五十九話 「奴隷となった経緯」
イズナを迎えた翌朝、床で寝ていたアッシュが目を覚まし大きく背伸ばしして体を解していると遅れてイズナが目を覚ました
『おはようイズナ、よく眠れた?』
『・・・あぁ、おはようアッシュ』
若干照れ臭そうにアッシュの名を呼ぶイズナを見て昨夜の事を思い出す
朧気だが体を密着させながら服をはだけさせ甘い言葉を投げかけてくるイズナの姿は鮮明に覚えていた
『ねぇイズナ、昨夜のって・・・』
『あれは忘れろ、いいな?』
『いやでも・・・』
『忘れられないというのなら私が無理矢理忘れさせてやるぞ』
『忘れました!もう綺麗さっぱり!』
イズナも昨夜のことは忘れて欲しいようで語気を強めてアッシュに圧をかけてくる
そこへ二人の様子が違うことを察知したアレッサが問いかけてくる
『二人の感じがなんだか昨日と違う気がする・・・私が寝てる間に何かあったの?』
『い、いや?別に何もないよ』
『あぁ、何もやましい事はしていない』
『ふぅん・・・まぁいいか。それよりも朝食にしよっか。準備するから少し待ってて』
怪しまれていそうな気はしたがそれ以上追求されることはなく、アレッサは昨日購入しておいた朝食用の食事をテーブルに並べ始めた
昨日あれだけ食べていたというのにイズナの食欲は朝から凄まじく、多めに用意しておいた食料を軽く平らげてしまった
朝食を済ませた後、イズナに今後についてアッシュは昨日ベルと話した事をそのまま二人にも伝えた
『というわけでベルがその首輪を解析して外せるらしいんだけど少し時間がかかるんだ。それまでの間だけ我慢してくれないかな』
『本当にこの首輪がとれるのか?』
『まぁな、オイラが一肌脱いでやるぜ』
『首輪が取れたらイズナを縛るものはもう何もないからその後どうするかは自由に決めていいよ』
首輪が外れると分かれば喜ぶだろうと思っていたが、予想していたリアクションとは裏腹にイズナは浮かない顔をしていた
『どうしたの?何か不安なことでもあった?』
『いいのか・・・?あいつらが言っていたことは本当で私は人を殺した殺人鬼だぞ』
『・・・これは僕の直感でしかないけどイズナは何の理由もなしにそんな事をするような人じゃないと思ってる。だから勿論無理にとは言わないけどイズナがよければ話を聞かせてくれないかな』
アッシュの言葉を受けイズナはゆっくりとだが奴隷に至るまでの経緯を話し始めた
イズナ達獣人は人間とできるだけ関わらないよう山奥に里を築いて生活をしていた
人が足を踏み入れない場所な分里の外に出ると危険は多く、子供は里の外に出てはいけないという決まりがあった
だがある日、いつも見かけていた獣人の子供数人の姿が見当たらず里の外に出てしまったのではないかということで数人で手分けして探し回っていると、牢付きの馬車に閉じ込められて連れていかれる子供達をイズナが発見した
その連れ去ろうとしていた犯人というのが人間だったという
イズナから聞いた限りではその馬車は奴隷商人の馬車、しかも昨日アッシュ達が訪れたような表立って店を構えているような所ではなく非合法な闇奴隷商人だと考えられる
一般的に奴隷に堕ちるのは罪を犯した者であるが、闇奴隷商人は高値になりそうな罪のない人物を狙って人攫いを行う
そんな輩に狙われ連れ去られようとしていた子供達を逃がす為、イズナは単身で数人を相手にした
檻を破壊し子供を逃がすところまでは上手くいったようだが、子供を守りながら戦うのは難しかったようで追ってくる人間を手にかけたという
『それで子供達を救出することができたけど数日して今度は大勢の武装した人間達がやって来てな。私に殺人の容疑があるとかで連れていかれたんだ』
恐らく、いや十中八九それも闇商人が企てたものだろう
イズナもしようと思えば抵抗もできただろう・・・だが仲間達に危害が加わることを考えてイズナは大人しく連行され、現在の奴隷という地位に堕ちてしまったと明かした
ダンジョン攻略の証が手にあったのはあの冒険者達に買われた経緯で偶々手に入れたものらしい
一通り話を聞き、アッシュはやはり自分の目に狂いはなかったと確信が持てた
『イズナは連れていかそうな里の子供達を守る為にやったんだね。相手がやっていたことはこの国では違法行為、それでイズナが咎められるのは間違ってると僕は思う』
『私の言葉を信じるのか・・・?獣人の戯言かもしれないぞ』
『私も信じますよ。話している時のイズナさんの表情を見れば嘘をついてないって分かりますもん』
獣人の言葉をまともに聞こうなんて者はおらず、ましてやその話を聞いて信じる者なんてこれまでいなかった
二人の言葉によってこれまでずっと孤独だったミリアスは僅かだが気持ちが軽くなったのと同時に、やはり他の人間とは違うと強く感じた
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