タンポポ―『真心の愛』
「もう、智恵ちゃん?そんなこと言わへんでや」
うつむいた顔に、いつのまにか地面にしゃがんでたマノン先輩と目が合っていた。
ぽんぽんって、背中を叩かれる。涙を隠して手わからないけど、きっと、姫奏先輩の手だ。
「だって、……こんな気持ちになるの初めてで、どうすればいいかわかんなくて……」
「大丈夫よ、私たちも、支えてあげるもの」
「は、はい……」
吐き出せたら、楽になるのかな。私の胸に巣食う、濃くなってドロドロになった気持ちを。
でも、声に出そうとすると、その言葉のあまりの重さに、喉に溜まった空気が、鉛にでもなったように深く沈み込んで、息が詰まる。
こんなに誰かを恋したことなんてないから、どう伝えればいいかもわからない。次に邑先生に会った瞬間に、押し込めた気持ちが爆発するかもしれない。そしたら、私は、一番好きな人のこと、一番深く傷つけてしまう。
先輩たちが、優しい人だっていうのは分かってる。こういう事、誰かに言いふらしたりしないような人ってことも。
「言いたくないなら、言わんでもええんよ?うちらも強要しとるんやないし」
「いえ、……でも、言わなきゃ、どうしようか自分でもわからなくなるから」
その感情に支配されたら、きっと私はどうにかなって、戻れないとこまで行ってしまう。
そんなことしたら、……「好き」って言う資格なんて、永遠になくなってしまう。諦めることもできないままに。
「気持ち悪いですよね、……人には言えないくらいのこと、その人にはしたくなっちゃうなんて」
もう、私には止められない感情、胸の中で溜まっていったせいで、深く濃くなっていった気持ち。誰にも言えないくらいの欲望が、溢れだしたら。……私は、一体邑先生をどうしてしまうんだろう。考えたくないのに、頭の中ではそのことが夢に現れてしまう。二人だけの時間で、愛したり、愛されたり。それが夢だと気づく度に、絶望に近い感情を抱くくらいなのに。
私が私のままでいるのが、精一杯になるくらいの気持ちを、今伝えたら、きっと何もかも壊れてしまう。私の理性も、邑先生とつながった、ほんの少しだけの関係も。
「恋なんて、そんなものよ、誰だって不安ばかりだもん、その恋を失うのは、自分がなくなるのと一緒だから」
その言葉に、救われた気がする。同じ想いを抱えてるって言ってた姫奏先輩の言葉だと、なおさら心にすぅっと入ってくる。
「ふふーん、姫ちゃんも似たようなこと言って、うちにこの前悩み相談してたやん?」
「もう、マノン?それは言わない約束……っ」
そんなやり取りに、思わず、くすりと笑い声が漏れる。
「ごめんて、でも、智恵ちゃんもちょっと気分良くなったみたいやし勘弁してやー」
「もう、今度パフェおごってくれるならいいわ、……智恵」
急に話が飛んできて、慌てて姿勢を直す。姫奏先輩の手が、私の両方のほっぺをつまんで、軽く上げる。
「さっきの顔、いい表情だったわ、いっぱい笑いなさい?」
「もう、せんぱい、いはいれす……っ」
ごめんごめん、って、手を離される。それでも、まだその感覚は残ったまま。
「ずっと悩んでる顔より、笑ってたほうがええで?……まあ、今は無理かもしれんけどな」
「はい、先輩……」
今はまだ無理だけど、この恋が叶ったら、自然と笑えるときがくるのかな、……できるなら、邑先生と一緒に。
「いっぱい悩んでいいのよ、でも、整理をつけようなんて思ったら永遠に終わらないの」
「そう、ですね……、私も、無理やり整理しようとしてたかもしれません」
「恋に、正解なんてないんやから、ゆっくり向き合っていけばいいんやで?」
「そうそう、それでもつらいなら、いつだって相談に乗るわ?」
心のもやが、晴れたような気がする。先輩たちの姿は、遠くなってしまったけど。
「ありがとうございます、先輩」
「いいのいいの」
「もう、そんなんええって」
そんな事を言ってたら、予鈴が鳴ってしまう。先輩たちと分かれて、慌てて3階の教室まで駆け上る。
ちょっとだけ、前に進めた気がする。たった一歩かもしれないけれど。
でも、自分の中にある、膨らみすぎた恋心は、先輩の言葉でも治まることはなかった。
智恵さんがもどかしすぎて花言葉のネタが足りなくなりそう。
あと、これにて生徒会の先輩たち二人とのコラボ回もようやく終了です。




