その名を付けて、穢した者達
かつてこの大空を覆い尽くすほどの数がいた一羽の鳥をご存知だろうか。その名をリョコウバトといい、その名の通り「渡り」をする、世界でも類を見ない頭数を有した、ある意味で空の覇権を握ったとも言える鳥である。
その巨大な群れに、人々が恐れをなしたのは言うまでもない。空を覆い尽くす虹のような翼の群れは、一説には3日間も空を覆い続けたのだと言う。
この鳥達はその余りにも多い個体数の為に、作物を荒らし、害鳥として駆除され、代償として食料とされた。
木陰のいたるところに糞をまき散らしたこの害鳥は、その数に反して繁殖力が弱く、害鳥として大量に駆除されるようになると、その数を急激に減少させていく。
人々の無邪気な欲望に起因する開拓によって繁殖地を失った彼らは、いよいよその大群が失われていく事を覚悟しなければならなくなった。
そして、最後の一羽は「渡り」を失った一羽、マーサであった。彼女は動物園で大切に育てられたが、その代償として仲間達の群れの全てを失った。
人間はリョコウバトを、旅をするハトだと言って、その名を付けた。その最後の一羽がついに旅を知らなかったと言うのは、余りにもよくできた皮肉のように思う。例えば、万物の霊長が、遂に最後の一人となったときに、最後まで万物に取り残されていくのであろうという、世界の摂理を暗示しているような。或いは、万物の霊長によって組み立てられた世界が、万物の霊長の手によって侵されていくと言う感覚それ自体が、自然の摂理だと言うような。




