コスモス―『乙女の心』
チャイムの音と、ざわめきだした音でお昼休みだって気づく。だけども、食欲なんて全然沸かない。
締め付けるような胸の痛みと、目の奥から溢れそうになっている涙を、どうにかするので精一杯だから。
食堂に惰性で向かって、でもやっぱりこの時間はほとんど空いてない。
ふらふらと、にぎやかに生徒たちが話に花を咲かせる食堂をさまよっていると、誰かから声をかけられる。
「あら、智恵じゃない」
「あ、姫奏先輩……」
今の生徒会長の五行先輩。学園全体のアイドルみたいな存在で、「お姉さま」とかって呼ばれてて、……私は、なんか恥ずかしくてそんな風に呼べないし、姫香先輩から「姫奏」って呼んでって言われて、呼び捨ては悪いから「姫奏先輩」って呼んでいるけど。
「どうしたの?」
「ちょっと、考え事してて」
きっと、こんなに悩んでる気持ちなんてわからないんだろうな、姫香先輩には。だって、『恋の病』とか、そういうのには程遠そうな人だから。親友のマノン先輩が作ったファンクラブには、先生と生徒の垣根も超えて何百人も会員がいるって話を聞くくらい名の知れてて、みんなの憧れのような人なんだから、誰かを落とすなんて簡単なのだろうし。
「とりあえず、一緒にご飯食べる?」
「あ、はい、喜んでっ」
席が無いのには困っていたし、ありがたく隣に座らせてもらうことにする。
「じゃあ、私ご飯とってきます」
「はいはい、行ってらっしゃい」
と言っても、食券売り場にはたくさん並んでいる。のろのろと進む列の後ろに並びながら、何を食べようか思案する。食欲もないし、お腹に軽いうどんにしようかな。
そう決めたとこで列が進み切って、食券を買う。麺類のとこは人が少ないから、そこからご飯を取るまではすぐだった。
「お待たせしました、先輩。料理、冷めてないですか」
「ふふ、いいのよ、それに智恵が来るちょうど前にここに座ったんだし」
「そうなんですか」
姫奏先輩は仲良くなると言葉の裏表がなくなるから、その言葉はきっと本当だなって予想する。そんな変な気を回さなくていいのは、ちょっと落ち着く。
「そういえば、マノン先輩はどうしたんですか?」
「ああ、マノンもいるわよ、今ご飯取りに行ってるけど」
ここの学食は昼休みになるとめちゃくちゃ混むから、誰かが席を取って入れ替わりでご飯を買うのはよくみる光景だ。でも、まさか先輩たちも同じことをしてるなんて、ちょっと意外かも。
「それで、さっきまで何考えてたのかしら?」
「そ、それは……っ」
恥ずかしくて言えない、人にはとても言えない想いを抱えてて、そのせいで心がずっと落ち着かないなんてこと。
「ふふーん、そんなに言えないようなコト?」
姫香先輩は、華憐なお嬢様みたいな顔して、ものすごくいたずら好きで。隠しようがないがないくらい赤くなってるだろう熱くなったほっぺをぷにぷにとつつかれる。
「からかわないでくださいよぉ……」
「聞いたわよ、ずっと物思いにふけってて、授業も上の空だって」
「な、なんでそれを……」
最初からそんな風になってるって知ってるなら、……って、先輩に言っても無駄かな。
「しゃきっとしなさいな、……って言ってもしょうがないし、私でいいなら話聞くわ」
「え、あ、ありがとうございます……」
「早く治ってもらわないと、あなたを次の生徒会長に薦めた私の立場がなくなるじゃない……なんて嘘よ、智恵がそんな調子だと、心配なのよ」
そんな冗談も、ちょっと嬉しいかも、それだけ、信頼してもらえてるんだから。
「それなら、早く治さないとですね」
軽口みたいに言ってるけど、それを果たすのは無理。でも、かおりちゃんと話したときみたいに、楽にはなるのかな。
「そういうこと、だから聞かせて?」
また、ほっぺをむにむにされて、そんなことされたら、話すにも話せない。
「もー、姫ちゃん、そんなんしてたら、智恵ちゃんがご飯食べれへんやろー」
「あら、ちょうどいいとこに、智恵が最近ずっと上の空で、ちょっと気になってたのよ」
「それは大変やなぁ、うちでいいなら話聞くで?」
「あ、ありがとうございます……、じゃあ、聞いていただけませんか?」
二人とも、優しい人なのは分かってる。でも、とめどなく膨らんだ恋心を晒すには、ちょっと勇気が要った。
『あなたと夢見しこの百合の花』の五行姫奏さんと『純情チラリズム』の河瀨マノンさんが出てきました。
この時期は二人とも生徒会役員だし多少はね?




