五十八話 「深夜の出来事」
食事を済ませた後、満足いくまで腹を膨れさせたことでイズナはすぐ眠りについてしまった
きっとこれまでまともに休むことも許されず酷使され続けていたのだろうから今はゆっくり寝させてあげよう
『そういえばアレッサは獣人見るのもしかして初めてじゃない?全然驚いてる様子がなかったけど』
『私がいたルグニア大陸は獣人と人が共存してるんだ。実家にいた使用人にもいたし・・・だから獣人がいたことよりこっちでの獣人扱いの方に驚いたよ』
『そっか、そんな風に仲良くできればいいんだけどこればっかりは僕達だけじゃどうすることもできないからな』
アレッサが住んでいたルグニア大陸とこちらでは大分獣人との関係が異なるようだ
この国でも獣人と良い関係を築けたらと思うが、それを実行するには他者の意識改革が必須なわけでお互いが歩み寄らなければ始まらない
それは難しいことだが、せめて目の前にいるイズナとは打ち解けられたらと思う
『さて、僕達も寝よっか。明日起きたらイズナにこれからのことを話さないと』
『そうだね、おやすみ』
ベッドが二つしかないのでその夜はアッシュが床に布をいくつか敷き、毛布に身を包んで寝た
慣れないことをして普段とは違う疲労があったのかアッシュはすぐ眠りについてしまった
それから暫くして日付けも変わり町の殆どの者が床に入り寝静まった頃、寝ているアッシュの腰の下辺りに何かがのしかかってくる
それで目を覚ましたアッシュが寝ぼけ眼で下の方を見てみるとそこには腰に跨っている人物がいた
『ん・・・?イズナさん?どうして僕の上に?』
月明りがないので顔はよく分からなかったが頭に耳のシルエットがあるのでイズナだと見分けがついた
アッシュが問いかけるもイズナは口を開かず沈黙を続ける
もう一度問いかけてみようかとしたその時、イズナはアッシュに体をくっつけてきた
『イズナさん?もしかして寝ぼけてるんですか?』
『あーえっと、その、なんだ・・・』
口をもごもごさせながら何かを伝えてこようとしてきたのでアッシュはそれを待った
少しの間待っているとようやくイズナは内容を告げてきた
『ご主人、あの男達から助けてくれたこと感謝している。ご主人達は他の人間達とは違うんだな』
『別に僕やアレッサだけが特別ってわけじゃないですけどね』
『そんな事ない。今まで色んな人間を見てきたけどどいつもこいつも獣人を家畜のような扱いをする奴らばかりだった。だけどご主人達は私をちゃんと対等な存在として扱ってくれた。だから・・・』
夕べとは随分と変わった雰囲気で語りかけてくるイズナは先程よりも体を密着させ、上目遣いで一呼吸おいてからその言葉の先を明かした
『ご、ご主人が望むことなら私はなんでもしてあげるぞ』
『なんでも?』
『そう、なんでもだ』
イズナは服を軽くはだけさせながら甘い吐息を投げかけてくる
時刻は未明、目覚めたばかりで頭の回転が鈍かったアッシュはその時頭に思い浮かんだことをそのまま口にした
『じゃあ僕と友達になってよ。堅苦しい呼び方はやめて気軽にアッシュって呼んで欲しいな。アレッサのこともさ』
『は?』
アッシュが求めてきた要望にイズナは予想していなかったのか面をくらったような顔をしていた
『そんな事を望んでいるのか?』
『うん、僕達はただ君と仲良くしたいだけだから・・・というかごめん、そろそろ限界だからまた明日ゆっくり話そ・・・』
それを伝えた次の瞬間にはアッシュは寝息をたて再び眠りについてしまった
イズナの目論見としては誘惑して本性を暴いてやろうと思っての行動だったが、失敗に終わってしまった今ただ呆然とすることしかできなかった
思えば最初に出会った鉱山でもそうだった
この男は自分が損をすることを承知で獣人である自分に手を差し伸べてくる
きっと裏があるに違いないと何度も探りを入れたが、男からは全くそういった気配を感じられなかった
『本当にただの善意だけで私を・・・?だとしたらただの大馬鹿だろ』
ドラゴンを使役してることから普通の人間とは違うことは分かっていた
本当はこの者達が一切の嘘をついていないことも知っていた
こんな行動を起こしたのもそんな人間がいるはずないと信じたくない気持ちがあったからというのもあった
『人間にもこういう奴等がいるんだな』
人間に対しての考え方を変えるつもりはないが、この二人に限り認識を改める必要があるかもしれない
そう考えてイズナはベッドに戻り眠りについた
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