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27.取引

「まず【神代(かみよ)の唄】で習得した冥冰術コキュートス。術者が解かない限り千年は溶けない氷を生み出す魔術だ。あと【空間跳躍】に、その範囲を広げる【森羅万掌】だ。これを使って集めた素材やらを収納してる」


「……冷凍保存、とか?」


 しばらく考えた末、不戦敗は嫌だという顔でシズクがひねり出した答えがそれだった。どちらかといえば温暖なアビーク領で冷凍保存の概念を知っているだけでも大したものだが、残念ながら少々違う。


「まず、コキュートスで氷の箱を作る。【無尽の魔泉】【詠唱破却】、起動」


 空中に冷気が集まり、生み出されたのはシズクの背丈よりやや大きい白の球体。千年は溶けず砕けない氷の卵だ。


「中身は中空にしてある。卵みたいなものだな」


「これを?」


「【空間跳躍】で上へ飛ばす」


「上」


 球体が消え、後には押し倒された草だけが残された。


「空のさらに上、星の海とも言われる暗い領域だ。かつて飛行系のスキルを極めた探検家が高山から飛び上がって到達したことがあるらしい。彼はそのまま帰ってこなかったが上空で遺した記録が見つかっていて、それによると星の海まで至ったものはしばらくは落ちてこない」


「……あの球の中に素材を飛ばして出し入れしてる、とか?」


「正解」


 上空に飛ばすのは、他に何もないからだ。地上や地底はとにかく情報が多い。


 エリアから取り立てた【神代の唄】で脳の処理能力も強化されたが、それでも走査するなら上空の方が楽、というのが俺の結論だった。


「そんな組み合わせ方があるんだ……」


「スキルはシナジーで選べ、って教えてくれた人がいたもんでな」


 古巣のリーダーだったアルトラには最後まで欠けていた考え方だ。


【剣聖】はまだ取り立てていないが、【鷹の目】や【斬撃強化】とのシナジーが失われた今となっては起動してもまともに扱えまい。スキルが無くなっていることには流石にもう気づいただろうか。


 もし何か手遅れになっていたとしても、それは【剣聖】が本来の性能を取り戻した結果に過ぎないが。


「【剣聖】、か」


 もしシズクが【装纏牙狼(ソウテンガロウ)】と【剣聖】を同時に持てば、加速系スキルの相乗効果で強いシナジーを生むかもしれない。ただ効果を生むほどのポイントは返済できないだろうから無期限で貸し出すしかなく、おそらく実現はしないだろう。


「そろそろ次の群れが近い。行くか、シズク?」


「行く。【持続時間強化】【装纏牙狼(ソウテンガロウ)】、起動!」


 シズクの姿がかき消え、感知可能な範囲から次々に魔物が消えてゆく。


 四日後に交代の傭兵団が到着する頃には、キヌイ周辺の魔物はほとんどが掃討されていた。






    ◆◆◆






「これを町長さんへ」


「へ?」


 先日、町長に付き添って俺の宿を訪れた秘書に討伐証明も兼ねて素材を手渡す。最終的に氷の卵十二個に満杯の量が集まり、町長宅の庭には人の背丈ほどの白い球体がゴロゴロと転がっている。


 開けておいた穴から卵の中身を覗き込んで、若い秘書はその場で書き留めるつもりだったろう帳簿をぽろりと取り落とした。


「あの、これは?」


 俺に代わって、コエさんが答える。


「討伐した魔物から採取した素材類です。報酬と別に買い取っていただけるとのことでしたので、こうしてお持ちしました」


「むりです……」


 ダンジョンから出てきた魔物なので、本来ならギルドを通じて高値で取引される軍隊蟻(アーミーアンツ)の大顎なども混ざっている。末端価格で数千万インに届きかねない宝の山を前に秘書は顔を青くして首を横に振った。


