74.迷いながらも進む騎士のタマゴの場合(マルクス視点③)
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そしてバナーをよくよく見ていただくと………!
そう! なんと本作の【コミカライズ】企画も、マグコミ様で進行中なのでございます〜! 夢!?
辿り着いたサーカス団は、すでに騎士たちとばっちゃんやイソシギさんたちが踏み込んだあとだった。
大きなテントの中は妙に静かで、そっと踏み込むと、制圧されたサーカス団のやつらが抵抗できないよう騎士に拘束されて集められ、見張られてる。
それを一通り眺めると、じっちゃんはもう満足したらしくて、ばっちゃんを見る前にサーカス団のテントを出ていっちゃった。
じっちゃん曰く、追っかけてきたのがバレるとすごく怒られるから、もう帰るらしい。
確かに待ってろって言われたよなと思うし、ここまで制圧が進んでいるならあとはばっちゃんや騎士たちを信じて任せて大丈夫だよなって思ったけど、オレはやっぱりステラとアーマッドを見るまで安心できない気持ちが勝っちまった。
じっちゃんと馬に先に戻っててって言って、オレは覚悟を決めてサーカス団の中に入ってく。
『! アーマッド!』
『マルクス。お前も来たのか』
騎士たちに保護されてたアーマッドとはすぐに合流できた。
それから、アーマッドに話を聞いて、ステラとアーマッドの妹がいる部屋までアーマッドとオレは走って向かう。
『ステラ! 良かった、無事で……!』
『……ジュニアもステラも、問題なさそうだな』
『マルクス、アーマッド……』
さほど離れていなかったその部屋に駆け込んだ時、オレはステラとばっちゃん、騎士数人にチャーリーやイソシギさんたちを目にして、ホッと安心した。
隣でアーマッドも部屋奥まで見回して妹が無事なのを見つけたらしくて、小さく呟く。
オレたちに気が付いたステラは嬉しそうに、だけどなんでオレがここにいるんだろうって顔だったけど、やっぱりばっちゃんにはしこたま怒られた。
馬に乗せてくれたじっちゃんのことは伏せて、オレはひたすら謝り倒す。
……ちなみにだけど、この日ばっちゃんが帰ったら家でじっちゃんがご機嫌で鎧を磨いてたらしく、やっぱりじっちゃんも追っかけてったことがバレて怒られたってさ。
何してんのじっちゃん……。
とにかく、オレはもう一件落着だって思って、怒られながらも胸を撫で下ろしてた。
でも、ここで事件は終わらなかったんだ。
いや、たぶん、ステラがまだこんなハッピーエンドじゃ納得してなかったんだろうな。
オレには分かんねえけど、ステラはアーマッドとサーカス団のやつらのとこに捕まってから、サーカス団のやつらの気持ちにも寄り添ってやりたくなったみたいだった。
『……ステラ? えっと、なんかこれ、どういう状況だ? なんでばっちゃんたちとステラたちが向かい合ってんだ?』
声が震える。
そんなことあんのかよって、オレ全然分かんないなりに状況が飲み込めてきてさ、ばっちゃんと騎士たち vs ステラとその護衛って構図に、頭ン中が真っ白になっちまった。
ばっちゃんの後ろで、騎士の一人が縮み上がったように隠れてうずくまってるのに気付いたら、余計に。
『サーカス団の人たちが良いか悪いか分かるまで捕まえないで欲しいんだけどね、でも騎士さんたちにはきっと難しいからねえ、これから、お話し合いをするんだよう』
『え……、ええっ!?』
それって、拳で語り合うってやつじゃんって。
『ガチンコバトル』ってやつじゃんって。
そう思っちゃってさ。
『拳で!?』
思わず叫んでた。
ステラの言う『お話し合い』や、『納得するまで語り合う』って言葉がもう、そうとしか聞こえなくなっちゃって。
何より、ステラの傍にいる、普通じゃねえ強さの使用人たちを見てみれば、チャーリーも、イソシギさんも、ヘイデンさんまで、みんなギラギラした目で騎士を見てんだもん。
『マルクス、大丈夫だよ、すぐ終わるよ』
『そりゃこのメンツが出てきたら、いくら騎士だってひとたまりもねえって!!』
初めてステラが怖いと思った。
嫌いになるとかじゃなくって、あ、この人数の騎士じゃ相手にもなんねえって、分かったから。
どうすりゃオレが目指す騎士とオレが守りたいステラの衝突を避けられるんだろうって、なんで優しいステラと騎士がそんな事になるんだよって、オレ訳わかんなくなってばっちゃんのこと牽制するみたいに睨んじまった。
後になってそれ全部がオレの勘違いだったって分かるんだけど、その時のばっちゃんのたじろいだ顔にすげえ申し訳ない気持ちになる。
……それに、ちょっとオレ、泣いちまったし。
