第11話
2024年12月26日、クリスマスの余韻も冷めやらぬ中、一昨日、玲奈ちゃんと初歌ちゃんとの話し合いを終えて、今日はついに7人全員での顔合わせの日だ。
「今日は新メンバーを2人紹介します」
志歩が小さくため息をつきながら言った。
「またスカウトしたの?今度はどこで見つけてきたの…」
「まあまあ、今回はスカウトしたんじゃないんだ。それじゃあ入って、どうぞ」
僕は玲奈ちゃんと初歌ちゃんに入るよう促す。2人が入ると自己紹介を始めた。
「赤坂初歌です。もう一度、音楽をやりたくて戻ってきました」
初歌ちゃんの声には、半年前にはなかった決意が込められている。『Emma』時代の彼女は、いつも不安そうだった。
「湯島玲奈です。健人と一緒に、新しいスタートを切りたいんです」
玲奈ちゃんの声には、一昨日の謝罪を経て吹っ切れた明るさがあった。
「え…嘘…!?初歌ちゃんに玲奈ちゃん…!?」
千佳が息を呑む。憧れの『Emma』のメンバーが目の前にいる。ファンとして応援していた2人と、今度は仲間として活動することになるなんて、夢のような話だ。
「よ、よろしくお願いします!」
千佳の声が上ずっている。彼女なりに緊張しているのがよく分かる。
千佳が2人に夢中になっているのを見て、僕は少し拗ねてみせた。
「千佳、確か最初に会った時は僕が一番好きって言ってなかった?」
「も〜、健人くんったら!それとこれとは別!初歌ちゃんの『約束の歌』、私何十回聞いたと思ってるの?」
千佳が頬を赤らめながら反論する。こういう他愛もないやり取りができる雰囲気になったのも、良い変化だ。
「はいはい、分かりました」
何はともあれ、これでメンバーが全員揃った。いよいよ、『Emma』とは違う新アイドルグループの活動が始まる実感が湧いてきた。
「それじゃあ、今日は顔合わせも兼ねて、衣装の確認をしましょうか」
僕がそう提案すると、千佳が自然にまとめ役を買って出る。
「みんな衣装のサイズ見て〜!」
170cmの長身を活かして高い棚から衣装を取り出している彼女を見ていると、やはりこのグループには欠かせない存在だと実感する。
そして、1番最初に衣装を見にやってきたのは志歩だった。
「うわ!スカートみじか〜!」
志歩が衣装を体に当てて驚く。確かに、段ボールの中から出てきたその衣装は、太ももの大部分が露出してしまうような丈のミニスカートだった。
「このスカート、短すぎない?」
志歩が心配そうに言う。
「アイドルの衣装って、だいたいこんなもんじゃないのか?」
ルナが実用的に答える。
「でも踊る時、気をつけないと…」
「みんなどうせ下に何か履くだろ?」
ルナの天然な発言に、一同が苦笑する。
「この衣装、めちゃくちゃ可愛い、ね」
綾乃さんが衣装を手に取り、目を輝かせる。アイドルへの憧れを抱き続けてきた彼女にとって、こうした瞬間は特別なのだろう。
一方で、
「これを、私が着るんですか…?」
と戸惑っているのは菖蒲さんだ。鏡の前で衣装を合わせながら、まだアイドルとしての自分を受け入れきれずにいるようだった。
「久しぶりだね、こうして一緒にいるの」
玲奈ちゃんがしみじみと言う。その笑顔には、もう遠慮や気遣いはない。
「健人がリーダーじゃなくて、プロデューサーって不思議な感じ」
初歌ちゃんが笑う。2人とは一昨日の帰り道に話したおかげで、自然体で接することができるようになった。
「じゃあ、みんな着替えてみようか」
「それじゃあ、終わったら呼んでください」
千佳のサインを見て僕は隣の部屋でスケジュール表を作ろうとパソコンを立ち上げた。
隣室から7人の話し声が聞こえてくる。しばらくすると、困ったような声が聞こえてきた。
「綾乃ちゃん、サイズ大丈夫?」
千佳が心配そうに声をかける。
「ちょっときつい、かも」
綾乃さんが困ったような声を出す。
さすがに心配になって、僕は隣室のドアに近づいた。
「大丈夫ですか?何かあったんですか?」
「えっと、ちょっとまだ来ないで!流石に…」
「私は、大丈夫」
どうやら綾乃さんに何か問題が起きているらしい。
「でも見てもらったほうが早いでしょ。健人くん!一回来て!」
千佳に言われて着替え部屋に入る。
「失礼します」
部屋に入ると、問題は一目瞭然だった。177cmの綾乃さんには、Lサイズでも明らかに小さすぎる。スカートの丈も袖の長さも足りていない。
「やはり特注が必要ですね。既製品では限界があります」
僕は冷静に状況を判断する。『Emma』時代も、メンバーの体型に合わせた調整は頻繁にあった。
『Emma』時代はいろんな人に守られる側だった僕が、今度は盾になる番。二度と、誰かに理不尽な思いをさせるわけにはいかない。
衣装の問題は解決できる。大切なのは、こうして7人が同じ目標に向かって歩み始めることができたということだ。
『Emma』の時とは立場も環境も違うが、音楽への想いは変わらない。今度こそ、最後まで一緒に駆け抜けていこう。




