるし……! こ、こうなったら言ってやる……!


「う、腕! 離しなさい」


 ――しん、となる教室。……え、何か間違ったこと言った?

 橘さんを見ると、おでこに手を当てため息を漏らしてる。吉村さんはフッと噴き出して、腕を離してない。……だから、離しなさいって。


「あ、ごめんね」


 山田だけは素直に応じて吉村さんの絡みついた腕を解きほどいた。が、吉村さんはなおも山田の腕を取り腕を絡める。ムッとした表情で山田を見つめた。


「どうしてですか? 今この教室で山田先輩しか味方がいないんです。私、先輩のためにお弁当毎日持ってきてるんですよ?」


 おいおい、何言ってんのよ。

 顔が赤くなっていくのが自分でもわかる。……我慢……我慢。


「ただそれだけなのに、どうしてこんな怖い思いしないといけないんですか? 先輩なら私のこと守ってくれますよね?」


 はぁ!? ……我慢できない!!

 ――と、口を開きかけた時、山田のしゃがれ声が遮った。


「俺が守りたいのは栗原さんだけなんだ。ごめんね」


 そう言って山田は再び吉村さんの腕を解く。

 教室の空気が一瞬止まった気がした。


「えっ……? ど、どうしてですか! 私、栗原先輩よりもめっちゃ頑張ってるんですよ? 山田先輩だって、私と一緒にいたいんじゃないですか? 家に誘ってあげるって言ったじゃないですか!!」

「うん、いづれ来てほしいな、とは思ってるよ。でも、それはそれ。吉村さんのことを守るってことにはならないよ。それに、栗原さんと比べるのはおかしいと思うけど」

「おかしくありません!! 絶対私の方が彼女として良いに決まってます!! それともずっと私のこと騙してたんですか!? ひどいです!!」


 吉村さんが涙目になって、両手で顔を覆った。……え、泣いたの?

 というか……ちょっと思いこみが激しいのでは。周りのみんなは、ざわざわと耳打ちしてるし。まさか意味をそのまま受け取って、山田が悪いってことになってるのでは……。いやいや、それはおかしい。私が言わなきゃ。


「吉村さん」


 教室が、しん、と静まりかえる。みんなから大注目されるけど、肝心の吉村さんは顔を手で覆ったままでこっちを見ない。

 ……声は聞こえるよね。言ってやる。


「私のことを悪く言うのは全然構いません。けど、山田くんに誤解を与えるようなことは言わないでください。確かに弁当を頼んだことは本当だとしても、ここで昼食を取り始めたのは吉村さんでしょう?」


 吉村さんは微動だにしない。


「それに、自分のクラスじゃない場所で毎日大きな声で話してたら、周りの人たちだって迷惑に思うのは仕方ないことなんじゃありませんか? 山田くんにひどいこと言われて傷ついたのかもしれないけど、だからって貶めようとするのはやめてください」


 か……噛まずに人前で言い切った! みんなから見られて恥ずかしいけど……よく言った、私!

 吉村さんは顔を手で覆ったまま、何も言わない――と思いきや、いきなり顔を上げたかと思いきや、広げていた弁当を片づけてあっという間に教室から出て行った。

 みんな唖然としていたけどすぐに賑やかになった。


「栗原、よく言ったな! 最初何言ってんだって思ったけど、ま、結果的に追い出せて良かったぜ!」


 怒鳴っていた男子は満足そうに笑みを見せて、自分の席へと戻って行った。

 周りで様子を見ていた子たちも、頬を緩め昼食を食べ始めてる。


「栗原さん、とりあえず座れば?」


 橘さんに促されすぐに座った。

 恥ずかしくて頬が熱い……。みんなから何か変なこと言われるかと思ったけど、別に誰も何も言って来ない。橘さんもニンマリと微笑んでた。


「……本当、言ってくれてよかったわ。あれだけ恥をかけば、あの子もう来ないでしょ?」

「そ、そうですかね……。私、変じゃありませんでした?」

「全然変じゃないわ。むしろ、もっと早く言ってほしかったかもね。……ねぇ、や・ま・だくん?」


 橘さんがわざとらしく言い放つ。見ると、山田は少し顔を俯かせた状態で微動だにしてない。

 ……寝てる? と思ったけど……段々顔が赤くなっていってる。どんな表情にしてるんだろ。

 

「ニヤニヤ笑って気持ち悪いわね」


 え、笑ってるの。


「だって……栗原さんが人の目も気にせず、俺のことかばうなんて……嬉しくて」


 ……え、嬉しいの!?

 ていうか、顔赤くなるのやめなさいよ……! こっちまで恥ずかしいじゃない……!

 

「だ、だって、おかしいじゃない。全部人のせいにするみたいで気に食わなかったの! ていうか、元はと言えばあんたが弁当なんか頼むからよ!」

「もしかして、俺のこと好きになってくれた?」


 なんつーことを聞いてくるのよ……!! 

 顔が熱い!! 橘さんもニヤニヤ笑ってるし! ……この、タコ宇宙人!!


「話を逸らすんじゃないわよ!! この……!」

「いててっ!! 抓らないで抓らないで!」


 頬を思いっきり抓ってやった。橘さんはクスクスと笑みをこぼし、それを見ていたみんなもやれやれと笑ってる。中には「また痴話喧嘩が始まった」や「山田くんにあんなことするの栗原さんだけだよねー」なんて声も聞こえた。いつもと違う声の内容に、また顔が熱くなる。……今までこんなこと言われたことなかったのに。


「栗原さん、その辺にしてあげたら? さ、お昼食べましょう。もう時間あまりないわよ」

「……あ、は、はい!」


 教室を出て行った吉村さんがどうなったのか気になるけど、追いかけて見るわけにもいかないし、気にしないことにしよう。それに、この場は治まったけど、今後山田が吉村さんと接触しないとは限らない。山田が実験体のサンプルやお嫁さん探しをやめない限り、吉村さんに接触しようとするだろうし、吉村さん以外の理想の女子が現れたら同じような行動を取ると思う。

 ……どうしたらいいだろう。いつかまた、山田に話してみよう。


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