騎士とステラが対立するんだって、そう思い込んで、オレはオレの『なりたい姿』と『守りたい存在』の、そのどっちかを選ばなきゃいけないのかって、頭がぐるぐるして。
泣いちゃったのが、すげえ恥ずかしいし、悔しい。
ステラを守ってやる、年上でお兄ちゃんなオレが泣いてるなんて、格好悪いじゃんか。
ステラは、オレが泣くのをやめたいって言ってたのを知ってたからか、ステラはオレの目が潤んだ瞬間にすげえ慌ててすっ飛んできた。
腰のあたりにがっつり抱き着いて、届くか届かないかの手で一生懸命オレの胴体にしがみついて、『よしよし』って言いながら一生懸命慰めようとしてくれてる。
八歳の中でも背の高いオレと、五歳の中でもちっこい方のステラじゃ、やっぱり腕が胴に回りきらないくらい体格差があるらしい。
ステラは両手でオレの背を撫でたかったみたいだけど、やっと届いている手のうちの片方は、オレの尻をせっせと撫でていた。
さわさわって動きにオレは思わず笑ってしまって、一気に気が抜ける。
ステラの慰め方って、勢いがすごくって、パワフルで、オレの母ちゃんの慰め方とは全然違うんだよな。
『あのねマルクス、私のお話、聞けるかなあ?』
だけど、言葉だけはやたらと優しくって、母ちゃんにも似てる気がする。
年下のはずなのに、なんだか年上のお姉さんみたいに慰めてくれるステラがなんか可愛く思えてきた。
泣いちまってしょぼくれるオレに、ゆっくり一つずつオレの勘違いを正して聞かせてくれて、オレが安心できるように何度も『大丈夫だよ』って言ってくれるステラは、出会った時から今までやっぱりずっと優しくて良いやつなんだよなあ。
“これ好きでしょ! 笑顔になるよ”
そういえばって、いつか、笑顔のステラに卵焼きを口に突っ込まれた時のことを思い出す。
ステラは初めて出会った日にも、並んで弁当を食べながら、オレの話を聞いて励ましてくれた。
口の中に、今は食べ慣れた大好きなステラん家の卵焼きの味が広がる。
やっぱオレには、これを手放せねえよって思った。
今はまだボヤけた理解しかしていないけど、それでも、オレがこれから守って、目指してかなきゃいけない“正しさ”って、そういうモンなんじゃねえかなって思うんだ。
オレやステラ、それにみんなが、ウマい飯食って笑ってられる、そんな未来が見える方ってこと。
ステラはきっと、オレにとっての正義の『シシン』とか『テイギ』とか、そういうやつで、だからオレはそんな正義の『味方』でありたい。
これからもっとオレはちゃんと勉強して、知って、正しいこととか、正義って何かとか、これからちゃんと考えなきゃなんない。
だけど、少なくとも今のオレは───。
オレはステラからいきさつを聞いて考えた末、覚悟を決めて言った。
『オレも、ステラの味方だ』
ばっちゃんが、オレのそんな台詞を聞いて、項垂れる。
ばっちゃん、オレ、まだ全然足りないからさ、今はステラのしたいほうを、応援しちまうよ。
だから、帰ったら教えてくれよ。正しいことと、その選び取り方を。
もしかしたら、いつか本当に勘違いじゃなく、ステラと騎士が対立する日が来るかもしれない。
オレが騎士の正義に迷う日が来るかもしれない。
そんな時、オレがちゃんと正義の味方であれるように、オレはもっと考え、知らなきゃいけないなって、改めてそう強く思った。
それから、ステラの発案と、被害者のはずのアーマッドが支持してくれたのもあって、サーカス団のやつらの処分はいったん保留になった。
アーマッドによると、アーマッドの妹はオレたちが心配してたような扱いはされておらず、むしろサーカス団のやつらに悪気が無さすぎて拍子抜けだったとか。
アーマッドはそれ以上詳しく言わなかったけど、アーマッドは昼間と比べて、ずっと力が抜けて見えた。
妹と無事に再会できたってのがもちろん大きいんだろうけど、それに加えて一段とステラと打ち解けてるのが分かって、むしろステラのこと信頼してる友達って感じで接してる感じとか、たぶんまたステラが何かやってやったんだろうなって分かる。
ステラってホント、そういうとこあるよ。
オレは内心でウンウンと頷いて一人納得する。
ステラに感謝してるやつって、いっぱいいるんだ。
オレが知ってるだけでも、オレだろ、ダニーだろ、それに素直じゃないから本人は認めないかもしれないけど、ルイもだな。
あとは、こないだステラん家で仲良くなったレミも、孤児院のやつらがステラに感謝してるみたいなこと言ってたし、ミシェルも、ステラと仲良くなったきっかけがあったみたいだし。
……そういえば、チャーリーってなんであんなにステラ第一なんだ?
