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 クラビル領に魔物が出没したとの情報が回ってきたら、僕に依頼が回ってくる。

 頻度は一週間に一度とかだ。


「魔物退治に出発することになったみたいね」


 エネはすでにメイド服から外出用の服に着替えては外で待っていた。

 エネが僕について行くことは他の者たちにはすでに説明済みなようで、特につっかかってくるさ者はいなかった。一体、どんな説明をしたんだろうか。


「それで、魔物の出現する位置までどうやって移動するの?」


 エネの質問に僕は答える。


「走って行く予定だけど」

「走って……」


 エネは驚いていた。


「いえ、てっきり馬を使って移動をするのかと思っていたから」


 と、驚いたわけを説明する。


「奴隷の僕に馬なんて高価なもの与えられませんよ」

「それもそうか」

「走るといって魔術を使って走るつもりだったけど、エネは僕が背負えって移動すればいいかな。居心地は悪いと思うけど」

「いえ、私も速く走る程度の魔術なら習得しているから」

「そう、じゃあ着いてきてね」


 そう告げると同時に魔術を発動させる。


「〈加速〉」


 瞬間、僕の周囲の時間が遅くなる。

 そして、駆け足で魔物が出たとされる方角へ向かった。


「あれ?」


 数分後気がつく。

 後ろを見ても、エネがついてきていないことに。

 慌てて僕はその場で反転して元の位置まで戻る。 


「は、速すぎ……っ」


 戻ると、ぜーぜーと肩で息をしてはその場でうずくまっているエネの姿があった。

 そんな急いだつもりはなかったんだけどな。


「えっと、どうします?」

「やはり、背負ってもらうことにします」


 まぁ、そうするほかないよな。

 ということで、しゃがんでエネを背負う。


「ふむ、今、私の胸が奴隷の背中に当たっていますが、その感想を伺っても?」

「あまりふざけないでください」

「……なんか辛辣ですね」


 ちなみに、ちゃんと背中越しにエネの胸の柔らかさが伝わっているが、今はそんなこと気にする余裕はない。


「それじゃあちゃんと捕まっていてください」

「はい、かしこまりました」


 ということなので〈加速〉を発動させる。

 瞬間、速く移動ができるようになる。


「ず、随分と速いっ」

「そうなんですかね……?」

「いえ、どんな強化魔術を使ってもここまで速く走ることは不可能かと」


 他の魔術師を見た経験が少ないから、そう言われても正直ピンとこない。


「一体どんな魔術を使っているんですか?」


 そう質問されると困る。

 自分の魔術がどういう魔術に分類されるのか自分でも正直わかりかねている。


「オリジナルの魔術ですかね」

「……オリジナル」


 3種類8系統の魔術に該当しない魔術をオリジナル魔術呼ぶことがあるので、僕の魔術もオリジナルってことでいい気がする。


「やはり私の見立て通り、あなたの魔術は特筆に値する」

「そうなんですかね」

「ぜひとも私の国の宮廷魔術師としてお出迎えしたい」

「えっと、遠慮しておきます」

「今の奴隷という立場に不満を覚えていないの?」

「いえ、そうじゃなくて。僕にはすでに仕えるべき人がいますので」


 ティルミお嬢様のことを頭に思い浮かべながら、そう口にする。


「ティルミ・リグルット侯爵令嬢ですね」


 エネがさらっとそう告げた。

 正解を言い当てられた。

 まぁ、エネならこのぐらいのこと知っていてもおかしくないか。


「僕のことまで調べているんですね」

「それが仕事だから」


 と、悪びれる様子もなくそう告げる。


「ティルミお嬢様の王都での様子について、なにか知っていたりしませんか?」


 エネと協力関係を結んだのは、こうしてティルミお嬢様の情報を手に入れるためだ。

 もし、なにも知っていないようだったら、この関係も解消していいと思っている。


「もちろん知っている」

「ほ、本当ですか……っ!」


 つい声がうわずってしまう。

 ティルミお嬢様がどういう状況なのか、そもそも生きているのかさえ、ここにいるとわからない。


「王都にも私の仲間が潜伏しているから。当然、ティルミ・リグルット嬢の状況も仕入れてる」

「それで、ティルミお嬢様は今、どういう状況なんですか?」

「ハズディル宮殿ってところに軟禁されているみたい」

「軟禁というのはどういうものなんでしょうか?」

