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序列最下位の陰陽師、英雄になる。  作者: 澄空
第五章『驕り高ぶる陰陽師達、“王”を名乗る。』
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第171話『咎人』



「~~~~~!!」


 暗い路地で、流星は自身と同じ泉堂学園の制服を身に纏った女生徒の口を塞いでいた。

 手に女生徒の涙が触れる。

 目の前で必死にもがいているその表情は、流星に格別の征服感をもたらしていた。


「……すぐ終わるからさ。

 ちょっと我慢しててよ」


 そう言いながら、流星はズボンのベルトを緩める。

 普段通りの手口。

 そして普段と同じ、決まり文句を耳元で囁く――――。


「……()()()()()?」


 転瞬。

 抵抗していたはずの女生徒の全身からゆっくりと力が抜けることを確認し、流星は下卑た笑みを浮かべ、女生徒のスカートをたくし上げた――――。



 ***



「……じゃあ、喋ったら殺しちゃうからね♪

 他言無用でー」


 泣く気力もとうに失い、なされるがままになっていた名も知らぬ女生徒はその場に崩れ落ちる。

 その目に……光は宿っていない。

 そんな様子を横目に、ベルトを締めながら流星は既に別のことを考えていた。


 ――――……もう、めんどくせぇな。

「来栖まゆり」のことである。

 流星を拒絶する―――――あの敵意に満ちた瞳。

 それがに変わる瞬間のことを思うと、どうしようもなく滾って仕方がない。

 ましてや相手は()()ゴミ屑、序列最下位の「宮本新太」らしい。

 ――――見る目、ねぇよなぁ。

 俺だったら、すぐに夢中にさせてやるのに。

「来栖まゆり」は、正攻法で攻めたかった。

 でも、もうそれも()()

 俺は――――『北斗』。

 それを利用しない手はない。

 他の()()と決定的に違う。

 俺は選ばれた人間。


 まゆりちゃんの目の前で、()()()、そしてその後……。


「……待っててね、まゆりちゃん♪」


 濃紺色の制服に身を包んだ金髪は、えも言われぬ興奮を感じながら、街の喧噪へと繰り出した――――。




 ***



[10月13日(日) 清桜会新都支部第三修練場 15:00]


 普段新太と秋人が使用している修練場内だったが、今日に限っては多くの人間が詰めかけていた。

 これからとある()が行われるのを聞きつけた、清桜会の隊員。

 その視線の先に佇む、対を成す色の泉堂学園の制服姿。


 片方の陣営に限っては、もはや説明の必要はない。

 白髪のパンツスーツ姿の女性の横に並ぶ――――『北斗』。

 工藤春臣、美波有栖、明智流星。

 ……そう。

 数日前に佐伯支部長に直談判を行い、「破吏魔」との演習を希望した面々に他ならない。

 対するは、メガネの白衣を携えた支倉秋人が率いる……泉堂学園二年古賀京香。

 そして――――()()()の演習希望相手である、宮本新太。

 そして、それらを取り囲むように佇む観衆の中で。

 来栖まゆりは、静かにその様子を静観していた。


『北斗』と『破吏魔』が闘りあう――――。

 ()()()()以来、いずれはこういう時が来るのでは、と予想していた。

 でも、……こんなに早く訪れるなんて。

 日取りが決まったと聞いたのは、つい昨日のこと。

 秋人さんもどうやら寝耳に水だった様子。

 始めはその唐突な提案に難色を示していたらしいけど、佐伯支部長に押し切られる形で、半ば強引に了承をしたようだった。

 二人の間にどんな話が展開されたかまでは話してくれなかった。


 でも……。




『「演習」という名のをやりたいんだろうね』

 あの、秋人さんの呟きが忘れられない。




 序列一位の古賀先輩を快く思っていないのは、何となく理解できる。

 聞くところによると、この場にいる『北斗』の面々は、恐らく元々古賀先輩に敵わなかった面子。

 だからこその――――公開処刑。

 当の古賀先輩本人は、短くなってしまった金色の髪の毛を揺らしながら、隣の秋人さんと言葉を交わしている。

 その様子は、あの屋上の時と同じ。

 どこまでも目の前の『北斗』に興味なさげで、それがさらに火に油を注ぐ。

『北斗』の三人がイラついているのが、目に見えて分かった。


 そして――――。



「……」



 新太さん。

 連絡はとってはいたけど、ウチには返ってくる返信が素っ気ない言葉の羅列に感じた。

 そんな状態だから。

 ウチも、直接その姿を見るのは久々だった。 

 古賀先輩の隣で静かに立っている新太さんは、視線を下に落とし、演習が始めるその刻を待っているように思えた。

 前までの優しい新太さんの表情とは()

