五十話 「過酷な特訓」
ベルの特訓は過酷なものだった
アレッサが普段行っている魔力操作の練習というのは一定量の魔力を自身の体内に留めてコントロールし続けるという方法
一方ベルの特訓方法はいたってシンプルだがその内容というのが強力な魔法をひたすら撃ち続けること
初級魔法のような少ない魔力で撃てる魔法よりも、一度に大量の魔力を使用した魔法の方が魔力を込める要領を早く掴むことができ、結果魔力操作の上達にも繋がるという
だが強力な魔法を発動しようする程魔力操作も複雑になり失敗して暴発するリスクを伴う
アレッサのやり方は安全ではあるが時間がかかる
対するベルのやり方は荒療治のようなもので、最悪死ぬ恐れもある方法らしい
『ほら、どんどん撃て撃て。失敗してもオイラの防御魔法で防いでやるぞ』
怪我をするリスクを考えてベルが事前にアッシュ達に防御魔法を施してくれている
なので怪我を負うような事態にはならないが、暴発による衝撃までは防ぐことはできないので何度も吹き飛ばされる羽目になりそれが軽くトラウマになりかけた
『はぁはぁ・・・』
『アレッサはそろそろ魔力切れか?ほら、オイラの魔力を使え』
こんな方法だと当然魔力がすぐ尽きてしまい魔力枯渇にもなりかけるが、そこはまたベルの魔法がフォローに入る
『マナドレイン』
ベルが魔法を唱えるとベルとアレッサの体が光り、ベルからアレッサへと魔力が流れ込んでいった
この魔法を使うことによってベルの魔力をアレッサに分け与えることができ、アレッサは魔力枯渇をせずに強力な魔法を撃ち続けられるということだ
『よし、満タンになったな。練習再開だ』
『う、うん・・・ありがとうベルちゃん』
この練習をするだけならまだマシだったが、ベルはこれをダンジョンで魔物と戦いながらすることを強制してきた
ベル曰く生物というのは窮地に立たされると瞬間的に限界を超えることができるのだとか
そしてそれを繰り返していると急成長を遂げるらしい
実際ドラゴンは生まれて間もなくして親に谷から突き落とされ、自分の元に帰ってきた者だけを我が子として育てる習性があるという
それが果たして人間にも当てはまるのかは定かではないが、連日そのような過酷な環境にいると感覚も麻痺してきて正常な判断が出来なくなりとにかく目の前の魔物に向かって魔法を放った
アッシュ達はダンジョンから出ることなく連日泊まりで魔物との戦いに明け暮れ徐々に疲労が蓄積されていったが、そんな中でクウは逆に活力に溢れていた
『クウは凄い元気だね。やっぱりベルが持ってきた魔石を取り込んだお陰かな』
先日ベルが持ってきた大量の魔石を取り込んで以降、クウは今まで以上に好戦的になりアッシュ達よりも多く魔物を葬っていた
魔石を取り込んだことによってクウの魔法の威力は段違いに強くなり、以前まで傷をつける程度の攻撃が容易に貫通させるまでになっていた
やはりベルの言っていた通り魔物を取り込むより魔石を直接吸収させた方がレベルを上げるようだ
寝る間も惜しみそんな生活を過ごしていると否が応でもレベルが上がっていき、アッシュは戦闘で使えるレベルまでになりアレッサも苦労していた魔力操作が出来るようになった
『ベルちゃんのお陰だよ。ありがとう』
『約束通りいい肉を食わせてくれよ!』
『えっ?お肉ってなんの話?』
アレッサに内緒で約束していたのがバレそうだったのでアッシュは慌てて話を逸らす
『そ、それより一旦町に戻らない?一度ゆっくり休みたいしここ暫く体洗えてなかったからその・・・臭いがね』
『確かに・・・そうしよっか』
連日ダンジョンに籠りっきりでアッシュ達は汗やほこりで薄汚れていて中々に強烈な臭いを放っていた
特訓が終わった今女性であるアレッサならそんな状態は耐えられないだろう
アッシュ達は久々の地上を目指して出口へと向かう
だがそこに行く手を阻む魔物が現れる
『なんだろあの魔物・・・だよね?初めて見るね』
『多分ジャイアント・キラービートルだよ。空を飛んでくるから注意して』
六本の脚と立派な一本角、背中にはその巨体を飛ばす羽が隠されているという魔物
キラービートルはアッシュ達に狙いを定め背中に格納されていた羽を羽ばたかせ、低空飛行で突進してくる
巨体には似つかわしくない速度だが狂化を使ったオーガよりは遅い
魔法は間に合わないがこの程度ならタイミングを合わせてカウンターを狙えると思ったアッシュは突進してくるキラービートルをギリギリまで引きつけたところで躱し、胸部辺りにある隙間目掛けて短剣を突き刺す
だがアッシュの剣は僅かに逸れてキラービートルの外皮に当たる
キラービートルの外皮は予想していたよりも遥かに頑丈で刃が通らず剣にヒビが入りそのまま折れてしまった
『くっ・・・!ロックバレット!』
『ファイア・ランス!』
アッシュとクウがロックバレットでキラービートルの羽を貫き、敏捷性を奪ったところでアレッサが羽が格納されていた部位を狙って魔法を放った
外皮の中は柔らかかったようでダメージが入りキラービートルはそのまま力尽きた
無事に魔物を倒すことはできたが代償として剣を失ってしまった
アッシュは折れた剣を拾い上げてアレッサに謝罪する
『ごめんねアレッサ。せっかく買ってくれた剣なのに・・・』
『仕方ないよ。使ってればこういうこともあるよ』
これだけ見事に折られてしまったら修復は不可能
魔法も上達して気分よく帰れると思ったのに最後に何とも言えない結果で終わってしまった
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