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ダンジョンアタックで奴隷の見極め 雪華編 4

 特に男性が、ひぃ! となる残酷描写があります。

 ご注意ください。


 性犯罪者は男女問わず去勢でいいと思うのですよ。



「お手を煩わせてしまって、申し訳ありません!」


「ちょっとぉ! アンタ達ナニ言ってるのよ、私! こいつに、こんな酷い怪我あっ!」


「屑は黙って!」


 フェリシアが膝をついて謝罪する横で暴れるネリの大口の中へと、セシリアが何かを突っ込んだ。


「まさか本当に使う事になるとは思ってなかったよ……」


 一仕事やり遂げた顔で額に滲んだ汗を拭うセシリアの横で、ネルが所在なさげに頭を下げる。


「雪華さん。妹がご迷惑をおかけしてしまって、本当に申し訳ありません。妹は……ネリは、自我を持つ武器に見放されたのですね?」


 雪華が握っていたエゴイストは、その通りだ! と言わんばかりに、アイテムバッグの中へと自ら飛び込んでいった。


「!? !!!!!」


 ネリが何やら叫んでいるようだが、音になっていない。

 どうせエゴイストを御しきれなかった雪華が悪いとでも喚いているのだろう。

 そもそも自分が御せていなかっただなんて、微塵も思っていないに違いないのだ。

 

 しかし声が聞こえないだけで随分とストレスが軽減される。

 説明を求める目線を投げればセシリアが心得たとばかりに大きく頷いた。


「買い物時に、勧めて下さった方がいたんですよね。安くするからどう? 使う使わないはさて置き、持っているだけで安心できるんじゃないかな? と」


 ネリの暴走はそれだけ目に余ったのだろう。

 店員に物騒なアイテムを勧められるくらいには。

 セシリアが掌に乗せたのは、小粒の丸薬だった。

 紫色をしており、小さく、きしゃー、きしゃーと威嚇音を放っている。


「音を食べ物とする生物とのことです。失敗作だからと、驚くほど安価に売って下さいました」


 説明を聞いてセシリアに飛びかかろうとするネリをフェリシアが羽交い締める。

 怪我をしているとは思えない敏捷さだったが、ネリ以外のメンバーは極めて優秀だ。

 ネルが素早くマジックバッグから引っ張り出したロープを受け取ったフェリシアは、手早くネリを拘束というよりは梱包した。

 指すら動かせない完璧過ぎる箱型梱包だ。


「雪華さん。これ以上、こいつを連れてのダンジョンアタックは難しいと思われます。評価も下げて下さって構いませんので、引き返すわけにはまいりませんでしょうか?」


「……他の二人は、どう考えているの?」


「フェリシアに賛同します。勘違いの挙げ句、雪華さんを罵倒するとかあり得ないです!」


「私もフェリシアに賛同致します。このままでは、こいつのせいで皆の心身を損ないかねません。こいつを、このまま、ここへ! 放置して! 戻りたく、思います」


 荷物状態のネリは暴れることもできない。

 声も出せない。

 己を見捨てる姉の言葉を耳にして、ただ、大きく目を見開いた。


 どうして?

 私は、何も悪くないのに!


 と、訴える瞳はどこまでも自分勝手極まりなかった。


「気持ちはとてもよくわかるけど、ここへ放置は駄目だよね? 買った責任はきちんと果たさないと……では、ダンジョンアタックは、ここまでとするよ」


 ネリという害悪を抱えながらどこまで戦えるのか見てみたい気もしたが、それは悪趣味というものだ。

 アリッサが躊躇なく見限るだけの理由も十分過ぎるほどたまったのだから帰還止むなし。


 雪華の言葉に、三人は安堵の表情を浮かべた。

 ネリは絶望でもしていればまだ寛容にもなれそうなものが、私は絶対に悪くない! と主張するふくれっ面だった。

 

