十話 「小さな仕返し」
ダンジョンに入ってから体感で数時間が経過した
ゴブリンとの初戦の後もアッシュは比較的数が多い相手との戦闘は避け、数の少ないゴブリンを見つけてはクウとの連携で着実に魔石を入手していった
『よし、これでちょうど魔石十個目だ』
他の冒険者とパーティを組んだ時は貢献度の低いアッシュ個人の儲けは殆どなかった
稼ぐことだけ考えればこうしてコツコツとゴブリンを倒していった方がパーティを組むより稼ぐことができるかもしれない
魔石を回収し終えるとクウが魔物を吸収する
何体か吸収するとクウの身体が再び光り始めた
『また光った。一体なんなんだろうな』
この光が何を意味しているのか不明だが、魔物を吸収した時に起こる現象だというのは分かった
それ以外にも何か解明出来ないかと引き続きアッシュはクウの事を観察し続けることにした
『ちょっと休憩しようか。水飲む?』
ダンジョンには魔物が湧かない場所がある
その場所のことを"安全区域"と呼ぶ
そこで軽く食事休憩を挟んだ後、アッシュ達は次のポイントに向かって歩きだす
そこで一体の魔物と遭遇。そこにいたのは今まで倒してきたゴブリンとは違う魔物だった
『あれは・・・コボルトか』
コボルトは頭部が犬の人型魔物
強さはゴブリンより若干強い位で硬い体毛は刃を通しにくくする
もっと大きい武器であれば斬り伏せることは可能だが、アッシュの筋力ではそもそもそんな武器を振り回すことは出来ない
短剣で狙うなら比較的毛が薄い頭部の部分を攻撃するのがいいだろう
『クウ、また援護お願いできる?』
今まで通りのやり方で倒そうと考えていたが、クウは全身を使ってアッシュの指示を拒んできた
その次には何かを訴えているような仕草を見せた
『もしかしてクウも戦いたいの?』
アッシュの解釈は合っていたようでクウは力強く頷いた
援護するだけでなく自分も攻撃に参加したいと
あの泥の噴射は援護には役立つが相手を倒すとなると話は別だ
だがクウの真っ直ぐこちらを見つめてくる目を見ていると何か戦う手段があるのかもしれないと思えてくる
考えた結果アッシュはクウの願いを聞き入れることにした
『分かった、でも何かあったら僕もすぐ加勢するからね』
許可をもらえたことでクウのやる気が増した
クウは徘徊しているコボルトの後ろから気配を悟られないよう接近
互いの距離が数メートルのところまで近づくとクウの動きが止まった
『一体どうやって倒すんだろう』
いつでも助けに行けるようクウの動きを観察していると、身体からまた泥を出し始めた
だがいつものように泥を噴射するのではなく放出した泥を体の前で留め、形状を鋭い棘のような形へと変えていった
変わったのは形状だけでない。泥だったものが硬い岩のような性質へと変化を遂げていた
ある程度の大きさにまでなるとクウはそれをコボルト目掛け発射
背後からの攻撃に反応することすら出来なかったコボルトは頭部を貫通され地面に倒れた
『うそー・・・』
予想の斜め上をいく攻撃に開いた口が塞がらない
一方でコボルトを倒せた事にクウは大喜びしていた
『これってもう僕なんかより強くなってるんじゃ・・・』
複雑な感情を抱きはしたが戦力が上がることは非常に有難いこと
アッシュは自分の元に近寄ってくるクウを持ち上げ褒め称えた
『凄いよクウ!これからどんどん強くなっていこうね。でも今日は初日だしこれ位にしておこうか』
初日で怪我一つ負わずに済んだのだから今回のダンジョン探索は成功といえるだろう
魔石を回収をした後アッシュ達は来た道を戻りダンジョンの出口を目指した
すると奥の方からこちらに向かってくる者の足音が聞こえてくる
足音と金属音からして冒険者だというのはすぐ分かった
だがやって来た冒険者は今最も顔を合わせづらい人物だった
『『あっ』』
アッシュ達の前に現れたのはグレイ達のパーティ
先日の件以降見かけなかったがこんなタイミングで鉢合わせるとはついていない
あのパーティは臨時で組んだものなので勝手に抜けたところで何か言ってくることはないはず
あちらもきっとそんな事は気にしていないだろう
お互いが前に立ちはだかり気まずい空気が流れる
ここにいてもあの時の事を思い出すだけなので早々にこの場から立ち去ろうとすると、グレイの方から喋りかけてきた
『ミノタウロスにやられちまったかと思ったが生きてたんだな。運の良い奴だな』
『・・・まぁなんとか帰ってこれました』
『それで?おちこぼれが一人でダンジョンに潜って何やってるんだ?』
『一人じゃないです』
グレイの問いに答えると今まで足元に隠れていたクウが三人の前に姿を現した
『ん?なんだそのスライムは・・・?もしかしてお前の従魔か?』
『はい』
アッシュが肯定すると三人は顔を見合わせた
そして僅かな沈黙の後同時に吹き出し笑い始めた
『おいおいマジかよ!ようやくテイムしたのかと思ったらスライムって!』
『そんな雑魚従魔にしてどうすんの!おっかしー!』
『流石にそれはどうかと思う』
ダンジョン中に響き渡る程声量で笑う三人
まぁ大方予想していた反応だ。だから怒りがこみ上がってこないわけじゃない
自分が馬鹿にされるのはもう慣れたものだからいくらでも言ってくれていい
だがクウの事をよく知りもしないのに馬鹿にしてくるのはやはり許せなかった
いつもヘラヘラと謝ってばかりで怒る事なんて一度もなかったが、仲間が馬鹿にされて黙っていられる程お人好しではない
『・・・・まれ』
『は?』
『クウに謝れ!』
『何こいつ。スライム如きにマジになりすぎでしょ』
『生意気だな・・・』
グレイの拳に力が入りアッシュに向かってくる
だがたとえ殴られようとクウには謝ってもらう
覚悟を決めてグレイに立ち向かおうとしたその瞬間、アッシュよりも先にクウが動きをみせた
『なんだこのスライム!変なの吐きやがった!』
『きったなーい!何よこれ最悪!』
『目が・・・目が・・・』
クウも馬鹿にされて黙っていられなかったのか泥の噴射をグレイ達に思い切り浴びせた
瞬く間に全身泥まみれにされた三人を見てアッシュは思わず声を上げて笑ってしまった
『あははははは!!やりすぎだよクウ!』
『てめっ!何笑ってやが・・・ぶぇっ!』
容赦なくクウの泥が開けた口に入りグレイは地面に倒れ込む
その間にアッシュ達はグレイ達の元を去り出口まで駆けて行った
クウのお陰で十分気を晴らすことができた。もしかしたらやり返されるかもしれないが、その時はその時
もう言われっぱなしで黙っているのはおしまいだ
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