五十七話 「関係の構築」
大衆浴場にやってきたアッシュ達はそこで一旦アレッサ達と別れあとで落ち合う事に
幸いなことに男風呂の方は利用客が少なかったようで管理人から特別にベルやクウが入るのを許可してもらえた
『ほら体を綺麗にするよベル。たまにしか体洗わないんだからこういう時にしっかり洗わないと』
『その泡目に入ると滲みるから嫌なんだよなぁ。あっ、翼は丁重に扱うんだぞ』
『はいはい、クウは・・・汚れてないけど一応洗おっか』
自身の汚れも吸収してしまい常に清潔なクウを洗う必要はないかもしれないが、手で擦られるのが気持ちいいのか嬉しそうにするのでついつい洗ってあげたくなってしまう
各々の体を洗い終え浴槽に浸かり温かい湯に身を包まれていると、湯船に浮かんでいるクウの上で優雅に寛いでいたベルが話しかけてくる
『主、あの獣人を仲間にするつもりなのか?』
『うーん、身体能力が高い獣人のイズナが仲間になってくれれば前衛の層が厚くなって有難いけど今の関係でそれは難しいかなぁ。仲間にするなら奴隷っていう立場から解放してお互い対等な関係を築きたいかな』
隷属の首輪を外す方法は二つあり、一つは一般的な方法で首輪をつけた奴隷商人本人による解放
だが首輪を外すにはつけるよりも複雑な手順が相当あるらしくてかなりのお金がかかるんだそう
有り金の殆どを使ってしまった今その案でいくのはかなり厳しい
もう一つの手段は魔法を用いての解放、こちらは解呪の魔法というあらゆる呪いを解くといわれている魔法で首輪の呪法を解くやり方だ
ただこちらは解呪の魔法を使える者が滅多に現れない為殆ど前例がない
だがアッシュの目の前には様々な魔法を扱うことができるベルがいる
『ベルは解呪の魔法って使えたりする?』
『解呪の魔法?使えるぜ。使えるけどよぉ・・・解呪の魔法ってのは魔法を唱えて呪いが解けた!はい終わりってわけじゃないんだ。まずは対象にどんな呪いがかけられているかをよく調べて更にその呪法の構築式を解析してその呪いに適した解呪の魔法を使用しなきゃ効果がないんだ』
『そっか・・・その辺りはイズナさんと話し合って決めるしかないな。その時はお願いしていいかな』
『美味い肉を食べさせてくれるならな』
とりあえず当事者がいないところで話を進めても仕方ないと思いこの話題は一旦終わりにして湯舟の中でゆっくり体を休めることにした
『やっぱり広いお風呂はいいですねぇ。さっ行きましょイズナさん』
『言っただろ。私は人間が嫌いだ、構うな』
イズナはそう言い放つとアレッサと別の場所に行き体を洗い始める
するとそのすぐ後ろを他の利用客が通りがかった
イズナの存在に気づくとその者達は露骨に嫌な顔を向けた
『うわっ、ねぇちょっとあれ・・・』
『やだっ、なんでこんな所に獣人なんているのよ。あっちに行きましょう』
相手に聞こえていようとお構いなしで奇異の目を向けてその者達は立ち去っていった
その様子を見ていたアレッサはイズナの隣を陣取った
『隣失礼しますね』
『お、おい!お前話を聞いていたのか!』
『聞いていましたよ。でも私はただ体を洗ってるだけですからどうぞ気にしないで下さい』
周りの目など気にすることなくアレッサは体を洗い続けた
今まで自分に寄りついてくるような人間は皆その行動には裏があった
だが目の前にいる人間の行動は何を考えているのか理解ができずイズナはただただ困惑するしかなかった
『なんなんだお前達は本当に・・・』
お風呂から上がってきたイズナはボサボサな髪が綺麗に纏まり、汚れていた服からアレッサが貸した服のお陰で見違えるような美少女へと変貌を遂げた
おっとりとした雰囲気のアレッサとはまた違ったタイプで、少しつり目で凛とした中にも幼さが残った可愛いと綺麗が合わさったような雰囲気を醸し出していた
獣人という種でなければ今この場で周りの人からひっきりなしに声をかけられていただろう
そんな容姿からは想像ができない程の空腹を告げる音がイズナから聞こえてくる
『露店で適当に何か買って部屋で食べようか』
その方が人の目もあまり気にならないだろうと思い露店でイズナが食べたそうにしていたものを選んで部屋に持ち寄る
ご飯と聞いた時のイズナは今までの中で一番目を輝かせ無意識に唾を飲み込み喉を鳴らした
持ち込んだ料理を並べている時のイズナはさながらおあずけをくらっている犬のようだった
『さっ、どうぞ。たくさん食べて』
アッシュが促すとイズナは料理に飛びつくのを我慢してまずは鼻を近づけた
恐らく何か盛られていないか確認をしたのだろう
ずっと観察されていたのでそんな隙はなかったが念を押しての行動か
何も盛られていないことを確認するとイズナは料理を口に運ぶ
瞬間、頭の耳がピンと立ち体を震わせて喜びの声をあげた
『うみゃーい!』
そう叫んだ瞬間イズナはこちらを見て少し気まずそうにしていた
だが一口食べると歯止めが効かなくなってしまったようで口の周りが汚れることも気にせず次から次へと口に放り込んでいった
これまで碌に食事を与えてもらっていなかったのは体の線の細さを見れば分かる
食べたくても食べられない過酷な生活をよく耐えてきたものだ
少しでも元気になってもらおうとアッシュは空いた皿に新たな料理を追加してイズナが満足いくまで食事を与え続けた
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