六章『プロローグ』
仁と袂を分かった――――あの日。
新都血戦から、いずれこうなるんじゃないかと、心のどこかで思っていた。
《もう、終わりにしよう。
――――新太》
仁の全身を包む熾光が臨界を越え、その姿を異形のモノへと変化させる。
腰から伸びる尾は意志を持っているかのように蠢き、その瞳は四足獣の如く爛々と輝き始める。
それはどこか。
以前相対した「玉藻前」を彷彿とさせるフォルムに、新太はただ静かに息を呑む。
――――そして。
仁の額に浮かび上がる、格子印。
同時に溢れ出す、極限にまで密度が高められた熾光――――。
紛れもない、仁の全力。
これまでに、見てきた仁のあらゆる姿のいずれにも当てはまらない形態変化に、新太は『竜笛』を握る手に力を込める。
――――『宮本新太』という存在を排除するために、これほどの力を……。
その意味が分からない新太ではなかった。
多分、俺は。
仁が全力を出しうる存在になったのだと思う。
これまでずっと、俺の遙か高みにいると思っていた陰陽師が、俺なんかにその全てをぶつけようとしている。
「っ……」
――――だったら。
それに応えないのは、有り得ない。
そうだろ、仁。
「『竜笛』〝破〟ノ段――――」
周囲に点在する、視界の中に存在する万障一切を、俺の力へ――――。
砂塵のような美麗な粒子の収束先は、構えた『竜笛』の先端。
どこまでも昏く、その明度を落とし――――生まれる出ずる極黑。
その純粋なまでの力の塊を一瞥し、仁は左手で刀印を結んだ。
《『成神』、【終式】――――》
宙へと右手を掲げる仁。
その手の甲に浮かび上がるは――――五芒星。
同時に、掲げた手へと収束を始める仁の熾光。
察するに、俺の『〝破〟ノ段』同様、自身の全熾光を放出する、最大最極の陰陽術――――。
「――――」
燃える業炎の中、俺の隣に佇む狐面の少年。
辺りには有機物の焼けた匂いと死んでゆくもの達の怨嗟の声で充満していた。
「希望」なんてあの景色の中に欠片もなかった、あの日。
――――新都大霊災。
――――仁。
君は、俺の進むべき道を示してくれた。
諦めてしまいそうな俺を、もう一度、立ち上がらせてくれた。
だから。
俺は今、ここにいる――――。
その全ての想いを。
この一撃に――――。
「――――『黑』」
《――――天将羅刹》
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
澄空です。
この物語も第五章まで書き終えることができました。
それもこれも、読んでくれる方の存在があってのことです。
最新話を更新した瞬間に読みに来て下さる方。
何となく最新話まで追って下さっている方。
抱く感想こそ読み手の皆様次第だとは思いますが、私の駄文にここまでお付き合いいただけていることに、深く感謝申し上げます。
ここで一つ、お知らせです。
一ヶ月ほど更新をお休みさせていただきます。
理由としては、更新を重ねるごとに、自分の中で「物語の終わり」が鮮明になってきたからでございます。
その完結までの道筋の整理を、もう一度自分の中でさせていただきたく存じます。
……ネタバレをしてしまいますと。
10月22日まで作中の時間を進めているのですが、登場人物達が大晦日を迎える頃には完結します。
あと少しだけ、登場人物達にお付き合いいただければと思います。
5月17日 澄空




