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総合評価が1000を越えました!

皆さまの応援のおかげです、ありがとうございます!

 ティトの案内のもと『山猫酒場』まで戻ってくる。

 時刻は何だかんだでおやつ時。このまま部屋で倒れこむにはまだ早く、かといってぶらぶらと時間を潰すには少々長い時間帯。


「適当に依頼でも見るかね」


 独りごち、カウンター横の依頼票を眺めていく。だが、どれもこれも時間のかかりそうなものばかり。そりゃそうか。大抵は朝早くに見繕って、夕方から夜にかけて戻ってくるんだから。


「碌なものが残っていませんね」


 辛辣なティトの発言だが、これには苦笑いして同意する。

 例えばこの依頼。家事を手伝って欲しい。報酬、日給で銅貨六枚。

 この時間から行っても逆に迷惑だろうし、そもそも一日働いて宿代にもならない。飯は出してくれるそうだが、そもそもこの世界、昼飯は出ない文化だ。晩飯だけ出して銅貨六枚で家事を手伝えってのは、冒険者に出すようなものじゃないだろう。家でも持っているなら別だろうけど。

 他のも、今から探しに行くのは少々面倒な害獣退治だったり、運搬系の仕事だったり、報酬が飯代くらいにしかならない単発のものだったり。最後のはいくつも同時に受ければそれなりの稼ぎにはなりそうだが、今残っているものはたった一つ。さすがにこれだけ請けるというのもな。確かに時間つぶしにはなるが。


「むぅ。もういっそ適当に外に行って薬の素材になりそうなものでも採ってくるか?」


「……行動は個人の自由だが、今から出るのは止めておけ」


 おっと、親父さんに聞かれていたようだ。まぁカウンターに座っているんだから聞かれるのも当然か。

 だが、今から出るのは止めとおけ、とはどういうことだろう。


「何か問題でもあるのか? 軽く出るだけだし、他の冒険者が帰ってくる時間には帰ってこれると思うんだが」

「その時間に戻ってこれるならまだ良いが……ここらは夜は物騒だ。お嬢ちゃんみたいな子は特にな」

「俺みたいな?」

「別嬪さんってことだ」

「別嬪って……」


 そういえば、俺は美少女なんだった。鏡のない生活をしているから自分じゃ見えないし、魔王だ魔王だと騒がれて基本的に顔を隠しているからついうっかり忘れていた。

 ……いや、忘れてても良いだろ!? 美少女ってことに順応してんじゃねぇよ俺!?

 内心凹んでいると、親父さんが言葉を付け加えてくる。


「見てくれは良いんだ。そんな娘が不意を打たれて、薬漬けにされて娼館送り、なんてことも、今のこの街じゃ珍しくない」

「へぇ……そいつは穏やかじゃないな」


 あからさまに犯罪臭のする発言に眉を顰める。

 確かに大きな街だし、そういった店があるのも当然だろう。

 人それぞれの事情があるし、金を稼ぐ手段の一つとして存在することは知っている。性を商売道具にすることはどこの世界にもあるだろう。

 だが、その従業員の立場は一体どの程度のものなのか。

 借金のカタに無理矢理、ってのもそりゃあ在り得る。小遣い欲しさに、とかいうのも、まぁ在り得る話だ。

 しかし今聞いた話はどう考えても違法だ。それが自由意志を奪った上で、ともなれば、それは現代日本に生きてきた俺にとって、衝撃的な話だ。

 まぁ、確かに。妄想の中では、そういったシチュエーションの救世主になったことも、あるにはあるが。それはあくまで妄想やらフィクションだから許されることであって、そんな現実を許容できるかと問われれば。


「まさか、合法だってか?」

「それこそまさかだ。明らかに違法だよ」


 そりゃそうだ。こんなのが罷り通る首都とか、治安が終わってるとしか言いようがない。昼間の活気を見る限り、ある程度は維持できているはずだ。だとすれば。


「首都って言うくらいなんだから、自警団だの騎士団だのはあるだろ? そういうのは何をしているんだ」

「騎士団、か。まぁ、無くはないが……証拠がな」

「いや、証拠を集めるところも仕事のうちじゃね?」

「ま、そうなんだがよ」


 腕を組み、言葉を濁し、そしてこちらを一瞥する。

 明言したくはない。そんなポーズだ。


「オーケー、その反応で大体察した。俺もこれ以上は聞かねぇよ」


 首都だってのに、お約束のように騎士団とかその上層部が腐ってやがるってことだろ。そのうちこの国、何かしらの事件でも起きて国家転覆とかありえるんじゃね?


