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狼、勇者事情を聞く

 〔と、いう事で王都まで同行する事になったライル君とレイラさんです〕


 簡単な詳細を説明すると、三人中二人は少しだが眉をひそめた。

 特にシスティーナさんはレゾ王国の事嫌ってそうだったしなぁ……。


 「話はわかりました。それで、貴方たちはこれから何をするおつもりですか?」


 システィーナさんがライルとレイラを睨む。

 ライルの方はシスティーナさんの睨みに怯んだが、レイラの方は少し間を置いて口を開いた。


 「王都の方でひっそりと暮らすつもりです。できれば兄が薬学の心得があるので薬屋でもしたいと考えております」


 実はレイラはライルの妹であり、レゾ王国での出来事に酷く憤慨し、絶縁状を書いて兄であるライルと一緒にレスティア王国へと向かったという。

 一気に息子と娘を失ったんだから、今頃二人の家は大変だろうな。

 まぁ自業自得か。


 「それにしてもまた新たな勇者とはね。全くキリがないね」


 〔マオ、新たな勇者ってどういう意味だ?〕


 三人中唯一表情を変えなかったマオがやれやれといった具合に溜め息をつく。


 「二人の国のレゾ王国は異世界から勇者を呼び出すというのはアルも知っていると思うが、よく考えてみてくれ。そんな何人も勇者を同時に呼び出したりでもしたらどうなると思う?」


 〔まぁ……呼び出された方は自分が本当の勇者と騒ぐだろうなぁ……〕


 「だからそれを防ぐために、今いる勇者がいなくなってから新しい勇者を呼び出すんだ。まるで使い捨ての道具のようにね」


 うへぇ……。

 勇者だ勇者だと挙げられて有頂天にさせといて、死んだら死んだで新しいのを呼び出すとはねぇ……。

 レゾ王国にとって勇者なんてのは使い捨てのできる便利な強ユニットってとこなんだろうなぁ……。


 「歴代の勇者の中にはその異変を感じ取ってレゾ王国から離れて行った者もいるが、まぁそういうのはほとんどいないね。ただそういった勇者は魔国で保護したりして寿命を終えたという記録もあるね」


 勇者召喚と言っても全員が全員そっち方面に染まってるわけじゃねえしな。

 俺がもしレゾ王国に召喚されたとしても、たぶん疑うしな。


 「ただ勇者として召喚された者はそのほとんどが特殊な能力を持っているから少しばかり厄介なんだよね」

 「そういえば前々回ぐらいの勇者は何やら魔力で剣や斧といった近接武器を作っていましたね。無駄に数飛ばしてきて蠅みたいにうっとおしくてイラっとしたので両腕爆炎魔法で消し飛ばしましたが」


 ……あーあー聞こえないー。

 俺は何も聞いていない―。


 「あー……そういえば前々回の勇者は魔国に乗り込もうとして攻め込んできていたね。その時の対処をシスティーナがしていたと聞いたが、まさかそんなふうにしていたのは知らなかったよ」

 「いえ、私も勇者の誤解を解こうと頑張りました。ですが、『悪しき存在の魔族め! 勇者であるこの俺がお前らを滅ぼしてやる!』とか会うなりどや顔で言ってきたので早急に説得は無駄だと判断して排除に当たりました」

 「あー……うん、細かい詳細は聞いてなかったけどそんな事があったんだね」


 流石のマオもドン引きである。

【爆炎の魔女】の二つ名は伊達ではなかったか。


 「?? しすてぃーなさんはゆーしゃさんをやっつけたの?」

 「えっ? いやまぁやっつけたというかなんというか……」

 「んぅ?」


 ティナの前では殺したとは言えないんだろうなぁ……。

 いや、気持ちはわかる。

 俺だって血生臭い話とかそういうのは聞かせたくねえもん。


 〔って、ライルにレイラ、どうした?〕


 「いえ……もうアルさんに関しては驚きを通り越してもはや何も考える事はないんですが、まさか一緒にいらっしゃる方があの国でも恐れられた【爆炎の魔女】とは露知らず……」

 「先々代の勇者があの方に爆殺されたという話しか伝わっていませんでしたから……」


 〔まぁ伝えたくない情報ってのはあまり載せないしな。つか魔国に乗り込んだ時点で他国からの批判とはあったんじゃないのか?〕


 「えぇ。表立ってはありませんが、軽い経済制裁はされたと聞きます。普通に考えて魔国に敵うわけありませんから他国も従ったのでしょう」


 あれ?

