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序列最下位の陰陽師、英雄になる。  作者: 澄空
第三章 《過激派陰陽師達、宵闇に蠢く。》
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第109話『再会』



「うわぁ……、瑞紀負けてんじゃん……。

 ってか、新太さんつっよ」


 泰影さんから様子を見に行くように連絡が来たのが十分前。

 ここに到着した時点で、瑞紀は新太さんの式神に翻弄されていた。

 というか、黙って撤退すればよかったじゃん。

 何バカ正直に突っ込んで、挙げ句の果てに負けてんの?

 私は手に持ったスマホを操作し、先ほど命令を受けた人物へと電話をかける。

 何コールかした後、いつも通りの爽やかボイスが聞こえた。


「もしもし、泰影さん?

 私です、八千代」


『いやいや、面倒をかけて済まない。

 君も暇じゃないのにね。

 で、瑞紀はどう?』


「燃えてます」


『……え、どゆこと?

 もしかして瑞紀、やられちゃった?』


「『六合』の術者にメラメラと燃やされてます」


『あっちゃー、やっぱりか……。

 俺、めたんだよ?やめとけって……』


「そんな忠告、聞くやつじゃないじゃないですか」


『まぁ、そっか……うん、オッケー。

 瑞紀のことは仕方がない、ということにしよう。

 『級長戸辺(シナトベ)』は?回収できそう??』


「燃えてます」


『……それも、オッケー。

 うわぁ、もっとちゃんと止めてれば良かったなぁ……。

 曹純さんも今、清桜会にちょっかいをかけに行ってるのよ』


「えー……、でもあのおじさんなら引き際とか心得てそう……」


『そっちは心配してないんだけどね。

 ……そっか死んじゃったかぁ、瑞紀。

 うん、諸々了解、八千代も気をつけてね』


 その言葉を最後にブツンと、電話が切れる。

 ともあれ、私は取り越し苦労ということになるのかな……?

 ……まぁ、いいか。

 私は、最後に燃えゆく仲間の姿をこの目に焼き付けた。



 ―――――ほんっと、バカだね。




 ***




 ―――――寒い。

 式神も、既に供給路(パス)が絶たれ、元の護符へと戻ってしまっているのが見えた。

 狭窄する視界。

 砂浜に滲む俺の、血液。

 ……俺の?

 これ、みんな、俺の血……?

 耳が鳴る。

 音が鳴っている。

 さざ波なのか、何なのか。

 遠くで、誰かの声が―――――。


 来栖……?


 多分、叫んでいる、けど。

 ごめん。

 聞こえない。

 今は、凄く眠い。


 来栖。


 俺は―――――。




 ***




 同時刻、新都東区六坂(むさか)神社境内―――――。

  




 ――――涼しい夜風。

 上を見上げると、揺れる木々の隙間から時折星々が顔を出している。

 迎えるは満天の星空、夏の静謐。


「―――――僕に、何か用ですか?」


 階段を数段挟み、下方に人影があった。

 霊場の定期巡回中邂逅した、狩衣姿の痩身の男性。

 顔は翁の能面で隠れていて、その表情は窺い知れない。

 多分、―――――。

 あの狩衣もハッタリではなく本物。

 それに体から立ち上る霊力が、……静かすぎる。

 それが意味するのは、霊力の完全なる制御(コントロール)を果たしているということ。

 相当な手練れであることを確信し、式神を手に取った。

 それにどこか、……懐かしい感じ。

 自分で言っておきながら違和感を覚えた。


 懐かしい?

 何で―――――、懐かしいんだ?


「……久しいな」


「――――――!」


 それまで沈黙を守っていた能面が、静かに口を開いた。

 嗄れたような、声。

 転瞬。

 僕の背中を伝う冷や汗。

 畏れや武者震いと言った類いのものでは無い。

 これは、郷愁。

 でも、なぜ郷愁で冷や汗が……?

 まさか。

 いや、それは、ない。

 だって、()()に。


 脳裏に浮かんだをひねり潰す。



「本当に、強くなった」



 能面を外し―――――、床に落とす。



「―――――秋人」



 心臓が、有り得ない音を立ているのが――――分かった。



「曹純……さん……?」



 かつて。

 妖との戦闘で()()()()()()が、僕の目の前にいた。







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