「監視はされているものの、食事もベッドも用意されているし、庭に出ることもできる。他の人が宮殿を出入りすることも可能みたい」


 なるほど、ひとまずティルミお嬢様は不自由ない生活ができているようだ。そのことにひとまず安心する。


「じゃあ、けっこう緩い軟禁なんですね」

「それだけ、ティルミ嬢の政治力が強い証拠かと」

「そういうことなんですかね……?」

「ええ、現国王は今すぐにもティルミお嬢様を処刑したいんだろうけど、できない理由がある。民衆と議会がティルミお嬢様の処刑を反対しているから」


 議会というは貴族たちが集まって政治をする場だ。国王に権力が集中しているとはいえ、議会を全く無視できるわけではない。

 下手に議会を無視して権力を行使すると、最悪クーデターなんてこともありうる。


「そもそも今回のティルミ・リグルット嬢監禁事件、大義があまりにも雑過ぎる。捕まえた理由は国家転覆罪だけど、彼女が軍を起こしたわけでもなければ、他の貴族に根回ししていた証拠があるわけでもない。国王は使用人の密告が証拠と言っていますが、それは証拠としてはあまりにも弱すぎる。だから、今回のティルミ・リグルット嬢捕縛事件は反発がどうしても多くなってしまう」

「よくわからないのが、なぜ、そうまでして陛下はティルミお嬢様を捕縛したんでしょうか」


 正直、この点がどうしても理解できなかった。

 リグルット侯爵家の当主は、ティルミお嬢様の父親、フアン・リグルットだ。だったら危険視すべきは父親のフアン・リグルットで、その娘を捕縛するのは少しズレているような気がする。


「魔術の才能は、本来の権力を逆転させる力がある。ティルミ・リグルット嬢はそれだけ魔術の才能に卓越しているということ。それに、彼女が勇者の血を引いていることは、恐らく国王陛下も把握している」


 ティルミ・リグルットが勇者の血を引いている王族だという事実は、一度エネの口から聞いたもののまだ信じられない。


「そういえば、ティルミお嬢様のご両親や弟は無事なんでしょうか?」

「彼らは、リグルット侯爵家に親しい貴族が匿っていると聞いた」

「そうですか」


 彼らにもお世話になったから、生きていると聞いて安心する。


「あなたこそ、ティルミ・リグルット嬢からなにか聞いていないの? 彼女がなにをしようとしているのか。正直、彼女の動向が読めない。その気になれば、彼女は兵を起こして王位を奪還することもできたはず。だというのに、むざむざと捕まったりして、一体なにを考えているのやら」

「内戦が起きたら国力の低下が免れないのと、他国の侵略を許すかもしれないからあえて捕まったと、僕は聞きましたけど」


 ナルハさんから聞いたことを思い出しながらそう口にする。


「なるほど……確かにそういうことなら彼女の行動は理に叶っているのかも。現在、ナーベル王国はカステイン帝国と緊張状態にあるわけだし」


 と、そんな会話をしているうちに、目的地に着いた。





 魔物の討伐は、特になんの問題もなく終わった。

 面倒だったことは、魔物を討伐する際に使った魔術〈光ノ刃〉がどんな仕組みなのかエネからしつこく問われたので隠し通すのが大変だったぐらいだ。


「エネさん手紙が届いていましたよ」


 魔王討伐を終えた俺たちが屋敷に戻ると、1人のメイドが駆け寄ってきた。

 そのメイドは片手に持っていた手紙をエネに渡す。


「ねぇ、エネさん、いったい誰からの手紙でしたか?」

「故郷のお母様の手紙だと思います!」


 メイドの問い、エネは笑みを浮かべる。いつも僕の前で無愛想で無表情なのに、僕以外を相手するとき、大体こんな感じだ。

 それから手紙を持ってきたメイドがいなくなると、エネは手紙を開封する。

 そして、黙々と読み始めた。


「ふむ、なるほど、そうですか……」


 えね、心痛な面持ちでそう頷く。


「なにが書いてあったんですか?」


 内容が気になった僕は、そう尋ねると彼女は顔を上げてはこう口にした。


「この手紙はエネの仲間からの報告なんだけど……」


 どうやら、さきほど語っていた故郷のお母様の手紙というのは真っ赤な嘘らしい。


「奴隷にとっては悪い報告かも」

「なにが書いてあったんですか?」


 悪い報告と聞いて、思わず身を乗り出す。


「国王陛下がティルミ・リグルット嬢の処刑を強行したとのことです」

「……は?」


 途端、視界が真っ白になった。


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