「ともあれ、忠告はありがたく受け取っておくよ。でも、薬の材料は取ってきたいからな」

「そう言っていたな。優秀な呪い士であり、優秀な薬師でもあるわけか」

「薬の方は優秀ってわけじゃねぇよ。あくまで非常事態用だ。持ってた分は、前の魔獣騒ぎの時に使っちまったからな」


 実際は呪い士でもないんだけども。そこを言うと話がややこしくなる。


「で、だ。親父さん」

「何だ」


 相変わらず無愛想な親父さんだ。


「薬になりそうな植物とか動物とかが固まってる場所、この近くにないか?」


 そんな無愛想な親父さんの表情を、アホ面に固定することに成功。やったぜ。何も嬉しくないけど。


「近くにあれば、そこらの薬師でも自力で取りに行く。一番近くても、ここから二時間はかかる西の森の中だな」

「となると、往復で四時間、か」


 今が大体三時頃なわけだから、単純に行って帰ってくるだけでも暗くなる時間か。森で探し物をするとなるとそれなりに時間もかかるし、戻ってくるのはそこそこ遅くなる。食いっぱぐれるほどではないだろうが、治安が悪いと聞いたばかりだ。無用の騒ぎに巻き込まれたくはない。

 かといって、今日の時間を無為に過ごすってのも芸がない。折角器材を貰ったんだし、今日中に何かしら試してみたいじゃないか。

 いや、だが待て。二時間というのは、歩いて二時間ではなかろうか。つまりは一〇キロ程度の道のりだ。走れば一時間もあればいける。

 俺の身体能力があれば、それくらいならば軽いはずだ。むしろ余裕と言って良いだろう。試したことはないが、今まで過ごしてきた感覚に従えば、いける。

 だが、さすがにその行動は周りから見て不自然ではなかろうか。どうせ『妖精憑き』だし、とか言われて終わりそうな気もするけれど、言われっぱなしというのも気に食わない。気にしても仕方ないんだろうけど。

 どうしようかと悩んでいると、親父さんから助言が飛んできた。


「身体強化でもすれば、多少は早くなるだろう」

「お、その案いただき。ありがとな、親父さん」


 そういえばここの親父さんは呪い士だったな。前衛呪い士とかいう前衛芸術的な立ち回りをしていたとか。

 自分に使ったことは無かったが、周りの評判はそれなりに良かった。というかわりと規格外な評価を受けていた。自分に使えるなら便利なことこの上ない。

 仮に使えなくても、普通に身体能力にものを言わせてごり押しすればいい。誰かに見咎められても、身体強化の呪いだって言えば良いし。


「それと、今から行くなら南門からだ。西門はこの時間帯、入ってくる奴の処理で忙しい」

「おう、分かった」


 確か俺は東門から入ってきたはず。東西を結ぶ街道でもあって、その辺りの出入りが激しいのだろう。北門はこことは逆方向だし。

 『山猫酒場』を出て南門を目指す。一度行ったこともあるし、場所が分かっているから安心だ。

 イメージは筋力サポーターを巻きつけていく感じで……。


「お、おぉ?」


 何となく体が引き締まった感じがする。軽く歩いてみると、確かに楽だ。

 感覚で言えば、普通に歩いているにもかかわらず、動く歩道に乗っているような。

 んー、でもこれ、そんな周りが言うほどのことかね。まぁ動く歩道なんてものを知らない人間からしてみれば、凄いのかもしれないが。


「ティト、心配ないとは思うがしっかり掴まっておけよ」

「分かりました」


 ティトがしがみついてくるのを確認し、周囲を確認。

 人通りはそれなりにあるが、密集というわけではない。少し急いだところで、誰かにぶつかる心配は然程ない。


「ちょっと急ぐぞ」


 足に力を入れ、軽やかに地面を蹴る。


「お、おぉぉ!?」

「ふ、わ、あぁぁ!?」


 思った以上に速度が出る。軽く走っているだけなのに。さすが動く歩道だ。いや、そこで走ったことがないから、本当にこれくらいの速度になるかは分からんが。つーか、あそこを走るとか迷惑にも程があるし。

 などと考えていると、あっという間に南門に着いてしまった。

 ここも人通りが全くないというわけではなく、どうやら仕事帰りの冒険者が何グループがいるようだ。

 幸いにして、なかなかの速度で突入した俺に気付いている者は居ないようで、それぞれが自分達のパーティーとワイワイと話し合っている。時間も時間だし、手に入るはずの金で何を飲み食いしようか、という相談だろうな。

