狼、北の件を聞く
俺らが帰国してから数日経った。
マオとシスティーナは勇者関係で一度魔国へ戻っており、ライルはこの国の薬学を学びつつ、レイラはその間に仕事を見つけせっせと働いていた。
国出る時に盗って……持ってきた品でお金は大丈夫じゃないのかと聞いたら……。
「流石にあれだけでずっと食べていける程ではありませんし、いつまでもアルさんたちにご迷惑をお掛けするわけにもいけないので、そのお金も稼ぐ必要もありますので」
と言われてしまったら何も言い返せないだろう。
ただまだ住む場所も決まっていないため、しばらくは居候なんだけどな。
フローラは元族長の娘とは思えないぐらい家事をしっかりとしてくれており、正直助かっている。
そして俺とティナはと言えば……。
「わーい、アルはやーい!」
「わーい!」
〔ほらほらちゃんと掴まってろよー〕
俺はティナとフィリアを背中に乗せて街中を軽く走り回っていた。
「アルちゃんありがとね。フィリアったら二人がしばらくいなくて寂しがっていたものだから」
〔それはフィリアに悪い事しちまったなぁ。つかフィリアのお母さん怪我の具合はどうだ?〕
街を一周してフィリアのお母さんの元へ戻った俺は、以前負った怪我の具合を尋ねる。
だがフィリアのお母さんは「アルちゃんのおかげでもう大丈夫よー」と笑顔で答える。
「それにアルちゃんの影狼ちゃんたちも一杯お手伝いしてくれたし、皆も感謝してたわよ。本当にありがとね」
〔いやまぁあれは俺が原因なもんだし……〕
実際俺がいなかったらフィリアのお母さんも怪我を負うことなんてなかっただろうしな。
そんな事を思いふけっていたら、前に乗っていたフィリアが俺の両手で俺の顔を掴む。
「アルまたそんな事言ってるー! フィリアたちはアルに感謝してるし、アルがいなかったらもっと大変だったんだからねー!」
「そうだよねー、アル凄いもんねー!」
フィリアが頬を膨らませてプンプンと怒りつつ、その後ろに乗っているティナは話の流れが分かっていないのか、何故か喜んでいた。
「だからアルが落ち込むひつよーはないの! わかった?」
〔お、おう。わかった……〕
「わかったならしゅっぱーっつ!」
「しゅっぱーっつ!」
〔はいはい、お姫様方。んじゃもう一周行ってくるよ〕
「うふふ、行ってらっしゃい」
全く、二人には敵わんな。
そんなこんなで旅の疲れを癒すように日々を過ごしていると、ダールトンたち冒険者が北から帰ってきたらしい。
俺はその話を聞き、ティナと一緒にギルド会館へと向かった。
〔おっす、お疲れさん〕
「ダールトンさん! お疲れさまでした!」
「あぁアルと嬢ちゃんか。ホント疲れたぜ……」
俺らに気付き、軽く挨拶をすると本当に疲れたような表情でテーブルに右腕の肘をつける。
〔なんかあったのか?〕
俺の記憶が正しければ、あの時北に向かったメンツで欠けたようなやつはいないように見えるが……。
事情が分からず周りをキョロキョロと見ていると、ダールトンが説明を始めてくれた。
「アルの心配しているような俺らの欠員といった事は起こってないし、特に大事に至ったやつもいない」
〔じゃあどうしたんだ?〕
「あー……今思い出しても腹しか立たねぇ……」
〔ん?〕
「確かに俺らに被害は出てない。だがレゾ王国の冒険者たちには結構被害が出たんだよ。つか人の話を聞かねえバカばっかりでよぉ……」
お、おう……。
このダールトンの感じから相当だったんだろうなぁ……。
「しかも極めつけは勇者様だよ。あのガキャァ……自分の能力が凄いからって全く他の事考慮しねえで攻撃するせいで連携もあったもんじゃねえ」
