シュウカイドウ―『恋の悩み』
「ちょっと、来てほしいとこがあるの」
「な、何?」
何気ない言葉のはずなのに、赤石さんの声には、何かまっすぐな意思というか、そんなものがあるように思える。
迷いなく歩くその足を、早足になって追いかける。渡り廊下を渡って、赤石さんがノックしてる部屋を見ると、用務員室と書かれてある。
「はい、……なんだ、また来たのか」
不意に聞いたその声で、心臓が止まりそうになる。紛れもない、邑先生の使ってる部屋だったんだ。赤石さんが、邑先生の部屋によく訪れるような関係だったことにも。
「そういうこと、また部屋貸してくれる?」
「まったく、しょうがない奴だ……」
軽く頭を押さえながら、やれやれという感じで部屋に入れてくれる。
「どうしたんだ、江川まで」
「ちょっと、赤石さんに連れてこられて……」
「なんだ、そういうことか、二人とも、お茶、飲むか?」
「はい、お願いします」
「私のも、お願いね」
慣れた手つきで、お茶を入れてくれる。
二人のあっけらかんとした会話が、ちょっと羨ましくて、頭の中がもやもやする。こんなんで、嫉妬みたいな気持ちを抱いてしまう。……やっぱり、私の恋は、抱え込みすぎて、自分じゃ背負いきれないくらいに重い。
「ほら、できたぞ」
「いつもありがとね、お姉さん」
「あ、ありがとうございます、いただきます」
赤石さんが邑先生のこと「お姉さん」って呼んでることに、ますます頭の中のもやもやが激しくぐるぐると回る。私よりも、何歩も踏み越えられてる関係。もしかしたら、……心を折るような想像が頭に浮かんで、慌てて首を振る。
「どうした?具合でも悪いか?」
「そんなこと、ないです」
心を落ち着かせようと、邑先生が淹れてくれたお茶を飲む。あったかくて、おいしくて、ほっこりして、ちょっとだけ落ち着いた。
「おいしいです」
「それならよかった、……悪い、仕事入ったから、帰るときはそのままでいいぞ」
「はーい」
工具箱を取って、どこかに行ってしまう邑先生。後ろのポケットには、紺色のハンカチがちょっとだけ見えて、……多分、私があげたのだ。そのことに、どうしてもほっぺが赤くなってしまう。
「……倉田先生のこと、大好きなのね」
突然の言葉に、急にびっくりしてしまう。
「ふ、ふえ!?なんでわかったの!?」
「見てれば分かるわ、こんなに分かりやすいのに、どうして気づかれないと思ってたか不思議なくらい」
「そ、そうだけど……、分かんないよ、どうしたらいいか」
「だったら、……いい情報、教えてあげよっか?」
邑先生のこと、知りたい。そのことが叶うのは、ちょっと嬉しい。
だけど、こんな風に聞いちゃって、いいのかな。せめぎあう反対の心に、心の奥が混乱する。
「じゃあ、……おねがい」
でも、心をいいだけ締め付ける恋心に、勝てるわけない。
その言葉を聞いて、赤石さんはゆっくりと口を開いた。