「では……最短ルートで戻ろうか。ネルが先導してね」


「はい。了解致しました」


「よぅ! ちょっといいか? 話、聞いてたんだけどよぉ。そいつ、いらねぇんなら、俺達に売ってくれないか?」


 ネルがフェリシアの肩から飛び降りたタイミングで、声がかけられた。


 初級ダンジョンへ潜るにしては装備が整いすぎている男ばかりのパーティーが、雪華達の様子を伺っているのには気が付いていた。

 排除をしなかったのは、何時でもできるからだ。

 女性ばかりの新人パーティーは、あらゆる意味で狙われる。

 敵はモンスターばかりではないのだ。

 これも見極めの一環だった。


 三人は探知できなかったようだが、ネリが想像以上の天然というかお花畑というか、むしろ自分に都合良くしか考えられない害悪だったので仕方ない。

 熟練冒険者でも気のせいかと勘違いする程度には、男達の気配も消されていた。

 その点にも、女を食い物にする常連臭さが滲み出ているのに、本人達は気が付いていないらしい。

 そもそも、雪華を彼女達と同じ初心者として判断したのは、致命的なミスだ。


「幾らで?」


「おお! 売る気はあるんだな!」


「1000ギル」


「ばっ! そりゃ、高けぇよ!」


「リス族の特殊個体は、レアよ? 貴方達だって見たの初めてでしょう?」


 男達は顔を見合わせている。

 ネリは満更ではない表情をした。

 三人は何時でも攻撃できる態勢を維持したままだ。


「でもよぉ、置いていくのいかねぇのって、揉めてたじゃねぇか。なら、安くしてくれたって、や! むしろタダでもいいはずだぜ?」


「そ。じゃあ、交渉決裂ね! 皆、行くわよ!」


 フェリシアがハルバードにネリを縛るロープを引っかけた。

 荷物が担がれているようにしか見えない容赦のなさだ。

 ネリの抗議の眼差しなど、男達のその後同様に、誰も気にかけやしない。


「おいおいおいおいおい! 待てってば! 解った! 解ったよ! 1000ギル払うって!」


「銀貨で支払ってね?」


「新人が銀貨なんて持ってるわけねぇだろ! ほらよ! 銅貨100枚だ!」


 男は金が入っているらしい袋をこちらへ放り投げた。

 地面に袋が当たって音がする。

 誰がどう聞いてもお金が入っている音ではないのだが、それで騙されると思っている浅はかさには失笑するしかない。 


「嫌だわ。どこまで人を馬鹿にしてるの? 石貨せっかなんて、王都で使える店、ないわよ?」


 実はそうでもない。

 ちょっと変わった品物を取り扱う店ならば、希少な石であれば取引に応じるところもある。

 無論、希少な石=石貨として成立するのであって、その辺に転がっている普通の石=石貨とはなり得ない。

 そもそも石貨は存在しない貨幣単位だ。


「う、うるせぇ! 石貨なわけねぇだろ!」


「じゃあ、開けて見せなさい。石の音しかしなかったわよ。石貨じゃないのなら、嫌だわぁ。もしかして、ただの石ころなの?」


 馬鹿にしくさった口調で上から目線に言ってのける。

 単純な男達の実力が伴わない高いプライドを、存分に刺激できたようだ。


「畜生! やっちまえ! 顔に傷付けるんじゃねぇぞ!」


「馬鹿! 身体にもだろ!」


 男の一人が地面に向かって何かを投げつける。

 ぼん! と音がして、真っ白い煙が広がった。

 目くらましの効果だろうか?