 彼等を横目に門に近づくと、簡素な鎧と槍を装備した兵士が寄ってくる。


「こんな時間から出発かい? 急ぎの旅、というわけでもないみたいだけど」


 業務、というだけでもなさそうだ。衛兵というのは冒険者の心配までするのか。


「ちょっと西の森まで行って帰ってくるだけだよ。運が良けりゃ薬草の一つでも持って帰ってこれるしな」

「そうかい。森には狼が出るから気をつけなよ。これが出発証明だ。帰ってきたときにそれを見せてくれれば、面倒な手続きなしで入れるからね」


 そういって兵士が木切れを渡してくる。片面に街をデフォルメしたような絵が彫られ、裏を見ると数字が書いている。この木片は三三四らしい。

 便利なものだな。だけどいくつか気になることが。


「失くしたら?」

「僕が泣く。それ作るの、下っ端の仕事なんだよ」


 まさかの手作り。


「盗賊とかに奪われたら?」

「一応、通行人を覚えるのが仕事なんでね。記憶力には自信があるんだよ、三三四番のお嬢さん」

「なるほどな」


 一応入るときの手続きのように、どこかで一度待たされるのだろう。で、その時にこれさえ持っていれば、時間短縮になる。記憶力の良い門番がいれば、出て行く時と帰ってきた時の確認も取れる、と。まぁ、この後きっと彼は、手続きを誰が担当してもいいように、俺の見た目の情報か何かをどこかに書き留めるのだろう。


「それじゃあ行ってくる」

「気をつけて。暗くなる前には戻ってきたほうがいいよ」

「それ、宿の親父さんにも言われたよ」


 どうやらこの辺りの治安がよろしくない、というのは本当のようだ。

 門の近くならば彼等も出動できるのだろうが、少し進めば目の届かない場所などいくらでもあるだろうし。

 軽く手を振る兵士に、それは職務に不純な何かが混じっていないかと思いながら門を出る。

 そして暫くは、個人の感覚においてゆっくりと歩き。


「ユキ様、周囲に人はいなくなったようです」

「オーケー。それじゃあ全力でとばすぜ」


 誰も居なくなった頃に、全速力で走る。

 思った以上に早いな。

 後ろに流れていく風景から察するに自転車を全力で漕いでるようなスピードが出てる気がする。

 もちろんこんな開けた場所で自転車を漕いだことなんてないから、あくまで感覚でしかないが。

 最初に居た街で、この速度を出せていれば、魔獣の被害ももう少し……いや、逃げてくる人通りもあったし、大勢の冒険者の集中砲火もあった。多少早く着いたところで何かが出来たわけでもない、か。

 心構えをしていたこともあり、今度は二人とも悲鳴をあげることなく走ることができた。

 結果。


「お、見えてきたか?」

「そのようです」


 視界の先に森が見えてきた。

 短距離を走るような全速力でありながら、一度も休憩を入れていない。だというのに、息も切れていないというのはどういうことだ。元の身体能力が馬鹿高いってのもあるんだろうけど、妄想の中の俺でも、流石にここまでではなかった。

 妄想の中では、支援系の魔法は使わなかったからな。使う必要がなかったというか。使わずに敵を一撃で倒せる俺つえーをやっていた気がする。


「身体強化の魔法、マジ半端ねぇな」


 もはや原理がどうのこうのってレベルじゃねぇ。サポーターを巻いたくらいでこんな記録が出るなら、世の中超人オリンピックだらけだ。

 俺の魔法、イメージ次第で色々と変わるというが、何を基準にしているのやら。

 ウォーターカッターみたいなのは出せなかったというのに。


「なぁティト。俺のこの身体強化、何か分かることってないか?」


 無いとは思うけれど、聞くだけ聞いてみる。分かったらラッキーだし、今後魔法を使うときの参考にもなる。


「以前も申し上げましたが、ユキ様の魔法はユキ様のイメージ次第です。それは表層上の思い込みだけではなく、深層心理からくるイメージも含まれます」

「ほう」


 つまり、どういうことだ。


「もし今までにユキ様が考えた、あるいは経験された、もしくは憧れた、身体を強化するイメージの元となるものがあれば、その効果が発揮されます」

「……憧れた、ねぇ?」


 何かアレな予感がするぜ?


「どのようなものでも構いません。誰かが実際に動いているのを見て、あのような動きをしてみたいと強く感じたとか、物語の中で強大な力を生み出す何かがあったとか」

「そこまで言われたら心当たりしかねぇよなぁ!」


 物語とかフィクションとか創作まで含めてイメージの元になるっつーなら、変身ヒーローとか修行で強くなる系の漫画とか色々あるもんな!

 そういうやつのイメージまで持ってこれるなら、そりゃそうなるわな!

 男の子の憧れだもの! 一度はやってみたくなるもの! 気とか使いたいもの!

 イメージ次第で何でもできる。

 本当に、魔術よりも呪いよりも、もっとおぞましい別の何かだ。


 ――要するにこれ、俺の黒歴史も暴露されるってことだぜ?

(スーパー)がつくあれとか、オーラ()的なあれとか、ストラッシュ的な必殺技とか、螺旋的な忍術とか色々ありますよね。男の子の憧れ。

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