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アイドル育成計画  作者: 夜明天
第1章

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第6話

裏渋谷で見かけたあの女の子、彼女のような魅力的な人をアイドルグループに迎えたい。そんな想いを抱えながら、僕は千佳さんに相談することにし、『Taverna da SANNO』に向かうことにした。

店内に漂うピザの香ばしい香りとコーヒーの深い香りが、僕の緊張を少しずつほぐしていく。

太一(たいち)さん、お久しぶりです。」

「おぉ、乃木さん!お久しぶりです。最近忙しかったんですか?」

「まあ、そんなところです…」

「Emmaもクビになっちゃったし大変でしょう?ま、乃木さんなら何とかなるでしょう!」

そう言って店主である太一さん…まあ千佳さんのお父さんは肩を組んでくる。こういうところは千佳さんと似てるなと感じた。

僕は元々、アイドルグループ「Emma」のメンバーだったが、話せば長くなるが、いろいろな事情で脱退した。今は新しいグループを立ち上げようと奮闘している。

「いらっしゃいませ〜、あれ?お父さん、健人くんと仲良いの?」

そう言って千佳さんが店の奥からこちらにやってくる。

「仲良いも何も、乃木さんはうちの常連だから家族みたいなモンよ!」

そう言ってまた肩を組んでくる。

僕は、

「まあ、そうですね。」

とだけ返した。

……さっきから千佳さんの視線が輝いているように見える。これはもしかして…?

「健人くんと家族みたいなもの…良い。」

と何か変なことを呟いていた。これ以上脱線するといよいよ何が何だかわからなくなるからそろそろ本題に入ることにしよう。

「まあその話は一旦置いておいて、そろそろ本題に入りましょう。太一さん、千佳さん借りますね。」

そう言って僕は、店の奥のいつも座ってる場所に向かった。

この千佳さんはEmma時代から僕のファンで、脱退後は僕がプロデュースするアイドルのメンバー候補としても支えてくれている。

「お父さ〜ん!コーヒーと紅茶1つづつ!」

と千佳さんがオーダーした。イタリアンに紅茶?と思うかもしれないが、この店は僕のためにダージリンティーを置いてくれている。

「お仕事の邪魔しちゃいましたか?」

「大丈夫、丁度暇だったから!タイミングいいね〜」

僕が口を開こうとした瞬間、千佳さんの方から僕が話したいことを言ってくれた。

「新しくグループ作るなら、まず何が必要?ほら、衣装とか、練習場所とか、あと資金とかいろいろ?」

「そんなところですね。」

「そこで〜!いいアイデアがあるんですよ!聞く?聞かない?いや、聞くよねぇ〜?」

「分かりましたって。で、何ですか?そのアイデアというのは。」

「実は、お父さんの知り合いの人が経営してたコンセプトカフェが閉店するらしいの。」

「……あ、なるほど。そういうことですか。」

「あな、?」

「もしかして千佳さんもう酔ってます?」

「酔ってないよぉ!」

「だったら早く本題に戻りましょう。」

千佳さんの本性が垣間見えたところで、僕は話を本題へ戻す。

「分かったよ。で、その場所を借りれないかなって。衣装ついてて、場所も広いらしい!レッスンスタジオにピッタリの場所じゃない?」

「場所だけ聞くと最適そうですよね。ただ、問題は『何をコンセプトにしていたコンセプトカフェなのか』ですよね。」

「フッフッフッ、聞いて驚く勿れ、何とそこのコンカフェは、アイドルがコンセプトのカフェだったのだぁ〜!」

「何と…それはすごい!」

まさかアイドルがコンセプトのカフェだとは思いもしなかった。

これは好都合だ。だが、騒音が心配だった。近隣トラブルだけは避けたい。

「でも、騒音とかは大丈夫なんですか?」

「カフェ自体はビルの2階なんだけど、その人がオーナーだから、許可は貰ってるよ。」

「流石、話が早い。」

「まだここで終わりじゃないよ。」

「何ですか?」

「ついでにコンカフェ、営業しない?」

「どうしてですか?コンセプトカフェを営業しなくてもアイドルはできると思うのですが。」

「いや、そうなんだけどね?でも、ファンのみんながこうやって推しと触れ合える場所を作ってあげる事でファンのみんなはお金を落としてくれる。私達はお金が稼げて嬉しい。Win-Winじゃない?」