今度聞いてみよっかなと思ったけど、チャーリーってオレにそういうこと、教えてくれなさそうだよな~。
チャーリーって悪いやつじゃねえし今はもうすっかり年の離れた友達って感じだけど、あいつ、ステラいないときスンッってしてんだよな。
たぶんあっちがチャーリーの素で、ステラの前での姿が特別なんだろうけどさ。
ま、チャーリーとステラにどんなことがあったんだとしても、オレがステラに感謝してる気持ちは、誰にも負けるわけないけど。
だって、父ちゃんも母ちゃんもすげえ感謝してるし、そんな家族まるごと救われたなんて、流石にオレだけだろ?
………アレ? そういやダニーは、ステラが妹のポーギーの命の恩人だとか言ってたっけ……? それに、ダニーの父ちゃんのお医者の先生も、なんかステラのおかげで家族にとかなんとか……。
え? ステラって、思ってるよりさらにすごくね??
………い、いやいやいや! でもでも! とにかく! オレが一番なんだって!
オレはなんか、これだけは負けたくねえって気持ちになっちまって、ブンブン頭を振って考えを打ち切った。
オレやオレの家族が誰にも負けないくらいステラにすっげえ感謝してるのは、ぜってー間違いないジジツってやつなんだからな!
オレがそんなことをやっていたからか、イソシギさんから『何やってんだ?』と不思議そうに聞かれた。
オレはそれに慌てて何でもないって返して、それより練習しよってイソシギさんに言う。
オレはこれから、イソシギさんとサーカス団のやつらと、サーカスで披露する予定の剣舞の練習だ。
ステラの発案で始まった、サーカスの、その準備。
元は、盗みをする間に町の人たちの注意を引くためにやる予定だったサーカスを、一週間後まで延期して一回本気でやってみようぜってのがステラの案だ。
オレは難しいことは分かんねえけど、確かにそれで食っていけるだけ儲けられるってなったら、サーカス団の人らは盗みなんかせずサーカスを頑張ればいいんだもんな。
今までサーカスや見世物で人の気を引いてその間に盗みをするってやり方で国を渡り歩いてきたらしいだけあって、サーカス団のテントや設備は充実してる。
豪華とかそういうのはないけど、とにかくかき集めたって感じで年季の入った器具や楽器が充実してて、班分けのために試しで色々見せてもらったときも、サーカス団の人らは一芸に秀でた人が多かった。
今までは時間を稼げればいいからって、ただ淡々と芸を見せてってやってたみたいだけど、それをステラが中心になってアレコレとステージの計画を立てて、プログラム? ってやつを作ったあたりで、サーカス団の人らも現実味が湧いてやる気になったみたいだ。
オレはそういうののセンスはねえから、追加で作る舞台装置の装飾にペンキで絵を描いたり、運動神経に物を言わせてイソシギさんと二人、剣舞の演技で『ヒトヤクカウ』ってのをすることにした。
練習が始まって実際に共同生活をしてみて、今ならサーカス団のやつらが根っからの悪いやつらじゃねえんだってことが、オレにも分かる。
こいつらは、国って枠の中で生きてるオレたちとは、全然違う考え方をしてるんだなって。
生きる力に長けていて、生きるために他から奪うのも仕方ないって考え方は、言ってみればすごく純粋な、生き物としての生き方に近い。
これは、ばっちゃんからの受け売りな。
サーカス団で練習のために寝泊まりすることになってからの最初の数日間、様子を見に来てたばっちゃんがそう言ってた。
オレもそれを聞いて、すごく腑に落ちたんだ。
まあ、それを言ってたばっちゃん本人はなんだか悩まし気に唸ってて、ばっちゃんにとってもサーカス団のやつらがそういうやつらだったのが意外だったみたいだけど。
そうして始まった剣舞の練習だけど、オレはすっっげえ楽しかった!