「無理、でございますか」


「あ、ああいえ、約束を違えるつもりはありません。ただこの量の換金となりますと町の金庫が、財政が」


「ではこれは貸しておきましょう。マスターもそのようにおっしゃっております」


 予測していた事態なので、事前に対応は話しておいた。コエさんの言葉に秘書は少し安心したように肩の力を抜く。


「貸し、ですか」


「そちらで換金してから払っていただくなり、何かの機会に協力していただくなり。そういった形で返していただければと思います。町長様の承認をとってきていただけますか?」


「わ、分かりました!」


「容器は魔冰で作っております。腐敗までは時間に余裕があることもお伝えください」


「お気遣い、ありがとうございます!」


 町長の許可はすんなりと下りた。


 期限は一〇年とし、現金または相応の協力により支払う。その証書を受け取り、俺たちは「もう少しお話を」と引き止められるのを断って町長宅を後にした。


「これでいい。コエさん、ありがとう」


「いえいえ。私にできることでしたらなんなりと」


「俺が交渉するとどうにも警戒されそうでね。表情が硬いのかな」


「私はそうは思いませんが……」


「どうあれ助かったよ。ようやくだ」


 コエさんの協力に感謝しつつ頭の中で流れを振り返る。やや回りくどいが、目的は果たした。


「これでこの町は縛った。口を封じるには十分だ」


 シズクの故郷『狼の隠れ里』。S級ダンジョン『蒼のさいはて』の、その目と鼻の先にある敗残兵の村。当然に考えておよそまともな状態ではあるまい。


 シズクがその復興に取り組むのなら必要な物資類はこのキヌイで調達することになる。だがそれだけの量を何度も買い込めば怪しまれるのは火を見るより明らかだ。ゆくゆくは対等な関係まで持っていきたいが、最初は隠し通さなくてはならない。


「町長と秘書を隠れ蓑に物資を調達する。情報を封じるには一番確実なはずだ」


 素材はコキュートスの氷に入れたまま渡した。これで腐敗の心配がなくなり、町長は値崩れを防ぐために小出しで売ろうとするだろう。


 むしろ焦ってまとめ売りなどしようものなら町民たちが黙っていない。稼げるはずの町の金をドブに捨て、さらに物価を乱高下させた田舎町の長など容易に椅子から引きずり降ろされる。


 数千万インと引き換えに、狼人たちの平穏を買う。これはそういう取引だ。


「シズク、最後にもう一度聞いておく。このやり方で構わないな」


「構わない。誰も死なせない、誰の財産も力ずくで奪わない。マージが考えたこれは、きっと唯一の方法だ」


 コエさんも頷く。これで三人の意思はひとつ。


 戦争で負けた民、亜人族。彼ら彼女らも『奪われた者』だと言うのなら。


 俺は、俺にできることをする。


「行こうか。まずは『蒼のさいはて』の攻略だ」


「はい、マスター」

というわけで正解は、「静止軌道上に密閉された金庫を作り、その中にアイテムをテレポートさせて出し入れしている」でした。白いのは光を通さないための工夫。最初に試した時は太陽光の熱でアイテムがボロボロになりました。

位置は常に把握できており、かつ周囲には隕石のカケラくらいしかないので処理が軽い。


気楽にやっているようで、実際は安全を買うための行動でした。

次回、『狼の隠れ里』

昼夜にも更新する予定です。


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10月25日(月)
書籍1巻発売!
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スキルレンダー表紙

カバー絵はチーコ先生
― 新着の感想 ―
[良い点] 宇宙にプカプカ……なるほどこれが四次元空間(違う どこか寒いところかちちゅうにでもと思ったけど拡張とか面倒だからこれが1番楽なのかぁ
[良い点] アイテムボックスを物理(?)で解決しようとするとこの様な方法もあるのですね。 その発想力にますますこの作品への期待感が増して来ました。 [一言] このような楽しみな作品を執筆してくださり…
[良い点] ストーリーはおもしろいんですが、静止軌道にテレポートは違和感ありすぎて… 太陽?による温度変化、氷の強度とかはファンタジー感でなんとかなる気がします 仮に地球と同じく直径の天体なら、静止軌…
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