ベゴニア―『愛の告白』
タイトルで察してください。
部屋の電気だけ消して、衝動に突き動かされるままに廊下を走る。
あのショートヘアの髪も、薄汚れた青いつなぎを着けた姿も、見逃さないように。
どこにいるんだろう、……逢いたい、逢わせて、今すぐ。
その願いが叶ったのか、中庭に、その後ろ姿が見える。
一秒でも早く、言いたい。この勇気が、決意が、霧のように消えないように。
「邑先生!」
夢中になってたせいか、頭の中で呼んでた声が、そのまま口に出る。
振り向いて、こっちに体を向けた邑先生は、戸惑ったような顔をする。
ぶつかる直前で足を止めて、弾んだ息を整える。ゆっくり息をして、息は落ち着いたけど、この胸のドキドキは、どうやったって治らない。
「どうしたんだ、江川」
「は、……話したいことが、あるんです」
「それで、何だ?」
あっさりと、話を進めようとする邑先生。私の気持ちは、ただの片思いなのかな。
でも、もう決めたんだ、こうなったら、後にはもう、戻れない、……戻らない。
このままこの気持ちを抱え込んだら、私が、私じゃなくなりそうだから。飛び出しそうになる心臓を飲み込みながら、口を開く。
「邑先生、……好きです」
どんな顔になったのか、もう私には見る余裕なんてなかった。『好き』を伝えた瞬間に、心の奥底に溜まってた気持ちが、体中を駆け巡って熱くなる。そんな顔を見られたくなくて、うつむいてしまうから。
でも、一度堰を切った言葉は、もう止められない。
「初めてここで邑先生に会った時から、先生のことで頭がいっぱいになって、……もう、他のこと、考えられないくらいになって……っ」
もう、それも一年近く前のことになるんだ。その時から溜まっていた気持ちは、もう、どれだけ言葉を重ねたって伝えられないくらい。
「チョコとか、おにぎりとかもらって、おいしかったし、優しくしてくれたのも、本当に嬉しくて……っ」
気持ちが言葉よりずっとずっと先にいってしまってるせいで、その言葉は何もかもめちゃくちゃで、それだけ、いろんなとこに、邑先生への『好き』が詰まってる。
一度顔を上げると、邑先生は、戸惑ってるような顔をする。
「私と、……付き合ってください……っ」
おじぎとして頭を下げたはずなのに、また、顔を上げられなくなる。
ようやく、吐き出せたはずなのに、胸の中は、まだ、ズキズキと痛む。この気持ち、受け取ってほしい。一つ乗り越えると、現れてしまうもっと上の欲望。きゅうって、胸の奥が締まる。
邑先生は、この気持ち、どう受け止めてくれるのかな。
邑先生の手が動く気配、それくらいのことにすら、息が詰まる。