だって、イソシギさんってば、謙遜ばっかするくせにめちゃくちゃ動けるんだもん!
父ちゃんともいい勝負できちゃうんじゃねえの!? なんて、オレからしたら最大限の褒め言葉も飛び出しちゃうくらい。
イソシギさんはなんかオレに褒められてもピンときてないみたいだったけど、意味わかんねえって。
剣の扱いも、なにより身のこなしが、今まで会ったどの人よりもダントツで凄い!
それは、チャーリーよりも、だ。
チャーリーもイソシギさんの運動神経のことは知ってたみたいで、一回剣舞の練習を見に来たチャーリーが見たことないジトっとした目でイソシギさんをしばらく見たあと、『謙遜も、行き過ぎると嫌味ですよね』ってオレにだけ聞こえる声でボソッと言ってて、なんか怖かった。
チャーリーもステラの護衛役として戦う訓練してるんだろうし、イソシギさんは先輩で、目標って感じなんかな?
あ~、本当、ステラん家の使用人さんらって、羨ましいよな~。
オレって小っさいときから相手の強さとかそういうのに直感が利く方なんだけど、ステラん家の使用人は、戦える人がめっちゃ多い!
チャーリーだろ、イソシギさんだろ、それに庭師の爺ちゃんも、門番の兄ちゃんたちも、たぶん強い。
あとはヘイデンさんも、どう見ても優しい爺ちゃんでオレのじっちゃんと同じタイプに見えるんだけど、なんか底知れない感じがして、実はすげえ強いんじゃねえかなって思ってる。
これは、そうだったらいいなって期待も込みで!
オレ、使用人さんのいる家に行ったのなんてステラん家が初めてだったから、最初は使用人イコール戦える人なんだって思って、父ちゃんと母ちゃんに、オレん家も使用人を雇おうよってねだったこともあるんだ。
そう、父ちゃんと母ちゃんがステラのおかげで仲直りしてから、すぐの頃。
『………やめておけ』
父ちゃんはそう一言言うだけでオレの願いは叶えてくれなかったんだけど、後で苦笑した母ちゃんが『ごめんねマルクス。私が家族三人で暮らしたいって思ってるの。使用人さんのいる生活って、慣れなくて』って、父ちゃんが許可してくれない理由を教えてくれた。
そういや父ちゃんは代々騎士の家系で、別荘も持ってるような家の出身だ、今さら家に使用人がいることに抵抗なんてあるはずない。
なんだ、オレの希望よりも母ちゃん優先ってだけじゃんって、当時のオレは拗ねた。
そのあと見かねた母ちゃんに『どうせお父さんにおねだりするなら、動物を飼うのなんてどう?』って言われたけど、犬とか鳥とかじゃあ訓練の相手はしてくんねえもんなあって。
何よりそれ、母ちゃんが飼いたいんじゃね?
母ちゃんが頼めば父ちゃんは絶対やだって言わないのに、オレに言わせようとして、変なのって笑っちゃった。
そのあとしばらくして、ステラんとこの使用人が特別なだけで、普通の使用人はそんなことないんだってルイとかから聞いて知って、じゃあ自分ちの使用人は別にいっかってオレはなった。
その代わり、ステラに会いにいくたび、チャーリーには手合わせしようぜって誘ってる。
チャーリーはステラも乗り気だった最初の数回の手合わせっきり、全然相手にしてくんないんだけど、今度からはイソシギさんを誘えるなって、それが今から楽しみだ。
剣舞の練習をしながら、本当に戦ってるみたいにイソシギさんと剣を打ち合わせてはワクワクした気持ちになった。
いよいよ書籍版発売まであと二日!
素敵な本ができました! ぜひお迎えしてあげてください~!
明日も更新します! 祭りじゃ祭りじゃ〜





