四十四話 「一悶着」
セグエンテの冒険者組合に到着したアッシュ達は中に入るとそのまま受付に向かった
『あのぉすみません』
『はい、どうされましたか?』
受付のお姉さんに声をかけるとハキハキとした声で返してきた
アッシュは今日この町に着きこれからお世話になることの挨拶と護衛依頼完了の報酬を受け取りにきた旨を伝えた
『畏まりました。では冒険者カードの更新をしますので提示をお願いします』
『分かりました』
新しい冒険者組合にやって来た場合、冒険者の情報確認も兼ねてカードの更新を行う
更新が終わり恩恵の欄の記載が変わっていないかと確認してみたがやはり文字の表記はおかしいまま
受付のお姉さんも初めて見るようで首を傾げていたが、カードを作成した頃からこうなことと恩恵はテイマーだということを伝えると他に異常が見当たらなかったことからそれ以上何か追及されることはなかった
『ではこちら依頼の報酬になります。最後に従魔の確認よろしいですか』
『はい、従魔は二体います。スライムと・・・えっともう片方なんですが・・・驚かないで下さいね』
『大丈夫ですよ、私こう見えて結構ここの勤続年数長いですから。どんな従魔でも驚きませんよ』
胸を張ってそう言い放つお姉さんだったが、それでもこの後の展開が容易に想像できて躊躇うアッシュ
だがここで出し渋っていてもいつかは明かさなくてはいけないので意を決してベルに出てくるよう促した
『ベル、出てきていいよ』
『やっとか、待ちくたびれたぜ』
認識阻害の魔法を解いたことで受付のお姉さんの前に突如ベルの姿が現れる
何の前触れもなくドラゴンが現れたことにより、お姉さんは石像のように固まってしまった
『あ、あのぉ・・・』
『き・・・』
『き?』
『きゃああああああ!!ドラゴンが現れたわあああ!!』
正気に返ったかと思ったらお姉さんは奇声を上げ椅子から転げ落ち、凄まじい勢いで奥の部屋へと消えていってしまった
『なんだあいつ、人の姿見て叫ぶとは失礼な奴だな』
『だから騒ぎになるって言ったでしょ。こうなったら次はもう・・・』
アッシュが予想していた通り、今ので周りの視線が一気にベルの方へと集まりザワつき始めた
『おい聞いたか?ドラゴンだってよ』
『嘘だろ?どこだどこだ?』
組合所にいた冒険者達が先程の悲鳴を聞きゾロゾロとこちらにやって来る
アッシュ達はやることは済ませたのでこれ以上騒ぎになることを避ける為、さっさとこの場から立ち去ろうと出口へと向かおうとするが人混みのせいで中々抜けられない
更にベルの姿を見た冒険者の言葉がきっかけで場が更に荒れる結果となる
『おいあれ本当にドラゴンか?トカゲに羽根付けて浮かせた偽物じゃねぇよな。見た目ちんちくりんだしなんかショボくね?』
喧騒の中たまたまそれが聞こえてしまったアッシュの顔は真っ青になる
男が放った言葉は間違いなくベルの耳にも入ったはず
このままベルを止めなかったらあの男の命はここで終わりを迎え、この部屋が血塗れになってしまう
アッシュは慌ててベルを宥めようとする
『べ、ベル。気持ちは分かるけどここは・・・』
アッシュが口を開いた瞬間、男が一瞬で壁まで吹き飛ばされた
それを見ていた他の冒険者達が一斉に静まり返り今度は辺りが静寂に包まれる
そんな静寂の中ベルが淡々と喋り始めた
『ちんちくりんは千歩譲って許すとするさ、大人しくするって主にも行ったしな。だけどトカゲ呼びだけは我慢ならねぇ・・・オイラ達ドラゴンをトカゲ呼ばわりすることは最大級の侮辱なんだ。というわけで今からあいつを細切れにして殺す』
『いやいや!ダメだから!頼むからこれ以上揉め事起こさないで!』
『というか今のでその人死んだんじゃ・・・』
ベルが吹き飛ばした男は未だにピクリとも動かない
その男の仲間と思われる冒険者達が駆け寄りポーションを使って回復し始めているし恐らく死んではいないだろう
着いて早々人殺しなんてしまったらダンジョン攻略どころの話ではなくなってしまう
幸運どころかトラブルを運ばれてしまってはたまったものじゃないぞ
この事態をどう収めるか考えていると、そこへ騒ぎを聞きつけたある人物が介入してくる
『何の騒ぎですかこれは』
『く、組合長・・・』
中肉中背で眼鏡をかけたいかにも大人しそうな見た目をした男性
ルートの組合長ボーゼスとまた違うタイプの組合長がアッシュの前に現れた
組合長の背後には先程アッシュ達と話していた受付のお姉さんが立っていた
逃げたのかと思っていたがどうやら組合長を呼びにいっていたようだ
組合長は近づいて来るとこちらを一瞥した後アッシュに問いかけてきた
『君がそこにいるドラゴン殿の契約主で間違いないかな?』
『は、はい』
『ちょっとあそこの冒険者の事も含めて色々話を聞かせてもらいたいから一緒に来てくれるかい?』
『はい・・・』
組合長にそう言われて断れるはずもなく、アッシュ達は二階にある客室へと連れていかれた
二階に上がっている最中その場にいた全員の視線がアッシュ達に突き刺さる
まだダンジョンに入ってすらいないのに先行きが不安なスタートを切る結果となってしまった
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