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序列最下位の陰陽師、英雄になる。  作者: 澄空
第五章『驕り高ぶる陰陽師達、“王”を名乗る。』
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第200話『〝王〟』




 業炎が、渦巻いていた。


 その中に、悠然と佇む一匹の妖。

 伝説の『三妖』――――玉藻の前。

 古より、その強大な力を前に人々は畏れ崇め奉ることしかできなかった。

 霊力を超越した力をその身に纏い、妖狐はただ蹂躙を望む――――。



「……」


 その前に立ちふさがる――――少年が一人。

 名は、

 右手に一本の日本刀を携えた、特筆すべきこともない()()()少年。


「――――理解に苦しむ」


「……」


 玉藻の凜とした声音が、辺りに響き渡る。


「童。

 お前は()()()()

 それを、みすみす捨てに来るとは」


 そう口にしながらも、玉藻は眼前の少年を纏う()に気付いていた。


 ――――迷いが、消えている。


 先ほどまでの感情と霊力の揺らぎは消え失せ、真っ直ぐに自身を見つめる瞳からは確固たる信念すら感じさせる。


 妾を目の前にして。

 迸るを前に、臆する様子もない――――。

 この短時間で、一体何が。


 自身の中に生まれた疑問。

 しかし、それに気付く様子もなく沈黙を貫いていた新太の口が開かれる。




「――――お前は、()()



 どこまでも真面目な顔で、そう言い放った新太。

 玉藻は自身が何を言われたのか理解できずに、しばしの間固まり――――そして堰をきったように嗤い出した。


「~~~~」


 肩を振るわせながら、ただ嗤う玉藻を新太は静かに見つめる。


「……嗤わせてくれる。

 ()()()()()に遭っておきながら、まだそのような世迷い言」


「……」


「痛いほどに思い知ったはず。

 妾と主達とは、()()が違う」


「……」


 玉藻の言うように、()()は痛いほどに思い知っている。

 現段階の清桜会最高戦力『北斗』や秋人さん、……父さんを、コイツは意に返すことなく完封しきった。

 まさしく――――

 人智を越えた力なのは疑いようがない、揺るぎない事実――――。


「それでも、俺は――――」


 脳裏に浮かぶ、()()姿

 涙を浮かべながらも、必死に言葉を紡いでいた――――。


 少女は。


 手を取ってくれた。

 抱きしめてくれた。


 宮本新太(オレ)を、肯定してくれた。


 ――――必要としてくれた。




 まゆり。





「……」


 ゆっくりと新太の目の前へと掲げられる、()()

 その軌跡を、静かに見つめる妖狐。



 ――――君を、守る。






「『竜笛』×『六合』――――同調」


 漆黒の護符が、手に持った日本刀に溶け込み――――鞘が消失。

 そして。

 露わになる、()

『閃慧虎徹』や『蛍丸』との同調時とは異なり、形状的な変化は見られない。

 ただ新太の全身を包む()だけは、同じ――――。


「……また、その玩具(おもちゃ)


 呆れたように新太の式神を一瞥し、つまらなそうに玉藻はため息をつく。

 ――――()()が通用しないことは、()()()()()

 コイツの目の前で、わざわざ破壊してやったというのに。



「『竜笛(りゅうてき)』、――――それが、この式神の名前」


「……」


「昔、俺はコイツで()()()()()()

 ……こんな風に」


 やがて。

 極黒の霊力が新太の左手に収束し、形作られる()()

 それは、俺がまだ「近衛奏多」だった時の記憶。


「――――俺は、この式神のことを何も覚えていない。

 でも、()()()()()


「……何の事。

 要領を得ないことを、ベラベラと」


 玉藻の眉間に刻まれる皺。

 ――――いつの間に会話の主導権を握ったのか。

 益体のないことを、よくもそこまで。


()を収束させ、そして形作る。

 それが、『竜笛(コイツ)』の発現事象――――『』」


 霧散する新太の手に握られた球。

 その残滓を名残惜しいように、新太は見つめる。


「……酷く、つまらない力」


 転瞬。

 新太の目の前に佇む玉藻の全身から吹き出す――――莫大な熾光の奔流。

 それは霊力を超越した――――耐性の無い者ならば触れるだけで命を刈り取られる絶対的な、言わば神の如き力。


 その前では、陰陽師など塵に等しい。


「……」


「……骨の髄まで、焼き尽くす。

 無駄口など叩けぬように、ただ殺す」


遊戯(ゆげ)」。

 そう、玉藻は口にした。

 格下を嬲ることをそう定義するとするならば、確かにこれまでの玉藻は「遊戯」だった。

 しかし、()()


 自身にたてつく不敬の輩を、滅ぼさんとする濃密な熾光の奔流を、新太はただ見つめる。


 そして、その手に結ばれる刀印。

 右手の甲に浮かび上がる五芒星(セーマン)――――。



(わっぱ)、――――死を持て償え」



 揺れる熾光が新太へと向かう、その瞬間。

 新太は、ただ静かにを発動させた――――。














 始めは、小さな煌めきだった。



「――――!」



 大気中を微かな光が舞い――――そして、童へと向かってゆく。

 周囲を見渡すと、いつの間にか眩い光で満ち満ちている。

 ()がまるで魚の群れのように波打ち、形作る。

 ――――何だ、あの光は。

 あのの出所、それを玉藻は周りを見回す視界の端で捉えた。


「……!!」


 周囲に点在する()()()()、そして微光を放ちながら宙へ舞う瞬間を――――。


「っ……!」


 ――――いや、違う。

 ()()()()()()


 炎上を続ける焔、それに伴って発生する黒煙、煤までも――――。


 ()()()が、一様に光へとその姿形を変え、その向かう先には――――童。



「っ――――!!」



 集まった光が、収束し――――極黒の霊力が更にそのを高めてゆく。


 あの光の正体――――それは、であることを、半ば直感的に玉藻は悟っていた。




 ――――『創造』。

 そう、奴は言った。

 それに準ずる力であるのは、明白。

 周囲の物質を、「霊力」へと創り変えて――――。


「……!」


 童へと収束していく霊力。

 それは幾重にも折り重なり、更に黒く、昏く、涅く――――。


 やがて。

 収束した霊力は、へ達する――――。



 そして。

 一陰陽師として有り得ないほどの霊力を貯蔵した、既存とは全く異なる存在が、生まれ落ちる――――。





「――――童。

 ()()()()()



 そう独りごちる玉藻。

 しかし、その言葉に反して、瞳は大きく見開かれ、可憐な美貌に似合わない猟奇的な笑みを浮かべていた。

 



 なぜならば。



「……」


 目の前に佇む少年から立ち上る、玉藻と()

 それすなわち――――『』。

 伝説の『三妖』に匹敵する力に、他ならなかった。




「『竜笛』序ノ段――――」



「……!!」



 玉藻の中に生まれる一つの感情。

 それは、実に()()の――――「愉悦」。




『――――凱旋喇叭ノ調がいせんらっぱのしらべ






 純黑は、ただ〝王〟の名の下に隷属し。

 鳴り響く数多の喇叭の音が、一人の君臨者の到来を告げる――――。





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