 魔国ってそこまでやばい感じなの?

 そんなところに何でレゾ王国は喧嘩吹っ掛けるの?

 馬鹿なの? 自殺志願者なの?


 〔レゾ王国ってなんでそんなアホな事してるん?〕


 「私も詳しくは知りませんが、書物には数千年前だかに呼び出した勇者が魔王を撃ち滅ぼしたのがレゾ王国の始まりだとかなんとか……。そのせいで魔族に対して異様な敵対心を持っています」


 要は魔王を倒したとかいう誇りがあるからっていうやつだな。

 つかその魔王って、以前ダールトンが言ってた勝手に名乗った魔王とかじゃねえのか?

 そこから魔国へ発展って話か。

 魔国も魔国で大変だなぁ……変な国に絡まれて……。


 〔って、そういや二人は金持ってんの?〕


 「はい。家から出る時にいくつか高価な物を持ってきました」


 〔……いや……それ窃と「何か問題が?」いえ……なんでもないです……〕


 レイラって実は強引に話とか行動するタイプ……?

 まぁ兄と一緒に家出るぐらいだしなぁ……。

 ……って。


 〔レイラってライルの事大好きなのか?〕


 「はっはい!? アルさんいきなりどうしたんですか!?」


 〔いや、そんな驚かなくても……〕


 「ベべべ別に私は兄さんの事を慕っているのは否定しませんが、ついてきたのは父たちのあの態度に腹が立ったからであって別に兄さんについていきたいからとかそんなことは!?」


 〔おっおう……〕


 何というか……語るに落ちるとはこの事を言うのかってわかってしまったな。

 まぁそうじゃなかったら貴族の地位捨ててまで兄についてこようとしないよな。


 〔で、当事者のライル君は今のを聞いてどう思ったのかね?〕


 「あはは……。いやまぁレイラにこうも慕われていたとは思わなかったから少し照れくさいな……」

 「にっ兄さん……」


 〔あー……そういうのは二人っきりのところで頼むわ。砂糖吐きそう〕


 こんなところで兄妹のイチャラブとか見せられたくねえわ。


 「と言っても兄さんの事もありますが、私があの国を出たのは勇者も関わっていたからですね」


 〔んっ? どういうこっちゃ?〕


 「あの勇者……ルース姉さ……兄さんの許嫁だけではなく、私まで手籠めにしようと画策していたようなんです。その事を城勤めの知り合いから聞いたので逃げてきました」


 〔はっ!?〕


 おいおい……ライルの許嫁だけじゃなくて妹までって……。

 マジで下種野郎じゃねえか……。

 確かにレイラは栗色のロングヘアーで綺麗な髪してるし、顔も整ってて可愛い部類だと思うけどさ……。

 許嫁奪っといて更に妹にまで手を出すのはねえだろ……。

 確かにそんなのが敵対心丸出しで目の前にいたらシスティーナさんじゃなくてもキレるわな……。


 〔まぁ家とか借りる事になるだろうし、何かあったら相談ぐらいは聞いてやるよ〕


 「魔獣に相談とは滅多にない体験になりそうですね」

 「そもそも喋れる魔獣というのが聞いた事ありませんから……」


 〔マオ曰く珍しい分類なだけで魔獣も喋ると言えば喋るらしいがな〕


 まぁ数は少ないんだろうけどな。


 「って事はアルさんはかなり頭がいいって事ですよね? 凄いですね」


 そう言ってレイラは少し中腰になって俺の頭を撫で始めた。

 おう、これはまたフローラとはまた違った撫で心地……ってフローラそんな睨まないで、後で撫でさせてあげるから。

 ……仲良く……してくれるといいなぁ……。

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