表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/175

42.「マージ様」

「おお、軽いぞ! 材木が軽い!」


「【腕力強化】だ。一〇日の間は使えるから、里の力仕事を引き受けてやってくれ」


「はい、かしこまりましたマージ様!」


 マージが王になり、三日目の今日。シズクの案内でマージは里を見て回っていた。行く先々で里人が語る問題や悩みに耳を傾けては、適したスキルを貸し出して解決してみせている。


 早朝に少々の(・・・)脱走騒ぎがあったものの。新たな日々を歩みだそうとする里は活気に満ちている。


「マージ、次はあっちの機織り小屋に行こう。里で着る服を作ってる施設だ」


「ああ、案内してくれ」


「…………。」


 新たな時代を作ろうと動く、そんな二人の様子をシズクの父・アサギはじっと見つめていた。


 そして、その夜。夕餉を終えた娘をアサギは呼び止めた。


「シズクよ、少し残りなさい」


「なんでしょうか、父様?」


「マージ殿とのことだ」


 前に座った娘にアサギは重い口を開く。その背後には、つい昨日まで宝刀が掛かっていた刀掛台が主を失って静かに佇んでいる。


「マージとの? ま、まさか父様、ボクを側室にしようとする計画を本気で……?」


「それは将来的に考えるとしてだ」


 考えるんだ、というシズクの呟きには答えずアサギは腕を組んだ。


「お前、マージ殿を呼び捨てにするとは何事か。我らの王ぞ、主君ぞ」


「……いえその、最初は敵だと思い、その後は取引相手という間柄だったので、つい」


「ふむ? マージ殿に救われたとは聞いたが詳しくはまだであったな。いい機会だ、話してみなさい」


「はい、山を下りた後、まずは路銀をと思い仕事を探したのですが……」


 シズクは町での生活を語って聞かせる。仕事はすぐに見つかったこと、賃金を渋られたこと、その日の食事にも事欠いたこと、尾行の可能性を考えて里に帰ることも憚られたこと。


 そして、マージが力を貸してくれたこと。アサギはひとつひとつ頷きながら先を促す。


「里に案内する道中で異変に気づき、あとは父様もご存知の通りです」


 最後に一度大きく頷き、アサギは所感を述べた。


「シズクよ」


「はい」


「恩人も恩人、大恩人ではないか! 王でなくとも呼び捨てにしてよい方ではないわバカチンが!」


「バカチン!? で、ではなんと呼べば……?」


「マージ様、に決まっておろう。まったく、古き典範に照らせば不敬罪になるところだ」


 典範(テンパン)、とは狼人(ウェアウルフ)の旧い決まりである。その精神は今も狼人の規範とされている。


「不敬罪となりますと、その罰は?」


「斬首だ」


 斬首刑。つまり打首。シズクが思わず目を丸くする。


「腹切りではなく、ですか……!?」


「うむ」


「自害ならまだしも斬首とは……」


 狼人(ウェアウルフ)の戦士にとって最も誉れ高いのは戦死であり、逆に無抵抗で首を斬られる斬首刑は最大の恥とされる。


「それほどに重い罪だったのだ」


「さっそく、明日からマージ様と呼びます」


 明けて翌朝。狭い里の案内は一日で終わったため、今日は周りの山を案内する約束になっている。


 待ち合わせ場所の井戸にやってきたマージに、先に待っていたシズクは恭しく頭を下げた。


「おはようございます、マージ様」


「【熾天使の恩恵】、起動」





 そして再び夜。


「悪い病にかかったものと勘違いされ、治癒スキルをかけて帰されました」


「う、うむ……そうか……」


 娘がどう思われているのか心配になったアサギであったが、消沈しているシズクを前に何も言えなかった。


「コエ様に相談してはいかが?」


「母様」


 同じ亜麻色の髪と尾であり、シズクの将来の姿とも噂される母・カスミは笹茶をトクトクと注いでゆく。ほのかに甘い香りが立ち上る茶を啜ってほぅと息をついた。


「はぁ、夜のこの一杯がたまりませんねぇ」


「うむ、コエ殿ならばマージ殿のことをよくご存知であろう。明日にでも聞いてみなさい。ご無礼のないようにな」


「分かりました」


 次の日の早朝、マージとの待ち合わせ前にシズクはコエの私室を訪ねていた。


 コエにも敬語で接しようとしたところ病気と勘違いされかけたので、いつも通りの口調で相談した狼人の娘にコエは首をかしげる。


「呼び名、でございますか。マスターはお気になさらないと思いますが」


「そうもいかないんだよぅ……。ボクもマスターって呼ぼうかな」


「これは私とマスターが特別な関係だからこそですので、シズクさんには適さないかと」


「こ、コエさんもそういうこと言うんだね。独占欲ってやつだね」


「……?」


 なお、シズクはコエが生まれた経緯までは詳しく知らない。


「とにかく、なんとかしないとボクの首が飛ぶかもしれないんだよぅ……」


「なんと」


「何かいいのないかな? 敬意があってマージも馴染みのある、マスター以外のやつ」


「それでしたら、適当と思われるものがひとつございます」


「ほんとに!?」


 助言を受けたシズクは待ち合わせ場所に走る。やがて現れたマージに駆け寄りながら、大きな声で教わった通りに呼びかけた。


「ご、ご主人たま~~~~~!」


「ちょっとコエさんと大事な話をしてくるから待ってろ」





 その後に父・アサギも交えた話し合いが持たれ、特例でこれまで通りの接し方が許されることとなった。

※『8.ユニークスキル -2』参照

分けたせいでこんな内容で1話使いましたが、敬称は大事。

次回はアルトラ側。

ちょっと多忙なので更新は夜遅くか、最悪明日になるかもしれません……!


ブックマークしてお待ちくださると嬉しいです!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10月25日(月)
書籍1巻発売!
☆特典情報はコチラ☆
スキルレンダー表紙

カバー絵はチーコ先生
― 新着の感想 ―
[良い点] 何の迷いもなく蘇生にも使えるスキルを初手起動(爆笑)
[良い点] 最後の 「ご、ご主人たま~~~~~!」 で思わずイイネ押しちゃったわwww
[良い点] せーいっぱい(汗)かーいく言ったんだろーな(棒) ごー♪♪ちゅ♪♪りんたまー♪♪♪♪
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