第5-2話
俺は上原優太。アイドルグループ「Emma」のメンバーとして、これまで舞台に立ってきた。
だが今、俺達は奈落の底に突き落とされている。スマートフォンの画面に踊る文字が、俺達の現実を突きつけている。
なぜなら、
「Emma、メインボーカル脱退の影響が露骨すぎる件」
「生歌のクオリティが明らかに落ちてる...残念」
「やっぱり乃木くんの歌唱力に依存してたんだな」
コメント欄にはもっと辛辣な言葉が並んでいたが、目を逸らした。
確かにこの前は歌も踊りも本調子じゃなかった。健人のハーモニーがないと、こんなにも空虚に感じるものなのか。
認めたくないが、俺の中で小さな声がささやいている。
(あいつがいなければ、俺達は何者でもないのではないか?)
「お前ら〜…」
今にも消え入りそうな声で社長が入ってきた。
同じようなことが3日連続であった俺達にはもう分かっていた。社長が悪い知らせを持ってきたのだと。
「社長、どうしたんですか。」
「赤坂…Emmaの4人で抑えてた野外フェスなんだが…別のグループの枠になった…」
俺は何も驚かなかった。他のみんなも同じような感じだった。
3日連続で同じようなことがあったからだ。
「最近、Emmaの仕事が減っていってるよな。」
「それは、俺達のせいだって言うんですか?」
「おい待て、そんなに怒るな。事実だろう。大体、歌だけじゃもう通用しない。分かるだろう?今の時代、バラエティで勝負するしかないんだ。赤坂、湯島は既にバラエティアイドルとして着々と地位を獲得していってる。それに比べて、綾瀬、上原。お前らはどうなんだ?歌も踊りも弱い、バラエティも弱い。何ができるんだ?そろそろ、NG解禁するしかなくなるぞ。」
「え…まさか…?」
「綾瀬、お前はグラビア方面に舵を切る。水着撮影から始めて、徐々にセクシー路線だ。上原、お前は格闘技バラエティに出演してもらう。多少の怪我は覚悟してもらうぞ。」
社長の言葉に、俺達の血の気が引いた。これは最後通告だった。
従うか、グループを去るか。選択肢は二つに一つ。
「これが嫌なら、契約解除も考えてもらう。ただし、違約金は発生するがな。」
社長はそれだけ言い残すと、重い足音を響かせて部屋を出て行ってしまった。
彩葉がどこかに連絡しようとスマホを立ち上げた。
「彩葉...まさか健人に?」
俺の声に、彩葉の手が止まった。
「でも、優太...私達、どうすればいいの?」
「あいつに頼るのは違う。俺たちで這い上がろう。」
俺は彩葉のスマホを静かに閉じさせた。プライドの問題じゃない。
これは俺達の戦いだ。
「もう一度、最初からやり直そう。」
俺は立ち上がり、練習室の鏡に向き合った。そこに映る自分の顔は疲れ切っていたが、瞳だけは諦めていなかった。
彩葉も無言で立ち上がる。静寂を破って流れ始めたのは、俺たちが何度も練習してきた楽曲だった。
健人のボーカルパートが空白のまま響く音楽に、俺達は身を委ねる。健人なしでも、俺達には俺達の可能性があるはずだ。
今はまだ見えない。でも、きっと見つけられる。
俺達だけの輝きを。
だが、世の中そう上手くはいかないことをこの時の俺達はまだ知らなかった。