 思い詰めたように、その感情を押し殺すかのように、ただただ痛々しい。




「来栖」と。

 少し恥ずかしげに名を呼んでくれた大切な彼氏の面影は、どこにもない。



「……っ」



 知らず知らずのうちに、ウチは握り拳を作っていた。




「……それでは、定刻になりました。

 始めましょう」


 佐伯支部長の凜とした声が、修練場内に響き渡り、にわかに騒がしかった観衆が静まりかえる。


「私の指揮下にある対『暁月』特殊殲滅部隊『北斗』と、その直掩部隊である『破吏魔(はりま)』の実践型演習を開始します」


「……僕は、()()()()()をやりたくないんだけどね」


 秋人さんが溜め息混じりにメガネを上げると、対面にいる流星はその様子がさぞ面白可笑しいかのように、口角を上げた。


「そりゃそうだよなぁ、オッサン。

 自分の部下がボコボコにされる様なんて、見たくねぇよなあ!?」


 下品な笑い声が、修練場内を満たす―――――。





「……そうだね、確かに()



 感情を込めるわけでもなく、ただ静かに秋人さんは言葉を紡ぐ。



「――――()()は、まだ秘密にしておきたかったからね」



「……何?」


 今の今まで笑みを浮かべていた流星の表情が、一転、秋人への敵対心に変わる。


「……今、何つった?」


「わざわざ、噛み砕いて言わなければならないかな?」


 その場に、にわかに走る緊張。

 両者の発する生体光子――――霊力が、充満してゆくのを感じる。



「君たちよりも、()()()()()ってことだよ」



 秋人さんに親指で指された二人――――当事者であるはずの古賀先輩と新太さんは、目の前で交わされる会話に興味ない、といった様子で沈黙を貫いている。

 そして、その逆。

 明確なを見せたのは、対面側にいる濃紺色の制服達だった。



「……いいじゃんいいじゃん!

 面白いこというじゃん、オッサン!!!

 裏切り者のくせによぉ!!!」



 満面の笑みを浮かべている流星の眉間には青筋が浮かび上がり、唾を飛ばしながら吠える。

 そして、それは他の『北斗』も例外ではない。

 工藤春臣、美波有栖両名も、眼前のふざけたことを口走っている背信の者へと憎しみを込めた目線を向けていた。


「お前の時代は終わったんだよ、古賀!!

 いつまでも頂点にいると勘違いしてんじゃねぇぞ!!!」


「……明智君、少し落ち着いてください」


「支部長は黙ってろ!!!」


 自身の上司である佐伯夏鈴の制止を振り切り、秋人さんへと詰め寄ろうとした、その時だった。




「――――やるんだったら、さっさやりましょ。

 いつまでそんな生産性のないやり取りをしているの?」



 呆れたような声音。

 そして、古賀先輩は静かに前へと躍り出る。



「……そうだよな、古賀」



 その声に呼応するかのように、前へと出る工藤春臣。



「……流星、落ち着け。

 お前の相手は、古賀じゃないだろ?」



「っ……!!」



 流星が咄嗟に視線を向けた先、そこにいるのは無表情の黒髪の男。



「言ってダメなら、分からせてやるんだ。

 俺達第三世代こそが、――――頂点に立つ存在であると」



 転瞬。

 暴力的なまでに濃密な霊力の熾り――――。



「愉しもう。

 俺達は、だろ?」



 執行人。

 何の?

 ……問うまでもない。

 それはこの、公開処刑の――――。



 春臣はただ不敵に嗤いながら、霊力を迸らせていた。




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