〔そんな酷かったのか……〕
「酷いってもんじゃねえぞ! 俺らが戦ったのはロックジャイアントっつー岩以上に硬い鱗を付けた巨人みたいな大型の人型魔獣なんだがな、基本的にはその硬い鱗を一枚一枚剥がすように魔法を撃って、剥がれた鱗の部分を前衛が攻撃していくんだが、レゾ王国のやつら……好き勝手に攻撃し始めてよぉ……」
あー……大体わかってきたわ。
要はダールトンたちはセオリー通りに遠距離からの魔法で削りつつ、前衛が巨人からの攻撃を防いだりしていたんだろう。
だがレゾ王国の冒険者たちはそんなの関係なく勝手に攻撃を仕掛けた挙句、返り討ちにあったりしたわけか。
〔そりゃ大変だったなぁ……〕
「腹立たしいのはこっからだぞ! 無事……とは言えねえが、魔獣の討伐を完了した後祝賀会をレゾ王国でやったわけよ。仮にも王族からの招待だから断るわけにもいかなかったしな」
確かにそれは断れねえわ……。
「だがその祝賀会で勇者様は「自分が活躍した」だの「冒険者たちは使えなかった」だの散々言いやがってよ! テメぇが場を乱しまくってたくせに何言ってんだ!」
〔どうどう、落ち着け……〕
「……ふぅ……。んで、その大型魔獣討伐の依頼は国から出されたものなんだよ。だからもし受けた冒険者が死んだりしたり大怪我をしたりしたら国が保証するもんなんだよ。だけどな、レゾ王国は今回の戦闘で死んだ冒険者への補償は何も出さなかったんだよ」
〔はぁっ!?〕
「しかもその時に言った台詞がよ、「他国からわざわざ来てくれた冒険者より役に立たない者たちなど何の価値にもならんのぉ」だぞ! 舐めてんのか!」
うっわぁ……ひっでぇ国……。
それでよく反乱とか起きねえわ……。
〔んでその冒険者の遺族は何も言わねえのか?〕
「あぁ、あの国はそこら辺おかしくてな、そういうのを身内の恥という風に思ってて特に何も言わねえんだよ」
もはや一種の洗脳じゃねえのかそれ……。
「んで祝賀会が終わるまで何とか怒りを抑えた俺らは、さっさと退散して帰ろうと思ってたんだよ。そこであのガキが突然貴族の婚約者を連れてきてよ、しかもその話を聞けばその貴族の婚約者は他の貴族の婚約者だったらしくてよ、どんだけ思いあがってんだこのガキと声を上げようになるのも我慢した」
「いやーあれはやばかったっすね」
「俺危うくあの勇者ともども婚約者たちぶち殺すとこだったぞ」
ダールトンと一緒に行った冒険者の面々が次々に思っていたことを口にしていく。
うん、お前らよく我慢したよ。
「しかもその婚約者もくそったれだぞ! 国王の命令だから渋々従ってるかと思いきや、普通に倉変えしてんだぞ! しかも元婚約者の貴族の事ぼろくそに言ってんだぞ! くそにも程があんだろ!」
婚約者……奪われ……うっ……。
それ絶対ライルの事だ……。
この事は二人には伝えられねえなぁ……。
「んでまぁ俺らは何とかその場は怒りを抑えつつ、早々にレゾ王国から出て行ったわけよ」
「出た後あまりのイラつきででかい岩とかぶっ壊しましたしねー」
「俺は木を何度も殴ったわ。あー今思い出しても腹立つわ!」
〔お、おう……お疲れさん……〕
「つーことで俺らこれからダンジョンに向かって鬱憤晴らしてくるわ」
〔あ、はい。行ってらっしゃいませ〕
言いたい事を言い終わると、ダールトンたちは武器を持ってギルド会館からぞろぞろと出て行った。
レゾ王国、よかったなこの国の冒険者が辛抱強くて。
システィーナさんが嫌がるわけだ。