「やけにお金のことばっかりですね。もしかして、その人にそういう風に吹き込まれたんでしょう?」

千佳さんは図星を突かれたような顔をしていた。

「はぁ…やっぱり。あんまりお金に執着したくないんですよ。でもアイデア自体は悪くないと思います。」

「でしょ!じゃあ早速下見行こ!お父さ〜ん!やっぱコーヒーと紅茶キャンセルで!」

千佳さんは小躍りしつつ立ち上がり、店の外へ向かう。

「すみません。紅茶ってまだあります?」

「ええ、もちろんです。」

僕は千佳さんの様子を尻目にしばしのティータイムを楽しんだ。

店から出る際に、太一さんに軽く会釈をする。

「乃木さん、千佳が迷惑掛けると思いますが、よろしく頼みます。」

「はい、お任せください。太一さん。」

そう言って僕は店を出た。

駒沢大学駅から電車に揺られ40分、僕達は秋葉原駅に到着した。

下見へ向かう途中、僕はアイドルの事とは全く関係ないが、気になることが1つだけあったので聞いてみることにした。

「そういえば、店には何回も行ってるのに、千佳さんの姿を1回も見たことないんですけど、いつ店を手伝ってるんですか?」

「私は大体休みの日以外の日中店手伝ってるかな。」

「なるほど、だから見たことなかったんですね。」

「健人くんって大体何時頃うち来てたの?」

「僕は大体レッスン終わりに来てたから、閉店間際とか、そのくらいですね。」

「なるほど〜」

数秒の沈黙の後、千佳さんが口を開いた。

「健人くん、メンバーの目星はついてるの?」

「実は、すごく印象的な子を見かけたんです。高校生くらいの。」

「声をかけてみた?」

「それが...この格好で近づいたら『怪しい人、おじさん』って逃げられちゃって」

そういうと千佳さんは出会ってから1番の声で笑った。

「そりゃそうでしょ!この見た目だし、しかも10代から見た23歳とかおじさ…ん?そんなこと言ったら26の私はおばあさん…?」

勝手に人のことをバカにして勝手に自滅していく姿は見ていてすごく面白かったが、ここで笑ったら品性を疑う。だから、とりあえず慰めの言葉をかけることにした。

「まあ、僕的には千佳さんは26歳には見えませんよ。何なら19歳くらいにも見えますし。」

「推しに慰められて嬉しい反面、なんか情けないなぁ〜…」

そんなことを話していると目的地の雑居ビルの前に到着。秋葉原駅(あきはばらえき)からは少し離れた所にあり、少し立地が悪いと感じた。

ビルは5階建てで、2階のカフェ以外何もテナントが入っていないようなビルだった。

「あれ、そこに誰かいる。」

ビルのエレベーターの隣にあるフロア案内板の閉店の張り紙をまじまじと見つめている女性がいた。

「あの、そこ閉店していますよ。」

僕が話しかけると、女性が驚きながらこっちに振り返ってきた。

刹那、僕の目が奪われた。

アイドルには普通の子担当、クール担当、元気系担当が必要と前に言ったけど、それと同じくらいアイドルには『ビジュアル担当』というものが必要というほどではないけど、大抵のアイドルグループに1人はいる。

この人はチノパンにセーター、そしてニット帽を被ってるだけなのに、そのビジュアル担当に相応しく思える。

「あ…うっ…」

千佳さんや、志歩や、この前裏渋谷の街で出会ったの女の子も滅茶苦茶可愛い。だが、絶世の美女に出会ってしまうと口は開かないものなのだと今わかった。

彼女は僕に微笑みかける。思わず胸を奪われてしまいそうな笑みだ。

この人はこのビルの関係者なのか、それともカフェの関係者なのか。どっちにしても我々の仲間に加えたい。

「そうけ。ありがとうごいす。」

「……ん?」

僕は自分の耳を疑った。

(あれ、この人今何語を喋ったんだ?)

理解も追いついていなかった。

「ここのお店がうめーって聞いたんだけんど、閉店してるのならしょんねえね。」

(あれ?この人山梨県の人なのでは?)

言葉を聞いているうちに、父の喋り方に似ていることに気付く。父は山梨出身で、この喋り方をしていた気がする。

そんなことより、外の空気が冷たすぎる。一刻も早く中に入りたい。

「とりあえずこんな所で立ち話も何ですし、上、上がりません?」

そう言って僕達3人はエレベーターに乗り込み、2階へ向かうことにした。

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