 いや、どうやら睡眠効果があるようだ。


 四人の様子を伺う。

 地面に投げ出されたネリは速効で寝入っていたのに、まず胸を撫で下ろす。

 これで行動を妨げられない。

 三人は素早く煙の効果範囲から飛び退いているようだ。

 雪華には異常状態系の攻撃は、まず効果がないので、その場で仁王立ちになってみた。

 それだけで十分な威圧となるはずだ。


「くそっ! 一人しか寝てねぇ、ぞぉ……?」


 叫んだ男が一人と、無言で男が一人崩れ落ちた。

 間抜けにも熟睡している。

 眠り避けぐらい施しているかと思ったら、そうでもなかった。

 間抜けが過ぎるとにやけたが、もしかするとセシリアの眠りの腕時計が発動したのかもしれない。

 ここにきて、運の良さが発揮されたのだとしたら、やはりネリの妙な幸運が一体どこから来ているのか不思議だ。


「おい! お前ら? んだよ! こんな初心者が、どんなアイテム持ってんだ! げひっ!」


 眠ってしまった男達を蹴り飛ばした男の足は、セシリアの鞭に絡め取られた。

 軽々と持ち上げられた全身が岩に叩き付けられる。

 ごきっごきっとどこかの骨が砕けた音がして、男が失神した。


「ちっ!」


 転がっているネリを抱えて逃げようとした男の首に、ぐるりと赤い血の線が走った。

 男の肩に乗ったネルが首にククリナイフを滑らせたのだ。

 皮一枚だけを切る見事な技量を見せつけたネルは、猛毒で死にかけた男の口内へ丸薬を投げ込んだ。

 身体が自由には動かない程度の毒消しだろう。

 殺すよりは生かして贖いをと考えたようだ。

 それはアリッサや雪華の方針に叶う良い判断だった。

 

「ひぎゃあああああ!」


 最後の男は一番不憫だった。

 フェリシアのハルバードが男の性器を睾丸ごと切り落としたのだ。

 既に犯せると疑わなかったのだろう。

 ズボンの中でとはいえ勃起していたので、綺麗に切り落とせてしまったのだ。

 

「ぎ、う!」


 性器をなくす痛みには耐えられても、出血を止めるために松明で血塗れの患部を焼かれるのには耐えられなかったらしい。

 泡を吹きながら意識を失った。


 実に短時間で、しかも雪華の手を煩わせることなく、対人戦を素早く終わらせた三人が揃って息を吐き出した。


「お疲れ! 見事だったわ」


「生かしましたが……宜しいでしょうか?」


「うん。勿論! これだけのことをしてくる奴等だもの。指名手配になっている可能性もあるし、王都のギルドなら犯罪を暴くアイテムも充実しているしね。生かして、贖わせなきゃ、被害者が報われないわ」


 フェリシアが手早く意識のない男達を梱包する。

 これまた情け容赦ない箱型梱包だ。

  

「どうやって運びましょうか?」


「引き摺っていきます?」


「それだと意識を取り戻して面倒なことになりそうですね」


「セシリア! 何か良い物はないか?」


 目を閉じて悩むセシリアに横から意見を出した。

 一番良い判断だが、雪華の許可がいると思ったからだ。


「……犯罪者だから、マジックバッグに入れて運ぼうか。もし何か言われたら私が責任取るから」


 生きている人間をマジックバッグに入れるのは基本禁止されている。

 例外事項は数多あるが、どれもギルドや犯罪を裁く側の胸先三寸だ。

 犯罪者を収納した場合、ほとんどが罪に問われる事はないが、全くないわけでもなかった。


 初級のダンジョンアタックで、自分達が襲われる可能性を考えた場合。

 撃退する方法や逃げる方法を手配できたとしても、全員を拘束して生きて連れ帰るなんてハードルが高過ぎて無理だろう。

 その辺りも考えての判断だ。


「……それでは雪華さんの言葉に甘えましょう」


 フェリシアがぽんぽんとマジックバッグの中へ男達を放り込んでいく。

 最後にネリも一緒に放り込まれたが、誰も止める者はいなかった。

 怪我を治さなくていいのかと、疑問を抱く者すらも。

 既にネリの扱いは、性犯罪者と変わりない扱いになってしまったのだ。



 お花畑電波系は書くと消耗するのは解っているのですが、定期的に書いてしまう不思議……。

 勿論ざまぁはセットです。

 バラ売り不可です。


 次回は、ダンジョンアタックで奴隷の見極め 雪華編 5 の予定です。


 お読みいただきありがとうございました。

 引き続きお付き合いいただけたら嬉しいです。

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