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序列最下位の陰陽師、英雄になる。  作者: 澄空
第三章 《過激派陰陽師達、宵闇に蠢く。》
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第107話『火垂』



 ―――――何やねん、コレ。


 弥生瑞紀は、ただ目の前の光景に目を奪われていた。

 目の前にいる血塗れの子どもが音声コードを認証した瞬間―――――。

 周囲へと溢れ出る漆黒の霊力。

 そして、その右手へと顕現するのは、刀身が鮮血のごとく赫く染まった()

 もう片方の手で刀印を結び、霊力を集中させている。

『六合』は他の式神と同調することで、その真価を発揮する―――――と瑞紀は()()()()()()

 これが、その『同調』―――――。


 ―――――十二天将を使いこなせないガキやったんちゃうんか……?

 めちゃくちゃ使ってるやん。

 クソが……、大嶽。アイツ何を見てたん?


「十二天将を発動したところで、オマエ死にかけやんけ!!」


 別にかまへん。

 殺したればええんや。

 何してくるか分からんけど、その前に刻めば!!


 瑞紀が再度、『鎌鼬』を展開しようとした―――――転瞬。

 眼前の『六合』の霊力が揺らめいた。







「―――――火垂(ほたる)




 ***




「自然事象系の式神……?」


「……はい。

 やっぱり俺としては、運動制御系の式神が好みなんですけど……、戦闘での幅を持たせたいんです」


「……まぁ、確かに。

 それに越したことはないよね」


 しかし、言葉とは裏腹に秋人さんの表情が陰った。

 その意図しているところは俺も理解できている。


「でも……」


()()、ですよね」


 そう。

 自然事象系の式神、それは扱いが非常にピーキーであるということ。

 一朝一夕で使いこなせるものでもないと思うし、人には得てして向き不向きというのもある。

 俺自身、そのことはよく分かっていたし、今回その上での注文(オーダー)


「……とりあえず、聞くだけ聞こうか。

 どんな事象にしたいんだい?」


「―――――」




 ***




 空間指定によると、対象のを組み合わせる―――――。

 それはつまり、()を創り出すこと。






「何や……、()()


 目を見開き、こちらを凝視している男。

 俺に肉迫した不可視の刃。

 それが俺に達することは、()()()



 ――――――発現事象、『火垂(ほたる)』。

 術者の周囲に結界を形成し、そこに入り込んだ特定の物質及び現象を感知、自動(オート)で発火させる発現事象。

 燃焼反応は、術者である俺に接近すればするほどに激しさを増し、俺に達することなく燃え尽きる――――――。

 故に、『火垂』。



 俺を中心にして数多の炎が揺らめき、そして地面へと落下する。

 それは、俺へと発された鎌鼬の()()()

 いくら不可視の斬撃であったとしても、届かなくては意味がない。


「はっ……、それが何や!!

 こっちには色々と手があんねん!!!」


 男を中心に再度、空気が流れてゆく。

 そして、その掌に集中する空気圧の塊。

 鎌鼬を発生させた時と同じ要領で圧縮を加えているのか、視認できるほどの空気の塊――――――。


「死にさらせぇ!!!

 『烈風浪』!!!!!!」


 圧縮した空気の解放――――――。

 周囲の大気圧を調整し、流れを俺へと向けているのだろう。

 一極集中の烈風が、俺へと迫る。


 しかし。



「……っ!!!!」


「――――――お前、()()()()()()()()()()()()


 男から発された烈風はその威力に関わらず、俺の結界内に入った瞬間灰燼に帰す。


「……この『火垂』は、発現事象の効果範囲指定ってのが、めんどくさいんだ。

 要は、結界内に侵入した「何を」発火させるか、っていう指定を、詳しく行わなくちゃいけない」


「……それが、なんやねんっ!!」


「指定するためには、その攻撃を術者が見たり、聞いたり、()()()……五感に訴えるとこが多い」



「……!!

 クソガキがっ……!!

 お前、さっきのはわざと……!!!」




「――――――痛みも、立派な感覚として『蛍丸』に蓄積される」




 烈風の勢いが、止んだ。


「一度効果範囲を指定しまえば、それに準ずる物理的精神的攻撃を無効化できる。

 例を挙げると、鎌鼬を発生させる、それを制御する。つまりは――――――」



 男が息を呑む気配。



「―――――お前の式神は、もう俺に通用しない」











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