五十六話 「奴隷契約の上書き」
アッシュ達はダンジョンで獣人に暴行を加えていた冒険者達から獣人を買い取る為奴隷商人がいる店へとやって来た
奴隷商の店はセグエンテの町のあまり人通りがない目立たない場所に存在している
国から承認されているとはいえあまり人が寄りつくような場所ではないので、奴隷商店はひっそりと店を構えている所が多い
店の中に入ってみると中は薄暗く、奴隷を入れておく空の牢がいくつか置かれていた
奥に進んで行くと現れたのはいかにも胡散臭そうな格好をした怪しい男だった
『おやおやようこそ、本日はどのような奴隷をお探しで?』
『いや、今日は奴隷を買いに来たんじゃないんだ。これの所有者を俺からこの男に変えて欲しいんだができるか?』
『所有者の上書きですか、畏まりました。ではその奴隷をこちらに』
奴隷商の男と獣人の所有者である男で話を進めていくと、奴隷商の男が獣人のつけている首輪に所有者の上書きを行っていった
首輪には隷属の呪法という特殊な呪いがかけられており魔法陣とはまた異なった紋様が刻まれている
その呪紋がある首輪をつけられた者は所有者の命令に絶対服従せねばならなくなる
命令に背こうとすれば身体に激痛が走るという仕組みになっているらしい
『ではそこのお方、こちらの首輪に血を一滴垂らして下さい』
首輪に追加で刻んだ紋様の部分にアッシュが一滴血を垂らす
すると紋様が静かに赤く光り、少しして収まった
『これで終わりですか?』
『えぇ、これでこの奴隷の所有者は貴方になりました。料金は金貨十枚になります』
『えっ、そんなにするんですか』
一見簡単な作業に見えてもかなり繊細な作業らしく結構な金額を要求された
ここにきて払わないという選択肢はないが、男達に渡す金額のことも考えるとアッシュ達の手元に残る金額は殆ど無くなってしまった
所有者の上書きを終え店から出るとアッシュは男達に言った通り聖金貨二枚を手渡した
『じゃあこれ約束のお金です』
『確かに。へへっ、まさかこんな大儲け出来るとはな。アンタも相当変わり者だぜ』
それだけ言い残すと男は金をアッシュの手から取り仲間と共に満足気な表情をして消えていった
一先ず問題の一つが片付いたことにアッシュは一息つく
するとそのすぐ後ろで今まで黙って一連の流れを見守っていたアレッサが口を開いた
『アッシュ君?』
『あ、アレッサ。えっとその・・・』
今回は完全にアッシュの独断専行
どう説明しようかともごもごしていると、アレッサがため息混じりに話し始める
『はぁ・・・私もあの人達のやってる事は許せなかったし獣人の子を助けた事についても異論はないよ』
『そ、そっか』
『けどせめて今度から相談位はして。先の事も考えて貯めてあるお金だしあのお金は皆で貯めたお金なんだから』
『本当に申し訳ありませんでした・・・』
怒りを露わにするのではなく淡々と叱ってくる様子が逆に怖く感じたアッシュはアレッサにひたすら頭を下げた
アレッサにも納得してもらうと今度は獣人の方へと目を向ける
『すみません。貴女の意見も聞かずに勝手にこんな事をしてしまって』
『・・・・・』
『え、えっとぉとりあえず名前を教えてもらえますか?あっ僕の名前はアッシュって言います』
『・・・・イズナだ』
イズナは必要最低限のことだけを答えると顔を背ける
やはり人間のことは警戒しているようだ
そう思っていたがイズナはこちらに視線だけ向けてアッシュに語りかけてきた
『先にこれだけは言っておくが私は人間が嫌いだ。この首輪がなければ本来こんなところには寄りつきもしないんだ』
『ですよね、大丈夫です。なんとかしてその首輪を外す方法を探しますから』
『は?』
アッシュは奴隷が欲しかったわけではない
あんな行動をとったのはただ純粋にこのイズナを解放してあげたいという気持ちのみ
イズナは予想していなかった言葉に驚いた顔していた
あれだけの大金を出しておいて首輪を外して解放してくれるなんて夢にも思っていなかったのだろう
少しの間を置いた後、イズナが口を開いた
『なるほど、ご主人の魂胆はアレだろ。私の解放を条件に何か要求してくるつもりだろ』
『え?いやそんな事は考えてないよ』
『とぼけるな、何が望みだ?私の体か?獣人に発情するなんて変わった人間もいるものだな』
イズナはアッシュ達の前でとんでもないことを口にし始めた
勿論アッシュにそんな邪な気持ちは微塵もない
だが横でそれを聞いていたアレッサを見るとドン引いていた
『アッシュ君まさかその為にこの人を・・・?』
『違うよ!そんな事しようなんて頭の片隅にもなかったから!信じて!』
『そんな回りくどいことしなくても交尾がしたければすればいいだろ。どうせこっちは抵抗できないんだからな』
『本当にそんな目的じゃないから・・・』
どうすれば体目的じゃないんだと理解してもらえるんだと頭を抱えていると、イズナが鼻をヒクつかせた後話を続けた
『どうやら嘘はついていないみたいだな。ご主人からはオスの臭いを感じられないしな』
『それはそれで男としては複雑な気持ちがあるけど・・・まぁ疑いが晴れたならいっか。とりあえずまずは宿に戻りますからその前にこちらのアレッサとお風呂に入ってきて体を綺麗にしてきて下さい』
『は?風呂に入っていいのか?というか宿の中に入っていいのか?』
『えぇ勿論ですよ。さっ行きましょう』
今までどんな扱いを受けてきたのかはあの光景を目の当たりにした後なら何となく想像はつく
イズナの事は一旦アレッサに任せるとしてアッシュ達は大衆浴場へ向かった
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